多様な人と交流できるのが魅力「独身アラサー男子」がシェアハウスで暮らすワケ
見ず知らずの男女が一軒家で共同生活をするというコンセプトで話題になった番組「テラスハウス」。覚えている人も多いかもしれないが、これをきっかけに広まったのがシェアハウスという文化。独身生活をシェアハウスで過ごす人も増えている。
会社員のヤナカリュウイチさん(32歳)は新卒3年目のとき、初めて東京都内のシェアハウスに入居。それ以来、人生のさまざまな浮き沈みのなかで3軒のシェアハウスを転々とし、この春には4軒目に引っ越す予定だという。
現在独身のヤナカさんは「ひとりの時間」を愛しているというが、なぜシェアハウスに暮らすのか? あえて他人と付かず離れずの生活をするメリットとは? 本人に話を聞いてた。
シェアハウスでテレワークする日々
現在、ヤナカさんはウェブメディアの編集者として働いている。前職は出版社の広告営業。2年前に転職したが、初めての経験に戸惑うことも多かったという。
「最初の3カ月くらいは、目の前の仕事をこなすのに大変でしたが、半年くらいでそれなりにこなせるようになりました。今は月に50本くらいの記事を編集したり、たまに自分で記事を書いたりしています」
転職から半年後に新型コロナウイルスが上陸。会社には週1、2日だけ出勤し、それ以外の日は自宅でテレワークという勤務形態になった。
「それまで毎日のように会社に行っていたのが、今は企画会議と経費精算のときだけ行くようになりました。テレワークは、気分が乗っているときなら問題ないですが、たまに眠くなるので、そのときは軽く昼寝して、深夜に働くようにしています。いま住んでいるシェアハウスの1階が共有スペースなので、夜は晩酌しながら仕事をすることもあります」
そんなヤナカさんがシェアハウスに住むようになったのは、社会人3年目のことだ。それまでは埼玉県内の実家から2時間弱かけて東京都心のオフィスまで出社していた。「飲み会があるたびに終電を逃し、週に1回は漫画喫茶に泊まる生活だった」と振り返る。
「翌朝の出社がしんどかったですね。貯金も増えてきて、引っ越し代や敷金礼金などの初期費用も払えるようになったので、ひとり暮らしを決めました。ただ、最初はシェアハウスではなく、大学の同期の男と白山(文京区)でルームシェアをしました。ただ、彼が4ヶ月ほどで群馬に転勤になり、次に住んだのは池袋に近い要町のアパートでした」
しかし、そこは生活環境が劣悪で、「一日中、どこかから騒音が聞こえるレベル」だったという。結局、すぐに引っ越すことになる。ヤナカさんが選んだのは、新御徒町のそばにある24人規模のシェアハウスだった。
「ひとり暮らしでも良かったのですが、やはり東京はそれなりにお金がないと、いい物件に住めない。ならば、シェアハウスにしようと思ったのです。よく、他人と一緒に住むのが大変ではないか?と聞かれるのですが、私自身は、不安より、ワクワク感のほうが強かった。社会人になると、友人ができる機会も自ずと減ってしまうので、毎日のように誰かとお酒を飲んだり、一緒に散歩したりできる場は貴重でした」
なぜシェアハウスに住むのか
「家賃もそこまで激安ではないですが、これまでに住んだシェアハウスはどれも、光熱費・ネット代込みで7万円台でした。家具家電のたぐいは備え付けられていますし、都心でこの値段で住めるのはありがたかったです」
ちなみに、ダイワハウスの賃貸住宅サイト「D-Room」だと、新御徒町駅がある台東区の1R~1DK家賃相場は9.4万円とある。たしかに、ひとり暮らしをするより家賃は安い。さらに、人間関係の開拓にも役立ったと、ヤナカさんは言う。
「これまで住んでいたところはバリスタ、エステティシャン、エンジニア、大学生、OL、数学教科書の編集者……ともかく色んな人が住んでいましたね。当時東大の研究員で、今は地元で大学教授をやっている台湾人の方もいました。彼とはいまだに交流があります。毎日売れ残ったケーキを持って帰ってきてくれるパティシエの方もいて、みんなで食べていました」
さらに、ヤナカさんはシェアハウスに住む理由について「寂しがり屋だけどひとりきりの時間を作りたいから」と話す。
「土日のどちらかは、あえて誰とも会わない日にしているんです。『のど自慢』『ザ・ノンフィクション』など録画したテレビ番組を見たり、溜まっている週刊誌や漫画雑誌を読んだり、ラジオを聞いたりしていますね。いわゆる意識高い系ではありませんが、ひとりでインプットする時間がほしいんですよね。
とはいえ、ずっとひとりぼっちで、会いたいときに誰もいないのは寂しい。都会に住んでいるのも、郊外だと友達が誰もいなくなるのが嫌だから(笑)。シェアハウスは、恋人と常に顔を合わせている同棲と違って、ひとりになりたいときは部屋にこもることもできる。そのときの気分によって人付き合いを選べる良さがあると思います」
会いたいときに誰かに会えるが、ひとりの時間も確保できる。そんな「他人との適度な距離感」がヤナカさんは嬉しいそうだ。
「アクティブなインドア派って呼んでるんですけど、他人とボードゲームをしたり、サッカー観戦したり、密室で完成する遊びを一緒にするのが好きなんです。気が向いたときには誰かを部屋に呼んで、一緒に遊んでいますね」
新御徒町に2年住んだヤナカさんは、その後も両国、そして浅草橋と、シェアハウスに移り住んだ。しかし、浅草橋のほうは3月末で退去するという。
「詳しいことは聞いていないですが、この建物自体がシェアハウスとしての運営を終了するみたいです。入居者は16人いたのですが、全員退去が決まっています。私のようにまた別のシェアハウスに行く人もいれば、都内で彼女と同棲する人もいます。ほかには、神奈川で海のある生活を送る人、バイクを買ってライダーズシェアハウスに住む人といろいろです」
ヤナカさんは、中野駅のすぐそばにあるライターや編集者など同業者が多く住むシェアハウスに移るそうだ。
「結局、私の生活は6畳あれば、事足りるんですよね。ベッドとテーブル、趣味の雑貨や本、雑誌があれば、どこでも暮らしていけると思います。実家も埼玉県でそんなに遠くないから、溜まったものは定期的に荷物として送って、なるべく物を持たない生活を心がけています」
シェアハウスは「終の棲家」ではない
そんなヤナカさんだが、いつまでシェアハウスに住むのだろうか。本人は「最初は30歳までと思っていたですが」と語る。
「居心地がよくて、つい長居してしまったんです。住人のなかで最年長になることもあるのですが、疎外感はありません。世代的には他の人も30歳前後で近い年齢ですからね。オッサンいじりをされることもたまにありますが、半分ギャグで、本気で言っているのではないと信じたいです」
シェアハウスは30歳をすぎると多少は周囲から浮く存在になるようだ。しかし、決して居心地が悪いものではなさそうだ。
「住むとしたら35歳くらいまでですかね。特に考えていないのですが、何か区切りをつけないと、いつまでもダラダラとシェアハウスに住み続けてしまうので、アラフォーくらいまでかなと思っています。それでも世間的に言えば遅いのでしょうが(笑)。やっぱりシェアハウスって、『テラスハウス』のイメージが強くて、上京したての若者や、転勤族が住むものであって、終の棲家ではないと思います」
いまはコロナ禍で、友人や同僚と飲みに行くのも難しい。その点、シェアハウスは気軽に会話できる住人が近くにいるので、人恋しいときにも助かるという。
「もう少しコロナが落ち着けば、前と同じように飲みに行けるでしょう。そうなったら、ひとり暮らしをしてもいいかもしれませんね」
ちなみに、シェアハウス生活をうまく送るためのコツを聞くと、ヤナカさんは「挨拶と、自分から話しかけること。寛容さですかね。ちょっとした生活音が周りからすることもありますが、そこは気にしないでいるといいかと」ときっぱり。
「あとは何か言われても、いったん許容して怒らないことかな。他人に何か言って変えてもらうよりも、自分の意識や行動をその人に合わせるほうが早いから、そうするようにしています。いわば相手の行動を“受け流す力”ですね」
どうしてもキラキラしたイメージが先行しがちなシェアハウスだが、「ひとり暮らしをしたいけど、ずっとひとりは嫌」あるいは「もっと安く良い物件に住みたい」という都市生活者のニーズにフィットしたのかもしれない。
今回、ヤナカさんの話を聞いて、若者にシェアハウスがここまで人気なわけに思わず納得してしまった。