路上でひとり芝居を続ける役者「現実感をもってやれるのはこれしかない」

「サイレントひとり芝居」を演じる「路上役者 亮佑」さん。

夜、路上でひとり芝居を演じ続ける男性がいます。その名も「路上役者 亮佑(りょうすけ)」。

亮佑さん(31歳)は週に5~6日、通りがかった人に短い芝居を披露し「投げ銭」をもらう生活を、4年以上続けてきました。「これしかない」という覚悟と信念で、この活動をしていると亮佑さんはいいます。

2020年12月下旬のある夜。東京都目黒区の東急東横線・祐天寺駅近くの路上に、亮佑さんは立っていました。駅の利用者数を調べ、3万~7万人が利用する駅の周辺を選んでいるとのこと。

路上には19時から22時ごろまで立ち、ひとりで芝居を演じます。多いときで4、5組が足を止めるそうです。

「誰も見てくれないと、1時間がめちゃくちゃ長く感じるんです。みんな横目で見ていくというか、通り過ぎたあとで振り返ったり、隣にいる彼氏の肩越しに見たり。そういう感じなんですよね」(亮佑さん)

「毎日へこたれそうになっている」と亮佑さんは言いますが、「路上でやっていなければ出会えなかった人たち、自分を応援してくれる人たちに出会える喜びがある」と口にします。

やがて男性がひとりやってきました。

30代の会社員だというこの男性は、亮佑さんのSNSで告知される活動場所を見て、自宅から歩いてきたそうです。「ひとり芝居」の演目は約60。そのなかからお客さんに合っていると思う演目を亮佑さんが選んでいます。

この回、亮佑さんが選んだのは、サイレントひとり芝居『◯◯がめちゃくちゃ欲しい貧乏人』でした。

ある物を必要としている「貧乏人」が、なんとかしてそれを手に入れようと懸命に訴える様子をパントマイムで表現します。亮佑さんの真剣な表情と、彼が欲しがっていた物が判明したときの落差に面白味があります。

「嫌なことがあったら、良いことで塗り替えていくしかないんです。どんなに上手い人でも100人中100人を満足させられるわけじゃないし、どんなにへたくそでも100人にけなされるわけではない。一生懸命、全力を尽くしてやっていれば『ハマる人』っていうのも絶対に出てくるはずなので。(ひとり芝居は)『打席に立つ』っていう感じです」(亮佑さん)

「生き方がかっこいい人間になりたい」

そもそも亮佑さんはなぜ、「路上役者」になったのでしょうか。

大学生だった20歳のとき、誘われて俳優事務所に所属した亮佑さん。TVドラマやCMにも出演しました。しかし、事務所が取ってきた仕事のなかから、書類選考やオーディションを経て役が決まるまでの過程で、「自分のできること」が限られていることに疑問を抱き始めました。

また、実際に役がついたときも、「野球ができるから」「監督のイメージに合ったから」といった理由で役柄が決まる場合が大半で、運に左右される要素が多いと感じました。

「役者として飯を食っていくとなったら、みんなお芝居を勉強するじゃないですか。それは芝居がうまくならないと仕事が取れない、逆に言うと、芝居がうまくなれば仕事が取れるって思っているからだと思うんですけれども、そうじゃないんだなって」

暗中模索の日々のさなか、亮佑さんは舞台に立つことになりました。そこで「チケットバック」を知ることになります。チケットバックとは、出演する俳優たちが公演のチケットを自分で販売し、その枚数に応じて報酬が支払われる仕組みです。

「自分のなかでずっと、どうやったら芝居で飯を食っていけるんだろうと、まったく光が見えない状況だったんですが、その時に初めて『お客さんを増やせばいいんだ』と、ひとつの道が見えた感じがしました」

それは亮佑さんにとって「希望の光」だったといいます。

やがて事務所から独立し、フリーになった亮佑さんは、お客さん、つまりは自分のファンを獲得するために「路上役者」の活動を始めることになったのです。

「YouTubeとかSNSに力を入れる人もたくさんいますけど、僕は現実感をもって『これをやればイケる』っていう風に思えない。そう思えるのが、今のところ路上しかないんです」

実際に「路上役者 亮佑」のファンになり、亮佑さんの舞台に足を運ぶ人もいます。前述の会社員男性もそのひとりで、2020年2月に亮佑さんを知ってから、足しげく通ってきました。2021年から地方へ転勤になるため、この日は挨拶を兼ねて観にきたそうです。男性は亮佑さんには「親しみやすさがある」といいます。

もちろん、良いことばかりではありません。通りすがりの人が、亮佑さんを指して「あんな風になったら終わりだな」と笑う声が聞こえたことがあります。また、一時期は「路上役者」だけで生活費を稼げていましたが、今はバイトで不足分を補っています。それでも「路上役者 亮佑」として喜びを感じることは多いといいます。

「僕はコメディが好きなので、やっぱり笑ってくれたときですね。路上で見てもらうときの笑い声っていうのは、ウソがないので。本当の反応が見られるんです。その時の自分が思うものをまっすぐ表現しているから伝わるのかな、と思うんですけども。それが他人に受け入れられたときはやっぱり楽しいというか、幸せを感じますよね」

「生き方がかっこいい人間になりたい」と亮佑さんはいいます。「それがお芝居にも出ると思うので」。ファンを獲得し続けるためにも「路上役者」は今後も続けるそうです。

「もうイヤだって、明日やめるかもしれないですけどね(笑)。やめるという選択も、それはそれで素晴らしいと思うんです。始めるよりもやめるほうが、おそらく勇気がいると思うので。今これだけ長く続けてきて、続けることってすごく大切だと思うんですけど、ただ続けていても意味がないんです。自分がそうなっていないかという不安は常にありますね」

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土井大輔 (どい・だいすけ)

ライター。小さな出版社を経て、ゲームメーカーに勤務。海外出張の日に寝坊し、飛行機に乗り遅れる(帰国後、始末書を提出)。丸7年間働いたところで、ようやく自分が会社勤めに向いていないことに気づき、独立した。趣味は、ひとり飲み歩きとノラ猫の写真を撮ること。好きなものは年老いた女将のいる居酒屋。

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