「ファミレス」から「ソロレス」へ デニーズに見る孤食の進化

「ファミリー」レストランで「ソロ」キャンペーン。この矛盾に満ちた組み合わせを目にしたとき、思わず苦笑してしまいました。デニーズが打ち出した「ソロデニ」——。マーケティングの奇策か、それとも分断社会の反映か。
「めざせ、ソロデニ」ファミレスが一人客を歓迎する時代
春分の日の夜。久しぶりに訪れた近所のデニーズで、テーブル上のタブレットに「めざせ、ソロデニマスター」という文字が表示されているのを見て、驚きました。横には「あなたは、いくつのソロ活タイプで楽しめるかな?」と書かれていて、6つのソロシーンが示されています。
- 忙しい朝でも、自分だけの時間を作って気持ちを切り替えたい「デニモニ」さん
- 軽いスポーツの後、リフレッシュした気分で食事をしたい「スポデニ」さん
- 仕事や勉強の合間に、少し広めのテーブルで作業をしたい「デニリモ」さん
- 飲んだ後、帰り際にひとりでゆっくりもう一杯楽しみたい「デニ〆」さん
- 自分の趣味に没頭し、ひとりでゆっくりと好きな食事を楽しみたい「デニリラックス」さん
- 季節外れの暑さにやられたり、突然の雨にあたったり、ひと休みしたい「デニやどり」さん
それぞれのソロシーンに合わせて、おすすめのメニューが提示されます。一定金額以上の食事をすれば、オリジナルグッズがプレゼントされるというキャンペーン。ひとりで食事を味わって、ソロの時間をデニーズで満喫してくださいというわけです。
「孤食が愉快に感じることも少なくない」
時代が変わったな、と思います。
かつてファミリーレストランと言えば、その名の通り「家族」で訪れる場所というイメージが強かった。テーブルを囲む家族連れやデートを楽しむカップル、学生のグループで賑わう姿が当たり前の光景でした。だが、そんな常識も変わりつつあります。
『孤独のグルメ』が社会現象となり、ソロキャンプが流行る世の中。どこか後ろめたさをまとっていた「ひとり飯」という言葉の印象も、密を避けることが奨励されたコロナ禍を経て好転しました。
食の歴史を研究している藤原辰史の『縁食論ーー孤食と共食のあいだ』には、こんな記述が出てきます。
「孤食は評判が悪い。しかし、親友たちと食べることにも負けないくらい楽しいこともあるし、気が楽なときだってある(中略)どちらかというと複数で食べるほうを好む私でさえも、孤食が愉快に感じることも少なくない」
「ファミリー」の名を冠するレストランが単身者を歓迎するようになったのも、自然な流れと見るべきなのでしょう。
家族連れの隣で「ひとり飯」を味わう贅沢
実は、ファミレスでの「ひとり飯」には不思議な解放感があります。
誰にも気を遣わず、会話の義務もなく、自分のペースで食事ができます。家族連れやカップルの賑やかさを横目に見ながら、自分だけの「ぼっち空間」を満喫する贅沢。これぞ、現代の隠れた特権ではないでしょうか。
僕が夕食をとったデニーズは休日ということもあってか、家族連れや若者のグループが目立ちましたが、ひとりで座っている中年男性もいました。ソロデニさんの彼は、どんな気持ちで料理を口に運んでいたのでしょう。
東京都の単身世帯の割合は、2020年の国勢調査で初めて50%を超えました。もはや「ひとり家族」がマジョリティです。そのうち、ファミレスのテーブルも、細長いカウンターばかりになっていくのかもしれません。
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