歴史や現実に応じた社会の制度を整えることの必要性(沖縄・東京二拠点日記 34)

お気に入りのホームセンターの植物売り場
お気に入りのホームセンターの植物売り場

8月29日 20時ぐらいに那覇着。泊の「串豚」に直行。「おとん」の主・池田哲也さんと、カメラマンの深谷慎平さんが先に着いてビールを飲んでいた。

ぼくは病後なので酒は自ら禁じており、ウーロン茶で豚内臓のモツ串焼きやら牛のハラミ串焼きなんかを喰う。もっぱらぼくの体調の話題。那覇から東京へ移動したらすぐに脳のMRI検査を受けることになっている。

「串豚」は当然、立ち呑み屋なのだが、立ってると若干、足や腰が疲れやすいかなあとちょっと思う。

可視化されなかったシングルマザーの貧困

8月30日 朝に「琉球新報」の又吉康秀カメラマンと合流して、「しんぐるまざあず・ふぉーらむ沖縄」の秋吉晴子さんと娘さんと合流した。ぼくの月イチ連載「藤井誠二の沖縄ひと物語」の取材・撮影のためだ。掲載時期は未定だが、娘さんと一緒に写真(メディアに出るのはたぶん初めて。いろいろな条件が揃って相成った。

秋吉さんと知り合ったのはもう何年も前。沖縄の「貧困」問題は今でこそ話題になりつつあるが、それとシングルマザーの抱える問題のつながりはあまり可視化されてこなかった。いや、数字には出ているし、沖縄の当たり前の風景になっているので、大きく指摘されることがなかった気がする。

故・翁長雄志前知事になってから全県的な調査が始まり、子どもの貧困率(最低限の衣食住を満たされていない)が29.9パーセント、つまり3人に1人はそうだということが明らかになった。すべてがつながっているが、しわ寄せは弱いほうへと向かう。

秋吉さんは早い段階から、シングルマザーの多い沖縄県で、全国のシングルマザーが置かれた状況に対し法的・制度的・環境的問題などを改善するために声をあげ続けていた。

『沖縄アンダーグラウンド』を取材中からずっと、沖縄のシングルマザー率の高さは気になっていた。性風俗で働く女性だけじゃなく、シングルマザーが当たり前のように存在しているのだ。ぼくの友人や知り合いの沖縄在住の女性でも、離婚してシングルマザーで子どもを育てている人は何人もいる。

じっさい、日本のシングルマザー率が10パーセントを初めて超えた1995年では、その比率がもっとも高いのが沖縄だった。シングルマザー率はその後も増え続けているが、人口比なども考え合わせると、沖縄は東京や大阪と離婚率で肩を並べており、この2府1県で上位を占めている。

東京と沖縄では母子世帯の4分の1が未婚シングルマザーなのだが、東京と沖縄の経済格差を考えると事態は深刻といえる。未婚のシングルマザーというと離婚などのイメージだが、現実は婚姻届けを出さないでパートナーの男性と同棲しているケースもあるし、さまざまな事情によって婚姻しないまま出産したケースもある。

私たちは、選択的非婚ということを認めた上で制度を考える必要があるのだ。もちろん社会意識も変わらなくてはならない。沖縄では10代に早期結婚、出産して、数年で離婚する人の率も日本でいちばん高い。ドメスティックバイオレンス率も日本トップだ。このあたりの背景については社会学者の打越正行さんの『ヤンキーと地元』、教育学者の上間陽子さんの『裸足で逃げる』をぜひ読むべきだが、慢性的な経済的貧困は待ったなしの状況に来ている。

沖縄タイムス(2019年8月1日)の記事には、「祖父母など両親以外が子どもを育てている沖縄県内の養育者世帯のうち『貯金はしていない』と答えた世帯が68.1%を占め、経済状況が『大変苦しい』との回答も30.4%に上ったことが31日、2018年度の県ひとり親世帯等実態調査で分かった。同調査は5年に1度で、養育者世帯を対象に含めたのは初めて。世帯の年間平均総収入は経済的に厳しい状況にある母子・父子世帯より一層低く、子どもの病気・障がいやいじめ、不登校などに悩む割合も高い傾向にあった」というのがあった。

ぼくはかつて沖縄の少年事件(殺人や傷害致死)をいくつか取材したことがあり、目立たぬように加害者の自宅を訪ねたことが何回もある。ドアはいずれも開けてもらえなかったが、帰り際に男の老人にすごまれたこともある。加害者の家庭環境を調べてみると、祖父母に育てられている子どもが多かった。

この問題には解決するべきテーマが多々含まれているが、ネガティブにとらえることはしてはならないと思う。当事者を責めるだけでは始まらない。歴史や現実に応じた行政や社会の制度や意識を整えることが必要だ。そういったことを秋吉さんと知り合ってから考えるようになった。

夜は栄町「アルコリスタ」で、いつも拙宅に風を入れにきてもらっているじゅんちゃんと合流。彼女はここのボロネーゼが好物。それから「おとん」に少し顔を出して早めに帰宅した。

この記事をシェアする

「ひとりで学ぶ」の記事

DANROクラブ

DANROのオーサーやファン、サポーターが集まる
オンラインのコミュニティです。

もっと見る