飲酒厳禁!観客数95%減の「感染対策競馬」 大歓声がなくても競馬は楽しめる

コロナ感染対策を理由に、各種イベントやスポーツの多くが無観客となった2020年。ギャンブルながら国内トップクラスの観客動員を誇るJRA(日本中央競馬会)も、原則無観客での競馬開催を余儀なくされた。

感染状況が落ち着くにつれて観客の入場は再開されたが、2021年も、緊急事態宣言などを踏まえて、無観客開催となることがある。たとえ観客が入場できる場合でも、事前に抽選を行って当選した人だけが観戦できる仕組みが取られている。

そんななか、中央競馬は毎週開催されているが、春は大レースが続く季節だ。4月18日には、千葉県の中山競馬場で、牡馬(ぼば/オス馬)クラシックレースの皐月賞が開催された。クラシックレースというのは、競馬の世界で格式が高いとされる、3歳馬を対象とした重要レースで、皐月賞はその第1弾にあたる。

今年の皐月賞は感染対策のため、発売席数を2542席に制限して実施された。コロナ拡大前の2019年の同レースでは5万752人を動員した(日刊スポーツ)というから、観客数は約95%減となる。

今回、筆者は幸運にも座席抽選に当選し、2019年以来2年ぶりの皐月賞現地観戦が実現した。そこで、2019年の同レースと比較しつつ、2021年の「感染対策競馬」の様子をレポートする。

倍率5割を上回る競争率

まず、前提として現在の競馬場に入場するための「抽選システム」に触れておきたい。通常、競馬場には自由席と指定席がある。コロナ前も、人気レースの指定席については事前の抽選が必要だったが、それ以外は当日の先着順で利用することができた。

競馬場の自由席はその名の通り、席が空いていれば、誰でも自由に座ることができたのである。

しかし、コロナ禍で「密」を防ぐために、この自由席は「座席を間引いたうえでの指定席(スマートシート)」に様変わりしている。つまり、すべての座席が指定席となり、当日ふらっと競馬場を訪れても入場できないシステムになっている。

指定席はすべて、事前の「ネット予約」で抽選に申し込む必要がある。抽選はJRAが発行しているクレジットカードの会員のみが応募できる「先行抽選」と、一般的なクレジットカードを有している人が応募できる「一般抽選」に分かれる。

年会費のかかるJRAカードを持っている人は限られるので、大半の人は一般抽選を利用することになる。

ところが、この一般抽選がやっかいだ。ただでさえ座席数が限られている状況で、先行抽選分もすでに埋まっているため、皐月賞などの注目度が高いレースでは応募が殺到してしまう。

筆者が皐月賞当日の抽選申し込み状況を確認すると、普段から指定席として売られている部分は、車いす指定席を除いて5倍以上の競争率。スマートシート(旧自由席)もほぼ5倍を超えていた。

以上の理由から、人気レースを見るために、カップルや家族など複数の人数で入場することは極めて困難だといえよう。筆者も妻と一緒に抽選に申し込んだが、当選したのは筆者一人だけだった。

徹底した感染対策

4月18日。いよいよ皐月賞の観戦当日を迎えたが、競馬場に入る前から「感染対策競馬」の違和感はあった。

皐月賞クラスの人気レースだと、中山競馬場に徒歩でアクセスできるJR武蔵野線の船橋法典駅などは、競馬場へ向かう人たちで大混雑しているのが通例だ。しかし、今回は入場者数を大幅に制限しているため、そうした雰囲気はまるで感じられなかった。

競馬場の入場に際しては、検温と手荷物検査が必須で、入場経路も厳格に定められている。事前にスマートフォンで表示した入場券のQRコードを係員に見せると、入場資格を示すリストバンドを渡され、腕に装着することを求められた。

コンサートや遊園地なら違和感のないこのプロセスも、競馬場への入場と考えると不思議な気持ちだ。

こうして競馬場に入ると、まず一番に驚かされたのが「人気のなさ」。通路や広場は閑散としており、とても皐月賞デーとは思えない。

券売機も間引かれており、人が並ばないための対策が講じられている。例年であれば、皐月賞のレース直前には券売機の前に長蛇の列ができる。そのことを考えると、入場者数の少なさを実感する。

そして、自身の指定席へ向かうためにメインスタンドに出ると、これまた静けさに驚かされる。抽選がネットで実施されているためなのか、若い一人客が多く、高齢者やファミリーは皆無だった。

座席は隣との間が3席分あけられており、その間は座ることができない。パドックやスタンド前に行くと、立ち見客の間隔を確保するためにテープが貼られていた。密になりやすいゴール前は、あらかじめ観客が近づけないよう仕切られている。職員も絶えず、「密にならないように」「大きな声での会話を控えて」と呼びかけたり、場内の消毒をしたりしていた。

飲酒厳禁の競馬場は“シャッター街”

これだけでも違和感の多い競馬観戦だが、通常との最大の違いは「飲酒厳禁」だ。場内のいたるところに「飲酒は控えてください」と注意書きがなされているほか、売店でも酒類の販売は一切行われていない。

競馬場に行ったことがある人ならばご存知だろうが、競馬と飲酒は切っても切り離せない関係にある。

従来はJRAも飲酒を禁止するどころか、一つの醍醐味としてプッシュしていた。場内で競馬にちなんだオリジナルカクテルが販売されていたほどだ。

筆者はこの「飲酒禁止の規則」を知らなかったため、酒類を買い込んで競馬場に向かってしまった。そのため、現地で「飲酒禁止」を知ったときはかなり驚いた。

アルコール以外の飲食は禁止されていなかったが、場内のレストラン街や飲食店は大半が休業状態にあり、シャッター街の様相を呈していた。観客数の制限や飲酒禁止によって、競馬場内の飲食店も大きな打撃を受けていることがよくわかった。

普段はお昼時だとかなり混雑する場所だけに、まるで「閉業した競馬場」に迷い込んだかのような気持ちになった。

小鳥のさえずりが聞こえる皐月賞

こうした違和感の一方、レース自体はなんの問題もなく淡々と進行していく。しかし、「声を控えて」という指示があるため、競馬につきものの歓声や罵声がほぼ聞こえないレースになっていた。

メインレースである皐月賞の開催が近づくと、場内の観客の数も多少増えていった。パドックはそれなりに混雑していたが、それでも普段の賑わいには遠く及ばない。

本来ならば場内が熱気に包まれる出走馬の入場やファンファーレの演奏のときも、とても皐月賞とは思えないほど静かだった。全国の競馬ファンが注目する大レースの直前にもかかわらず、小鳥のさえずりが聞こえ、人波もなくゆったりしていたほどだ。

レースでは戦前から1番人気に支持されていたエフフォーリアが横綱競馬で勝利をつかんだが、やはり歓声はほとんど聞こえない。騎乗した横山武史騎手はこの勝利がG1(最も格式の高いレース)の初勝利であり、例年なら「おめでとう!」と大きな声が上がる場面にもかかわらずだ。

そして、競馬が終わっても異変は続く。いつもならば人気レースの中山競馬場からの帰路は大混雑となり、なかなか電車に乗ることができない。そのため、徒歩10分程度の船橋法典駅で電車に乗るより、少し離れた西船橋駅まで30分歩いたほうが早く帰れることもあるほどだ。

しかし、今回は観客数が制限されているため帰路の混雑は皆無。筆者は皐月賞後の最終レースまで観戦して帰宅したが、皐月賞直後に帰宅しても混雑に巻き込まれることはなかっただろう。

なお、余談だが、筆者の馬券は終日絶好調で、皐月賞を含め大勝ちして帰ることができた。普段は途中から酔いが回って予想どころではなくなってしまうので、これも禁酒の利点といえるかもしれない。

一人でまったり人気レースを見れるという利点も

以上が、感染対策の実施中に皐月賞を観戦した感想となる。人気のない皐月賞はなんともいえない寂しさが漂っていたが、決して悪いことばかりではない。

とにかく人が少ないので混雑は避けられるし、早朝に家を出なくても席は確保されている。飲酒禁止により、酔っ払いもいなければ、集団で騒ぎ、罵声をあびせる競馬ファンもいない。そのため、晴れやかな気持ちで競馬を鑑賞できるのも利点だ。

そもそも、元はといえば競馬は一人で賭けて、一人で楽しむ娯楽だったはず。競馬人気の過熱とともにそうした色彩は失われていったが、現在の姿は、ある意味で競馬の原点に立ち返っているといえるのかもしれない。

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齊藤颯人 (さいとう・はやと)

フリーライター/編集者。上智大学文学部史学科在学中に学生ライターになり、大学卒業後は新卒フリーライターとして活動中。歴史やフリーランス、旅行記事などを中心に執筆し、フリーランスメディアで編集業も経験。ひたすらぼっちの人生を過ごしてきたので、「ひとりを楽しむ」ことには自信あり。

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