海外に行けなくても現地の人と会話ができる「妄想旅行学習法」(僕の中国語独学記 5)
上海在住の中国人の女性から毎日ウィーチャットで連絡が来るようになって、僕は困り果てた。その経緯は前回のコラムで書いた通りだ。
中国人の会話といっても日本語で話しているので、中国語が上達するわけでもない。仕方ないので、思い切って、僕はウィーチャットのフォロー関係を切った。泣いて馬謖を斬る。新しいスタートの始まりだ。
さあ、どうしよう。
実は、僕は中国語の基礎を勉強したら、台北か上海に1年間ほど留学するつもりでいた。しかし、その夢は、新型コロナウイルスの猛威であっけなく破れてしまった。
頭の中で過去の中国旅行を思い出してみる
もう一度、Hello Talkで言語交換の相手を探すか、ひとりで地道に頑張るか。留学の予定がなくなってしまった今、僕の中国語に対するモチベーションは、確実に、そしてゆっくりと低下していっていた。
ダメだ、こんなことでは。そこで僕は考えた。何かというと「妄想中国旅行学習法」である。
かつて、僕は、中国語が一切できないのに、台湾や中国を旅していた。そのとき、どうやって乗り切っていたのだろう。今の言語力を持ってして旅をすればどうなるのか。妄想で行ってみたら、楽しいんじゃないか。
そうして、僕は、過去の中国や台湾の旅のことを思い出していった。その当時の台湾は、まだ英語が通じたが、中国では、特に内陸などは、英語が通じないことも多かった。
2007年ごろ、友人と中国の成都に旅行に出かけたことがある。英語が通じず、中国語も話せず、右往左往していた。宿に着く前、まずは腹ごしらえと僕らはお昼に、あるレストランに入った。
メニューは、完全に中国語しかなかったので、適当に指差しで注文する。途中、トイレに行きたくなって、店員さんにトイレの場所をたずねようとした。
でも、まず店員という単語がわからない。店員は中国語で「服務員」(fu2wu4yuan2)なのだが、そのときは知らなかった。トイレもわからない。「トイレット?」と言うも、全然通じない。中国語でトイレは「洗手間」(xi3shou3jian1)、トイレはどこですかは「洗手間在哪裡?」(xi3shou3jian1zai4na3li3)と言えばよかった。
飲食店で「ライス」と言ってみても通じない
食事をしてから、宿にタクシーで戻る。中国のタクシーは驚くほど安い。当時の初乗り料金は、日本円で140円くらいだったと思う。
運転手さんに、道の説明をしなければいけないが、「ゴーストレート」が通じない。中国語で、まっすぐ行って左曲がってください、は「一直走,往左拐」(Yi4zhi2zou3, wang3zuo3guai3)である。
宿で、荷造りをほどいたら、すでに夕方になっていた。僕らは、かねてから目をつけていた麻婆豆腐の発祥の店「珍麻婆豆腐店」に行くことにした。
店につくと、店員さんが「幾位?」(ji3wei4)と聞いてきた(当時はわからなかったが、今では予測できる)。僕らは、指を2本差し出し、2名だということをアピールしたが、本当は「兩個人」(liang3 ge ren2)。こう言うべきだった。
席に座ると、さっそくお目当ての麻婆豆腐を注文、ご飯も付けようとメニューを見るが、ご飯らしきものがない。麻婆豆腐にはご飯だろ! 僕らは店員を呼びつけ、「ライス」と言ってみたが、案の定通じない。
ケイタイでちょっとだけ中国語を調べて、「飯」(fan4)と言ったら、最初は渋い顔をしていたが、身振り手振りでなんとか通じたらしく、ご飯を持ってきてくれた。この場合、「米飯」(mi3fan4)と言うのが正確なのであった。
宿に帰って、10人が一緒に眠るドミトリー部屋に泊まる。宿泊客に日本人は一切いなかった。世界各国から集まったバックパッカーたちが思い思いに過ごしていた。僕らは、明日、世界遺産である観光地の黄龍や九寨溝に行くことになっていた。
朝も早いので、もう寝よう。おやすみは、中国語で「晚安」(wan3an1)というのだが、このときはそんなフレーズさえ知らなかったのだから、あきれるしかない。(続く)