飛躍的に進化する“紙パックの日本酒” 「これはうまい!」と通も唸った
「いまどきの紙パック酒よりおいしい地酒なんてあるわけ?」
数年前、こんな書き込みを匿名掲示板で見かけました。そのときは何をおかしな比較をしているのかと、まったく気にとめていなかったのです。
でも、最近になってDANRO編集部から「最近の紙パック酒って侮れないらしいですよ」と聞き、好奇心を刺激されました。これは確かめてみるしかない。そこでお酒に一家言ある3人に「紙パック酒の飲み比べ」をしてもらいました。
今回用意した紙パック酒は、白鶴酒造「サケパック まる」(大手ネット通販で900ml・625円)、月桂冠「山田錦純米パック」(同・758円)、松竹梅酒造「天 極上プレミアム」(同2L・1200円)、そして菊正宗酒造「しぼりたてギンパック」(同900ml・768円)の4本です。
すっきりとした飲み口の「山田錦純米」
ひとりめのご意見番は、立ち食いそばを食べ歩く「東京ソバット団」の団長・本橋隆司さん。「立ち食いそば大図鑑(首都圏編)」(standards刊)などの著書もあります。
都内の庶民的な居酒屋にもくわしく、毎日の晩酌を欠かすことはありません。日本酒は吟醸酒などの特定名称酒ではなく「普通酒が好き」とのこと。この企画にピッタリではありませんか。
普段は行きつけの酒屋さんで四合瓶の地酒を買っているので、紙パック酒はあまり飲まないとか。好きな飲み方は「お酒の香りを引き立たせる」お燗ですが、猛暑ということもあり、冷や(常温)にしました。
本橋さんが最初に「これは飲みやすいですね」と漏らしたのは「山田錦純米」。飲み口がすっきりしているうえに、味にしっかりとした芯や適度な重みもあるのだそうです。
「僕は毎晩食事のときにお酒を飲むんですが、吟醸酒だと香りが強くて食事を邪魔しちゃうんですね。こういう辛口のお酒はつまみにも合うし、ずっと飲んでいても飲み疲れしない。毎日のお酒にはいいんじゃないかな」
甘みと旨味のバランスがいい「まる」
それから本橋さんは、バーテンダーに氷を注文。「天 大吟醸ブレンド」が注がれたグラスに、小さな氷を3つ入れました。
「日本酒は、夏はロックもいい。これ、氷を入れるとすっきりとした酸(さん。すっぱさのこと)が立って、ワインみたいに飲めますよ」
もうひとりのご意見番で、DANROコラムニストの氏家英男さんも「ロックいいですね」との感想。「会食で月に数回程度。家ではほとんど飲まない」という、本橋さんとは対照的な飲み方です。
酒造会社を親戚に持つ氏家さんが推したのは「まる」。普段は吟醸酒を中心に飲んでいるとのことですが、醸造用アルコールも糖類も酸味料も入った紙パックをひとくち飲んで「あれ、これは結構おいしいですね」と唸ります。
「甘みと旨味のバランスがすごくいい。繊細に計算されていますね。軽快な感じで、いやな苦味もなく心地よく飲めます。昔の安酒のイメージで飲んだのですが、いい意味で期待を裏切られました」
紙パック酒はパッケージが「あまりに庶民的すぎる(笑)」ので、これまで関心を持ったことがなかったそうですが、お酒としては「結構高いレベルまで行っている。安定した味のお酒を毎日飲みたい人に支えられているんでしょうね」とのこと。
本橋さんも「若い人が手に取りやすいかっこいいパッケージにしたら、飲む人がもっと増えるかも」という感想でした。
後で調べたところ、「まる」は国際的な日本酒品評会であるIWC2019のSAKE部門・普通酒カテゴリーでシルバーメダルを受賞していました。「これは冷やしてもお燗をしてもよさそうですよね」という本橋さんに、氏家さんもうなずいていました。
香りがいい「しぼりたてギンパック」に驚嘆
3人めのご意見番は、初代Mr.SAKEの称号を持つイケメン、橋野元樹さん。東京・五反田の日本酒専門居酒屋「SAKE story」の店主です。
橋野さんは、なんと食の月刊誌「dancyu(ダンチュウ)」(ダイヤモンド社刊)の日本酒特集にも登場した人。吟醸酒や普通酒の区別なく、美味しいお酒なら忌憚なく評価してくれると期待して、開店前のお店にうかがいました。
今回はお酒を冷やして飲み比べてもらうために、先に紹介した3種に加えて菊正宗「しぼりたてギンパック」を追加。橋野さんは先入観なしに判断するために、なんと銘柄を隠した「ブラインド・テイスティング」を提案し、ひとつひとつを真剣に味わってくれました。
4つをひと通り飲んだあと、「よく冷やしたらコレですかね」と評したのは「まる」でした。正解を明かすと、意外な様子で驚いていました。
「初めて飲んだのですが、味の輪郭がしっかりしていますよね。おそらくいろんな味のお酒をブレンドしているのだと思いますが、バランスがいいです」
ウイスキーの「ブレンデッド」やワインの「アッサンブラージュ」のように、実は日本酒においても「ブレンド」は一般的かつ重要なことなのだとか。こういうところも、大手メーカーの腕の見せどころなのかもしれません。
そして「そこそこの温度でもおいしい」と評したのが「しぼりたてギンパック」。本橋さんや氏家さんも飲んだことがあり、高く評価をしていたお酒です。
「香りが一番いいのは、このお酒ですね。冷やして飲むのがおいしいとは思いますが、温度が少し上がってもおいしいです。醸造用アルコールを入れているとのことですが、これも自社独自の製法でこだわっているのではないでしょうか」
今夜の晩酌は紙パック酒でいかが
本橋さんと同様、橋野さんもパッケージが気になったようです。特に「しぼりたてギンパック」は、従来のお酒好きがこだわるお米の種類や特定名称などをあえて外し、銀と白を基調としたシンプルなものにしたところに「メーカーさんのただならぬチャレンジ精神」を感じたそうです。
「女の子の部屋の冷蔵庫にあっても、スタイリッシュな気がしますね(笑)」
この「しぼりたてギンパック」は、今年7月にロンドンで開催されたIWC2019のSAKE部門で、優れたコストパフォーマンスを発揮した酒に与えられる「グレートバリュー・サケ」の中から選ばれる最優秀賞「IWC Great Value Champion Sake 2019」と、普通酒部門ゴールドメダルの最高位「トロフィー」をダブル受賞しています。
海外の審査員は、このお酒をこんな風に表現して称賛しています。
「エレガントなスタイルの普通酒。口当たりは赤いリンゴの皮のように滑らかで柔らかく、ヨーグルトのようなクリーミーさが特長。香りはグレープフルーツやメロンの豊かな果実の香りと、白胡椒のような風味も。味わいは軽やかで柔らか、クリアだが、長い余韻を楽しめる」
お酒の味の種類は、重いものや軽いもの、香りの強いものや旨味のあるものなど、さまざま。おつまみとの相性もあるし、飲み手の好みもさまざまで、どれが上か下かなどと言うことはできません。
それでも、安く酔うためのお酒の代表と思われていた紙パック酒業界で、有名メーカーがしのぎを削っており、味わいのクオリティが上がっていることも事実。左党のみなさん、たまには紙パック酒を食卓にあげてみてはいかがでしょうか?