酒類提供禁止の直前、上野原で「最後のビール」を味わう(地味町ひとり散歩 14) 

今年4月、東京の八王子付近で野暮用がありました。陽のあるうちに終わったので、少し足を伸ばして散歩をすることにしました。JR中央本線の高尾駅(東京都八王子市)からたった3駅で着く、山梨県の上野原という駅に降りてみました。

駅付近にはこんな看板がありました。

おおっ、ここはショッピングタウンだな。久しぶりに新しいランニングシャツでも探して、買い物でも楽しむかぁ。

近くに商店地図があったので見てみました。

ふむふむ、左側に書いてある「現在地」の向かい側は食料品店で、その隣が洋服店、おっ、小僧寿しもあるんだな。これはワクワクが止まりません。

そう思ってニコニコしながら、道の反対側のほうへクルッと振り向きました。

・・・これはどういうことでしょう。

店どころか、家の一軒すらありません。一夜にして、すべてが山に呑まれてしまったのでしょうか?

もしくは神隠し的なものでしょうか。それとも、この森をガサガサとかきわけると、中に商店街が広がっているのでしょうか。

とにかくこのままでは、ショッピングは楽しめません。駅の反対側に行ったら、ようやくホームセンターがありました。

ブロック塀ってこんなに安かったのですね。

と言っても、使い道がわからないので、さすがに買っていくことはできませんでした。たくさん売ってるけど、この町の人はそんなに頻繁にブロック塀を買い換えるものなのでしょうか。

すると、こんな使い方をしている場所がありました。これはなんでしょう。「ブロックの集会(ディスタンスを守って)」という環境アート作品でしょうか? 謎が解決することはありませんでした。

僕が見た限り、栄えているほうの南口でも数軒のお店しかなかったので、住宅街を歩くしかありませんでした。懐かしい火の見櫓(ひのみやぐら)が見えました。

その下には段違いすべり台もありました。親子ですべるのでしょうか。それとも、決して交わることがない、すれ違い夫婦がすべるのでしょうか。

こんな道を延々歩きます。ときどき行き止まりになって民家の庭先に出てしまい、不審者と勘違いされないようにスサササッと足早に引き返したりもしました。

きれいなお花も咲いていました。

実は僕は二十歳ぐらいまで花をきれいだと思ったことが一切ありませんでした。最近でこそ、いいなあと思いますが、何かの感覚が欠如しているのかもしれませんね。

変な形の松もありました。こんな風に生えるものもあるのですね。僕には樹木の知識がないので、もしかしたら松とは違う木なのでしょうか。

こんな葉っぱもありました。たまに写真などで見る大麻草と形が似ている気がしますが、橋の横の人通りの多いところに生えていたので、さすがに違いますよね。

ちなみに僕はもちろん、大麻を吸ったことはありません。

興味がまったくないと言ったら嘘になりますが、もし見つかった場合「ああ、石川のちょっと変わった表現はそういうことをやってるから作れるんだ」と思われるのが嫌なのです。そこだけはプライドがあるので、絶対に大麻には手を出しません。

ただ、昔アジアのある国で国際的な音楽フェスに出演したとき、市長主催の公のパーティーでそれらしき物がまわってきたことがありました。

その国では大麻が認められていたので、あまり露骨な拒否は友好ムードを壊すと思い、口にくわえるふりだけして、横の外国人に慌ててまわしました。

会場が暗かったので、幸い気づかれずにすんだのですが。

話を散歩に戻しましょう。道をさらに歩いていくと、ほどなくして川に出ました。

桂川といって、富士山の麓あたりから湧き出て、山梨県から神奈川県へと流れ、最終的には相模川になって相模湾に流れ込むようです。

こんな渡し場跡もあったので、昔は川を往き来する船も多かったのでしょうか。

転落した女の子は、まず左顔面を強打していることがわかります。気をつけましょう。

駅に戻りました。

実は上野原駅はかなり変わっています。北口と南口の高低差が激しいのでこんなビルになっています。耳がキーンとはなりませんでしたが。

エレベーターも三基あって、改札口は5階です。3階と4階には、降りることができません。一般の人が降りられないその階には、どんな謎の施設があるのでしょう。

最近はあまり見かけなくなった白ポストも設置されていました。これ、昔から思っていたのですが、回収した人は即座にそれを捨てているのでしょうか。

「おっ、スンゴいのが入ってるぞ、ムヒヒヒ!」

となったりしないのでしょうか。中をじっくり確認することはないのでしょうか。こんなふうに疑うのは、僕が汚れた人間だからでしょうか。

山側の北口の駅前に渋い食堂があったので、散歩の終わりに入ってみました。

写真のように、ビールにおしんこ、イカ刺しで一杯やりました。

実をいうと、2020年10月から始まった「地味町ひとり散歩」の連載で、お酒を飲むのは初めてです。これには理由があります。

この散歩をしたのは、2021年4月23日。まさにこの日、何度目かの緊急事態宣言が発令されることが決まり、この2日後から「飲食店での酒類提供禁止」のお触れが出たのです。

このコラムをみなさんが読んでいるとき、コロナ禍がどういう状況になっているかはわかりませんが、もしこの措置がずっと続いたら「最後の食堂でのビール」になるかもしれないからです。

おしんこがいい感じに浅く浸かっていて、とても上品な味でした。

ちなみに街ではこんな看板もよく見かけました。そうです。空き缶は捨てるものではなくて、家でプラスチックケースなりに入れて、きちんと保管しておくものなんですね。

自分の飲んだ空き缶を30年以上も保管しておくと、こんな本が出せて印税が少し入ることもありますからね。

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石川浩司 (いしかわ・こうじ)

1961年東京生まれ。和光大学文学部中退。84年バンド「たま」を結成。パーカッションとボーカルを担当。90年『さよなら人類』でメジャーデビュー。同曲はヒットチャート初登場1位となり、レコード大賞新人賞を受賞し、紅白にも出場した。「たま」は2003年に解散。現在はソロで「出前ライブ」などを行う傍ら、バンド「パスカルズ」などで音楽活動を続ける。旅行記やエッセイなどの著作も多数あり、2019年には『懐かしの空き缶大図鑑』(かもめの本棚)を出版。旧DANROでは、自身の「初めての体験」を書きつづった。

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