「ひとり飲み」客が訪れる本格立ち飲みバーの魅力

イスがない「立ち飲み」スタイルのバーカウンター
イスがない「立ち飲み」スタイルのバーカウンター

見た目は本格的なバーなのに、いわゆる「角打ち」のような立ち飲みスタイルで酒を提供する店が、東京・目黒区にあります。東急東横線・都立大学駅から徒歩3分の場所にあるその店は、わずか4.8坪(約16平米)。カウンターにイスはなく、客は立ったまま、ワインやウイスキー、カクテルを飲むことになります。

この風変わりなバー「BAR Happy Days」をひとりで経営する島田雄貴さん(30)は、ソムリエの資格を持つバーテンダーです。これからは『生』のコミュニケーションが重要な時代。人が集まってゲラゲラ笑える場所を作ることが大切」と語ります。客の男女比は6対4。多くは30〜40代で、ほとんどがひとりで飲みにくるそうです。

「立ち飲みのスタイルは、最初から考えていたわけではなかったんです。物件を見たときに『立ち飲みだな』と。このビジネススタイルなら通用するのでは、と。結果的には正解でした。お客さんのパーソナルスペースがイスや仕切りで区切られないので、コミュニケーションが生まれやすいんです。あと、酔って寝てしまう人がいない(笑)」(島田さん)

飲食の世界では「自分がやりたいことを実現するよりも、そこで求められるものを表現したほうが僕はいいと思う」と、語ります。

「普通のバーの悪いところの逆をやる」

この店には、他にも一般的なバーと異なる点があります。そのひとつが、価格帯を絞っているところです。580円、680円、780円(いずれも税抜)といった棚があり、同じ棚に並ぶ酒はどの銘柄も同じ値段です。たとえばウイスキーの「ボウモア」という銘柄と「ラガヴーリン」という銘柄では原価が倍近く違うそうですが、同じ780円の棚に並んでいます。(どちらが高いかは酒に詳しい人に聞いてみてください)。

「高いほうばかり飲まれると、困るっちゃ困るんですけど、『高いから美味しい』と感じるよりは、自分の好みや楽しみ方をわかってもらえるほうがいいのでは、と」

価格がわからない、店のなかが見えない、常連客だけだったらどうしようーー。島田さん自身、初めて入るバーに対しては、そんな不安があるそうです。「だったら、ふつうのバーの悪いところの逆をやれば(商売として)勝てるんじゃないかと考えたんです」と島田さん。ゆえにこの店には、入口が広くガラス窓が大きいために、外から店内がよく見えるという特長もあります。

自分のバーを持つまでの軌跡

入り口から店内がよく見える

島田さんがバーテンダーの道を志したのは、学生時代でした。風呂に浸かりながら、ふと将来について考えたとき、美容師、ドラマー、バーテンダーという3つの「かっこいい仕事」が思い浮かび、そのなかからバーテンダーを選んだといいます。

「今でもその夜のことをおぼえています。そこからはもう、ずっとブレずに。専門学校を出て、新宿の京王プラザホテルや六本木の会員制バー、二子玉川のビストロで働いて。途中で東南アジアを旅して。『30歳で自分の店を出す』ということは心に誓っていたので、逆算して20代を過ごしました」

「30歳で自分の店を出す」という目標を達成した島田さん。次は、30代の過ごし方についてプランを描き始めています。

「店はオープンしてまだ2カ月くらいですが、軌道に乗ったといえそうです。じゃあその次にどういう展開をしようか、何をやろうかなと。30代をどう過ごすか、今から楽しみです」。

飲食の世界を歩みつつ、いずれは堀江貴文氏や前田裕二氏といった実業家と仕事をすることを目標にしているそうです。その一方で、「自分のキャラクターも商品のひとつ」として、店から離れるつもりはといいます。

バーでは隣にひとり客がいてもいきなり話しかけないほうがいい

長年バーテンダーとして働いてきた島田さんに、初めてのバーにひとりで入った場合、何を、どのように注文すればいいのか聞いてみました。

「カクテルの名前まで挙げて注文する必要はないんです。カクテルにするか、ワインにするか、ウィスキーにするか。それくらいを決めておいていただければ。すると、カクテルだったら『炭酸系にしますか、フルーツ系にしますか』という話になるので、あとは会話のキャッチボールを進めていただければ」

では、バーでのお酒の飲み方には、どんなマナーがあるのでしょう。

「たとえば、隣の席で異性がひとりで飲んでいても、いきなり話しかけるのはやめてください。そういうときは、いったんバーテンダーと雑談するんです。バーテンダーは『この人だったら、この人と話が合うかな』というのを見ていますから、頃合いをみてバーテンダーからその方に話を振ります。すると自然なかたちで2人が会話できるんです」

バーでのひとり飲み道は、なかなかに奥が深いようです。

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土井大輔 (どい・だいすけ)

ライター。小さな出版社を経て、ゲームメーカーに勤務。海外出張の日に寝坊し、飛行機に乗り遅れる(帰国後、始末書を提出)。丸7年間働いたところで、ようやく自分が会社勤めに向いていないことに気づき、独立した。趣味は、ひとり飲み歩きとノラ猫の写真を撮ること。好きなものは年老いた女将のいる居酒屋。

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