家庭用だしパックを売る京都吉兆 老舗高級料亭の深い危機感とは
京都・嵐山に本店を構える料亭「京都吉兆」。1930年に湯木貞一が大阪で開業した料理店「吉兆」をルーツに持つ、関西の老舗料亭ですが、カップみそ汁やにゅうめん、七味などパック商品の開発・販売も積極的に手がけています。
6月19日には「だしパック」の発売を機に、初めて東京で発表会を開きました。老舗高級料亭が、なぜ家庭用だしパック? そこには徳岡邦夫総料理長の「だし」、そして日本料理の現状への強い危機感がありました。(取材・吉野太一郎)
徳岡さんが35歳で「嵐山料理長」を任されたのは1995年。バブル崩壊で高級料亭から客足が遠のき、「いいもの」への価値観も変わりつつある時代でした。やがて「価格破壊」という名のデフレが始まり、食品業界は原価削減の波に洗われていきます。
「化学調味料や食品添加物を使うと、インパクトのある味が効率的に出せる。そうして現代人の舌は化学調味料に慣れすぎてしまった。一般家庭にだしが根付くことをしないと、日本の食文化はなくなってしまう」(徳岡さん)
料亭が必要とされるために、どうすればいいのか。鹿児島や北海道など、産地を回って生産者と対話を重ねるなど、試行錯誤した結果、「今の時代に合わせた利便性で、本物を提案していく」ことにたどり着きました。
日本のだしを後世に
「京都の水と東京の水で味が変わります。同じ水でも浄水器を替えると味も変わります」
徳岡さんはそう語った後、だしを煮出して参加者にふるまいました。かつおと昆布だけで取っただし汁は、濃厚にして繊細な香りが漂います。
「どうですか? インパクトはないけど、普通においしいでしょう?」
料亭の一番だしは、一瞬でだしを取って引いて、香り高い部分を楽しむもの。しかし、「一般家庭で一番だしを使う機会は多くない。野菜の煮物や炊き込みごはんには、濃いだしの方がいいでしょう」と、独自の技術で粉末化した濃厚な「二番だし」を販売しています。
徳岡さんは、日本の一般家庭にだしを普及させることで、後世に日本の食文化を伝えてほしいと訴えます。
「化学調味料の後味が後を引かない。こういう味を、後の世代の人に知って欲しいんです。鳥や野菜と組み合わせれば、原価も圧縮できて明日の活力になる。こういうだしの文化を、ぜひ日本から世界に発信していってほしい」