移住した街で感じる「地元の壁」 ひとり飲みの新参者はなかなかつらい
ひとり飲みにハマり、地元の飲み屋を開拓し始める
最近、ひとり飲みの快楽を知ったので、果敢にお店を開拓しようという気になっています。ひとりだと誰にも気兼ねすることがないので、自分が入りたい店に好きなタイミングですっと入れるからです。
その影響か、このごろ自宅の最寄り駅でこっそり飲むことが増えました。仕事では東京都内に通っていますが、自宅はそこから1時間半くらいかかる場所にあります。生まれ育った土地でもないので、誰かと飲むときは仕事絡みにせよ、友人と飲むにせよ、概ね新宿、渋谷、恵比寿、新橋など山手線沿線に集まることが多く、自宅の最寄り駅で誰かと飲むことなどごくまれにしかありません。
そういうこともあって、最寄り駅での飲み屋開拓をおろそかにしてきたのですが、ひとりで飲む頻度が増えるにつれ、その傾向が変化してきました。
自宅近くで飲むなら終電を気にする必要がありません。東京都内であれば、ひとしきり楽しんだ後に1時間以上、混雑した電車に揺られることになりますが、地元ならさくっと帰れます。なんと身軽なことでしょう。
自宅の最寄り駅は、都内からはそこそこ距離があるものの、ターミナル駅なのでわりと大きな方だと思います。駅の周辺にたいていのものはそろっていますし、もちろん飲み屋界隈についても数えきれないほどのお店が軒を連ねています。そんな中をぶらぶらと歩きつつ、気になった店へ飛び込むわけです。
お店に飛び込んだ後に遭遇する「地元の壁」
と言いながら、実は気になりつつも中に飛び込めない店がほとんどです。店内の様子が見えないので怖くて入れない、おしゃれすぎて入れない、賑わいすぎていて入れない、店員が美人過ぎて入れないなど理由はさまざまですが、とにかく初めての店にひとりで飛び込むのはそれなりに勇気が必要なのです。
以前、バーの話でも書きましたが、気になってお店の前まで来たものの、結局入ることができず逃げ帰るなんてことは、バーに限らずざらにあるのです。
こうした幾度かの淡い挫折ののちにようやく店に飛び込むわけですが、むしろここからが勝負です。というのも、想像以上に地元コミュニティが根付いていることを目の当たりにするからなのです。先述の通り、最寄り駅はターミナル駅なのでわりと多方面から人が集まる街ですが、駅から少し離れたお店となると、地元の人たちの絆がすごいのです。
とある居酒屋に入ったときなどは、まるで、十三回忌の法要で今まで会ったことのなかった親戚と顔合わせをしたかのような気分を味わいました。店主も店員もそこにいるお客たちも、昔からの仲間か町内会の集まりなのかと思うほど、互いを熟知しており親密度がすごいのです。
私がお店に入った瞬間、この人は間違えて入っちゃったのかな?といった視線を向けられる(ような気がする)。でも、ここでうろたえてはいけません。初めて来た客どころか、むしろ5年ほど前までは毎日のようにこの店を訪れていた男が、長期赴任を終え久しぶりにこの店に還ってきたのだ、というくらいの風情を醸し出すのです。
堂々とお店に入り、「いやあ、この店も変わらないなあ…」といった感じで店内を見渡しメニューを見る。もう店長もスタッフも替わっちゃって、5年前を知る人はいないんだなあというそぶりで酒を飲むのです。
壁を乗り越えてでも味わいたい魅力がある
何を大げさなと思われるでしょうが、このくらい強い気持ちを持たないと折れてしまうほど、地元コミュニティの絆は固いのです。都心近郊で飲んでいても常連さんたちの絆を感じる場面があるにはありますが、どうもそれ以上の雰囲気を感じます。
何軒か飛び込んでいるうちに、こうした店はどうも駅からの距離と相関関係があるように思えてきました。駅から徒歩10分を超えたあたりから、地元感がぐっと増してくるような感覚があるのです。
もちろん、地元の人がたむろしている店ばかりではないですが、私が惹かれて飛び込むのはどうもジモティーの地盤が固いお店ばかりのようです。実際、そういう店の方が良くも悪くもおもしろいのは確かです。画一化されたクオリティとは違い、オリジナリティあふれるメニューがあり、個性的なお客がいて、なにより活気がある。なので、ひとりで飲んでいても楽しいといえば楽しいのです。
何度か訪問するうちに、できることなら彼らの会話に入れやしないかと耳をそばだててもみるのですが、見事に興味・関心が重なり合いません。せめて私がサッカー(特にJリーグ)に詳しかったなら、少しは会話にも加われただろうに! 己の見識の狭さを呪いつつ、今宵も喧騒の中で孤独を装うのです。