おひとりさまが楽しく過ごすコツ…上野千鶴子さん「さみしいと言えることが重要」

「おひとりさま」の第一人者として知られる上野千鶴子さん(撮影・齋藤大輔)
「おひとりさま」の第一人者として知られる上野千鶴子さん(撮影・齋藤大輔)

社会学者の上野千鶴子さんといえば、独居高齢者に注目した著書『おひとりさまの老後』(法研)がベストセラーになるなど、「おひとりさま」の第一人者です。その出版から約10年、いまの「おひとりさま」を取り巻く環境をどう見ているのか、話を聞きました。(取材・岡見理沙)

プロフィール:うえの・ちづこ 1948年生まれ。認定NPO法人WAN理事長。東京大学名誉教授。女性学で知られ、介護や終末期の問題にも、研究対象を広げている。著書に、『男おひとりさま道』『上野千鶴子が聞く 小笠原先生、ひとりで家で死ねますか?』など。

「おひとりさま」はネーミングの勝利

ーー「おひとりさま」というと、上野千鶴子さんの顔が浮かびます。

上野:私より先に、立派な「おひとりさま」がいらっしゃいますよ。女性参政権の獲得に尽くした市川房枝先生や、「おたかさん」として知られた旧社会党委員長を務めた土井たか子さん。シングル女性が大変な差別を受けたあの時代から比べると、いい時代になりました。

「おひとりさま」という言葉はもともと、ジャーナリストの故・岩下久美子さんが提唱したものです。「おひとりさま」はなんと商標登録してあって、私の本のタイトル『おひとりさまの老後』が抵触するかと思いましたが、老後をつけた例はないということで、クレームはいただきませんでした(笑)。

「おひとりさま」はネーミングの勝利です。「お」と「さま」をつけるだけでイメージは変わります。酒井順子さんは、30代以上の未婚女性を自虐的に「負け犬」と表現しましたが、本人はそう思っていなくてもネガティブですよね。

市場は「おひとりさま」を断れない

インタビューに答える上野千鶴子さん

ーー最近は、「ひとり焼き肉」をうたった飲食店なども出てきました。時代が追いついたのでしょうか?

上野:遅いよ(笑)。やっとですね。

湯山玲子さんの『女ひとり寿司』(洋泉社)はお読みになりましたか? あれは面白いですよ。幻冬舎文庫版の解説は私が書きました。「おひとりさま」は、「おひとりさま、お席にご案内します」という飲食店のサービス用語から発生した言葉です。女性一人の外食が増えるなかで、最もハードルが高いお店はどこか分かりますか? 名店寿司屋のカウンターです。秘境は海外の辺境にだけあるわけじゃない、都会のど真ん中にある、寿司屋という秘境探検にのりだした。雑誌の連載が本になりました。

――京都観光ガイドも「おひとりさま」をテーマに特集したものが出版されています。ブームのようにも見えます。

上野:ブームというより、マーケットがもうおひとりさまを無視できなくなったんでしょう。カップルじゃないと受け入れないとか、団体じゃないと受け入れないとか、言えなくなっています。

マーケティングで面白い仕事をした人がいて、日本文化の越境消費を研究した女性がいます。その人によると、プーケットやバリの高級ホテルに、ツインルーム(ベッドが2台の部屋)を持ち込んだのは、日本の女子たちだといいます。一人で高級リゾートには行かないけれど、カップルでも行かない。そのため、女同士で行くようになりました。

それまで高級リゾートは、欧米人カップル向けのダブルベッドルーム(ダブルベッドが1台の部屋)が基本でした。でも、日本の女性観光客は、女2人でダブルベッドはいやだと。日本の女性観光客は上客ですから、最初はバカにしていた現地のリゾートホテルも断れなくなった。そうやってニーズが増えてくると、サプライ(供給側)が変わらざるをえない。日本女性の欲望が世界経済に影響した例の一つです。コンビニだって、お総菜がおひとりさまパッケージになりました。おひとりさまのニーズがマーケットを変えたんです。

資料に手を置く上野千鶴子さん

おひとりさまの男女の違いは

ーーおひとりさまといっても、男性と女性ではメンタル面で違いがありそうです。

上野:ものすごく違いがあります。男性は精神的に弱い、本当にもろいです。一番問題なのは、SOSが言えない、弱音が吐けないこと。思い浮かぶのは、元プロ野球選手の清原和博さんです。弱音が吐けなくて、孤独と寂寥から覚醒剤に手を出してしまった。

男性は、特に非婚シングルで過ごしてきた人たちには、お友達がいない人が多いです。自分のその状況を人に言いたくないし、同じ状況の人と会いたくない(笑)。だから助け合いもしない。困った人同士が助け合えばいいのに。女性は、「おひとりさま」同士、お友達になるじゃない。

うちね、女子会をよくやるのよ。自宅に10人ほど座れる円卓があって、女子会にいいでしょ。鍋にぴったり。女子会もいろいろメンツが違うと、「熟女子会」とか「毒女子会」とかできる。女性はお互いに人間関係をつくるし、求めるし、メンテナンスもするし、気配りするし。楽しいです。

ーーでは、女性のおひとりさまは、このままで安泰でしょうか?

上野:いつも聞いているんだけど、あなた、自宅の鍵を預ける相手はいる?

ーーいないです…。

上野:万が一の時に対する危機感がないからでしょ。自宅の鍵を預けられるような人を、一人といわず何人か持っていないと。SNSでいくら、「いいね」ボタン押してもらっても、何かあったときに助けてもらえません。

女性・男性のおひとりさまについて語る上野千鶴子さん

ーー一方で、男性のおひとりさまが楽しく過ごすためにはどうしたらいいんでしょう?

上野:『男おひとりさま道』に書きましたが、その秘訣は「女友達」が多いこと。つくづく思いますが、男同士は助け合わないし、弱音を吐けない。だけど、女には弱音を吐けるし、助けてもらえる。高齢の独居男性で女友達の多い男性は、機嫌よく過ごしておられます。

ただし、女友達とは一対一ではなく、グループ交際をしたほうがよいです。なぜかというと、誰か一人に下心を持つと、他の女は全部ひいてしまうから。さらに、誰か一人に絞ると、その人とはいつかまた、「妻と死別」するような境遇になります。

ーーいまから女性の友達をつくれるものでしょうか?

上野:機嫌のよい老後を過ごしたいなら、女性が多い集まりに行って、誰にともなく、でも聞こえるように、次の一言を言ってください。

「ぼく、さみしいねん」

さみしいって言えることが重要。これが言えたら、女友達ができます。男性は「さみしい」となかなか言えませんが、言えたら、これまでの私の経験では、女の人は大概、かまってくれます(笑)。

笑顔の上野千鶴子さん

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