集めた他人の手帳は1200冊 「手帳類収集家」が垣間見る人生の断片

手帳類収集家の志良堂正史さん(撮影・中村英史)

他人の使用済みの手帳を収集している男性がいます。「手帳類収集家」を名乗る志良堂正史さん(38)です。本業のゲームプログラマーのかたわら、2014年から他人が記した手帳を集め始め、これまでに買い取りと寄贈で1200冊以上を手に入れました。その一部は、アートギャラリー「参宮橋Picaresque」にある「手帳類図書室」に展示され、注目を集めています。

そこにはどんなことが、どのように記録されているのでしょうか。膨大なコレクションの中から、その人なりの「ひとりの世界」をもつ手帳を紹介してもらいました。

人は過去の清算をしたいとき手帳を手放す

ーー何を求めて、手帳を集め始めたんですか?

志良堂:東宏治さんの『思考の手帖』を読んだのをきっかけに、人の思考やアイデアを記録している手帳を読みたいと思ったんです。ところが、いざ集めてみると「手帳」とは、ほとんどの人にとってはスケジュール帳や日記を意味することがわかりました。思考の小さな記録だと思っていたものは、もっと雑然と長く書かれたものだったわけですが、それはそれで予想していなかった面白さがありました。

ーーどんな人が、手帳を売ってくれたり、寄贈してくれたりするんですか?

志良堂:僕のところに来る手帳は、「持ち主が手放せるもの」だけです。ほとんどの人は、自分の記録を手放すことはありませんから。手放すにはいろいろな理由があります。僕が集め始めたときは、このプロジェクトを面白がってくれた知り合いが提供してくれるというのが大半でした。でも最近は、引越しや結婚など、過去の清算をするときに提供していただけることが多くなりました。あとは、自分の記録を誰かに見てほしいと思っている人が送ってくれます。

ーー手帳を引き取るとき、提供してくれた人がどんな人なのか、確認するんですか?

志良堂:誰の手帳かというのは、ちゃんと確認していません。買い取りや寄贈のためのやり取りのなかでわかってくることもありますが、自分からいろいろ聞くことはほとんどありません。手帳に記録されたもの以外には立ち入らないスタンスです。書かれたものがすべてで、それを読んだり解釈したりする楽しさを重視しているからです。

ただ、まったく情報がないと、書かれたものを判断するきっかけがつかめないという人が多いようです。そこで展示用に、ミステリー小説の冒頭に書かれている「登場人物紹介」くらいのちょっとした情報はまとめています。例えば「男性・Iさん・20代・大学生」というように。ただ、それはあくまでも手帳を読んだ僕の予想や主観でしかないので、必ずしも正しいものではありません。

約20年に渡り日々の思いをつづったノート

ーー志良堂さんが手に入れた手帳の中で、「孤独を感じる」ものはありますか?

志良堂:これは今年買い取った約40冊のノートに書かれた日記の一部です。文章の端々から孤独を感じます。持ち主とやりとりしたメールには、「長年書いていた日記をゴミとして捨てるより、僕の約20年分くらいの気持ちや考えをどこかの誰かが見て、何かを感じてくれたら」と書いてありました。

1995年から2015年くらいまでの日記ですね。読んでみたところ、書いたのは僕とそんなに年齢が変わらない男性だとみています。ゲームのことなどが書いてあって、「あー、僕も同じゲームをやったな」と思ったことから、同じ世代だと感じました。職業はいまのところわかりません。これからもっと読み込んで想像したいです。

2004年のノート。志良堂さんの見立てでは、日記の持ち主は当時25歳くらい

ーーノートを開くと、罫線(けいせん)に関係なく、自由に書き込んでいますね。

志良堂:罫線を気にせず書き込むのは、僕がけっこう好きなスタイルです。フォーマットを完全に無視した書き方をしているものには、いいものが多い。何か自分で模索し、開拓していくような意志を感じます。書き始めた当初は、だらだらと長く書いていましたが、だんだんと1ページに数行くらいの書き込みになっていきます。ノートの中にツイートを書き込むような形です。

SNSでの書き込みは、どうしても周りの評価を気にしてしまうもの、また評価されてしまうものなので、周りの目に慣らされてしまったり、制約ができてしまいます。でもノートなら、好きに書くことができる。だからいきなり英語で書いてあるページもあります。これをSNSでやったら、「どうしたんだ?」とすかさずツッコまれますよね。他にも「ついに時はきた」などと書かれていたりして、自分の中に溜め込んでいるものをなんとか消化しようと、ひとりで戦っているような、もがいているような感じがしますね。

文章からはもがいている様子がうかがえる

いい気持ちだった日だけ勢いよく書き込む手帳

ーーDANROは「ひとりを楽しむ」をテーマとしたメディアですが、「ひとりを楽しんでいる」と感じる手帳はありますか?

志良堂:これは、このプロジェクトを始めた2014年に、当時の一回りくらい年下のルームメートの女性から買い取った手帳です。最初に買い取った手帳を一緒に「面白いね」と見ていたら、「私のもどうぞ」と言ってくれました。買い取ったのはこれが2冊目で、2013年のスケジュール帳です。ほとんどの日は何も書かれていなかったり、仕事のメモ程度の書き込みだったりするのですが、お正月と5月27、28日にだけ、ウキウキした書き込みがあります。

ウキウキした様子が伝わってくるお正月の書き込み

ーー5月の書き込みも正月の書き込みも、誰かと、というより、ひとりのような感じですね。

志良堂:5月の書き込みは金沢にひとり旅をしているようです。すでにフェイスブックもある時代ですが、ネット上ではなく、こういうところに勢いよく旅行記を書き込んでいるところを見ると、なかなかいい気持ちだったのかなと思います。読むとエネルギーをもらえるようで、ひとりでたまに何かを思いっきりやってみるのもいいかなと思う人もいるかもしれません。

金沢にひとり旅したときのものと思われる書き込み

現実をゲーム的にプレイするノート

ーー他にも「ひとり」を感じる手帳はありますか?

志良堂:これは読むと、「ひとりの世界」を強く感じます。ひとりでもがいている感じがします。このノートの持ち主とは、面識もやりとりもありません。ただ、2017年から定期的にノートを送ってくれるんです。男性のようですね。読んでみると、年齢は意外と若いのではないかと思わせるところがありました。同じ場所が何度も出てくるので、行動範囲は広くないと思いますが、近所を歩き回って小銭をよく拾っています。こんなに落ちているものなのかというくらいに。

もしかしたら、フィクションなのかもしれません。だとしても、まったくのフィクションではなく、自分の生活のあり方をある程度ベースにしていると思います。どちらにせよ、小銭を拾うことを楽しんでいるのか、冒険しているのか…。現実をゲーム的にプレイしているのかもしれないと感じています。僕も小学生の頃は、地元を彼のように探検していたけれど、これを読むと、いまの僕は移動しているに過ぎないのかなと思ったりもします。

たくさん小銭を拾った日の書き込み

ーー謎の多いノートですね。

志良堂:実はたいしたことは書いてないのかもしれないし、すごいことが書いてあるのかもしれない。わからないところがいいんです。このごろは、「日記だけではなくて、雑記帳の断片も送ってみることにしたよ。役に立ってくれたらうれしいよ」と、たくさんのメモも送られてくるようになりました。それを僕はいい意味での挑発と受け取っています。なかなかいい挑戦をしてくれるなと。

送られてくるようになったメモの中の一枚

ーーメモの内容もなんのことやらさっぱりわかりませんが。

志良堂:ええ。僕は手帳の読み方には、二つの方向性があると思っています。一つは、書いてあることから、これを書いた人はどういう人なのか、などいろいろなことを想像する読み方。もう一つは、この書き方が面白い、こういう文体があるんだ、などということを見つけて楽しむ読み方です。みんなでワイワイ楽しみながらなら、前者の読み方。一人で読むときは後者で、自分の楽しみ方や興味も探りながら読んでいると思います。いまは面白さも意味もわからない手帳でも、この先どこかで意味がわかるようになるかもしれない。だから、僕はそれがプライベートな記録である限り、受け取ることを拒みません。

日々を記録して自分を小さく変えていく

ーー志良堂さん自身も、手帳をつけていますか?

志良堂:20代の頃はつけていましたが、最近は手帳ではなく、スマートフォンのメモやボイスメモでの記録を試したりしています。忙しさにかまけて、手帳をつけるのはサボりがちです。

「手帳類収集家」の志良堂正史さんの手帳。20代の頃のある日の書き込み

日々の記録ができていないと、自分をプレイできていないような、同じところでずっとやっているような、考えていることが変わっていないような、物足りなさを感じてしまうんです。収集した手帳も、持ち主が20代の頃のものが多いので、社会人になって10年、20年経ってからのものが欲しいと思っているのですが…。自分も同じですが、みな若い頃しか書いていない。それは時間的な問題だけなのか、情熱的な問題なのか、わかりません。ただ、それではいけないなと思っています。

※記事で紹介した手帳類の中で、「手帳類図書室」で閲覧することができるのは、志良堂さんの手帳のみになります。

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桑原利佳 (くわはら・りか)

雑誌や書籍、ウェブサイトの編集者兼ライター。ニュース週刊誌「AERA」の編集スタッフなどを経てフリーに。

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