「自分を変えたくて、引っ越した」 本と暮らすひとりの時間が教えてくれたこと

やりたいことと違う仕事に就き、ストレスから散財する日々。そんな自分を変えるために「引越し」を決めた。持っていった本の中には、梶井基次郎の『檸檬』の姿がーー。ライター・山本莉会さんのエッセイをきっかけに、DANRO編集長の亀松と編集者の松本が「ひとり」と「好きなこと」の関係について語り合いました。
やりたかった仕事に就けなかった、というしんどさ
亀松:梶井基次郎の『檸檬』という作品は、おそらく多くの方がご存じですよね。国語の教科書で読んだことがある人もいるでしょうし、文庫本を手に取ったことがある人もいるかもしれません。
松本:とても有名な短編小説ですよね。
亀松:山本さんのエッセイは、その『檸檬』という作品と彼女自身の経験がどう重なっていったのかを描いたものです。松本さん、この文章を読んでみてどうでしたか?
松本:まず感じたのは、「やりたいことと違う仕事に就いてしまってしんどい」という気持ちはすごくよくわかる、ということですね。
亀松:そうなんですね。
松本:山本さんは大学卒業後、本当は文章を書く仕事がしたかったのに、営業の仕事に就いたんですよね。営業の仕事が嫌いというわけではないし、職場の人たちもいい人ばかりだった。けれど、やっぱり「自分のやりたいことではない」というストレスが大きかったんだと思います。
それで、買い物にお金を使うことで気を紛らわせるようになっていった。私自身はそこまで散財するタイプじゃないんですけど、それでもやりたくないことを無理にやってるときって、ついコンテンツを買っちゃうんですよ。漫画とか本とか。
亀松:松本さんの場合は、そういう感じなんですね。
松本:そうなんです。山本さんとはちょっと方向性が違うけれど、文章を読みながら「こういうことって、あるよね」って共感しました。でも、結局のところ、ストレスの原因を取り除かないと、問題は解決しないんですよね。
散財では埋まらない「心の空白」
亀松:山本さんの記事の内容について少し説明すると、彼女はもともと本が大好きで、たくさん読んできたんだけれど、大学を卒業後、希望していた出版社に入れなかったんですね。結局、広告代理店で営業の仕事をすることになったんですが、ものすごく辛かった、と。それで、ストレス解消のために買い物をたくさんするようになったけど、気持ちは晴れなかった。
そんなときにふと「引っ越そう」と思い立って、実家を出てひとり暮らしを始めることになり、一緒に持っていった本の中に、梶井基次郎の『檸檬』があった、という流れなんですよね。「引越しによって、今の自分をちょっと変えたい」という山本さんの気持ちは、よくわかるなと思いました。
松本:「環境を変える」って、すごく重要なことですよね。山本さんの場合は、実家から自分の好きな本を持ち出して、ひとりで暮らし始めたわけですが、それによって少しずつ自分自身が見えてきたのかな、と思います。人と一緒に住んでいると、どうしてもさまざまな「雑音」が入ってくる。そういうものを遮断して、自分が本当に好きなものに囲まれて過ごす。今回で言えば、ひとりで生活しながら『檸檬』を読むことで「やっぱり自分は本が好きなんだ」と、再確認できたんだと思います。
亀松:実家を出て、ひとりで過ごして、時間があれば本を読む。そんな生活を送る中で、徐々に心が落ち着いていくという感じが、文章からすごく伝わってきました。
松本:それにしても、山本さん、買い物依存症が収まってよかったですよね。
亀松:引っ越す前は「何を買っても埋められなかった寂しさ」があったのに、「ひとりで暮らすことで全て解決してしまった」と。すごく興味深い展開だなと思いました。ひとり暮らしには、そういう効用もあるんだなって。
「やりたいことがある」ということの尊さ
松本:私はこの文章を読んで、ちょっと羨ましさも感じました。
亀松:どんな点ですか?
松本:山本さんは「自分にとって書くことが大切だ」と、もともとわかっていたじゃないですか。それが仕事にできなかったからこそ、苦しくなった。つまり、「好きなもの」が明確にあったわけです。今、多くの人が「自分が本当に何をやりたいのかわからない」という悩みを抱えているように思います。「好きなものがあるからこその悩み」というのは、ある意味で幸せとも言えるのかな、と感じました。
亀松:確かに、そうですよね。「やりたいことがあるのにそこに行けない」という悩みと「そもそも自分が何をやりたいのかわからない」という悩みは、どちらもありうるけれど、種類が違いますよね。ときどき大学生に将来の志望を聞く機会がありますが、「自分が何をしたいのか、何に向いているのか、よくわからない」という声が多い印象です。
松本:そんな人は、何かひとつの仕事を経験してみることで、見えてくるものもあるのではないでしょうか。たとえば「やってみたい」と直感で思ったことを小さく試してみる。いきなり会社を辞めるのではなく、まず副業や個人プロジェクトとして少しだけやってみる。その繰り返しで、自分に合う仕事が見つかるかもしれません。
亀松:なるほど、いい視点ですね。
松本:そういう意味では、新たな環境に移って心機一転できる「引越し」というタイミングは、いい機会なのかもしれませんね。
亀松:そうですよね。似たような発想で、自分が今やっていることと違うことをやってみたり、ふだん話さないような人と話してみたり。そうすることで、少し世界が広がったり、気持ちが楽になったりするのでは? もう一つ、もし悩みを抱えている人がいたら、DANROの記事を読んでもらえると、何かヒントが見つかるかもしれません。
松本:DANROの記事には、さまざまな価値観の人たちが登場するから、「生き方はひとつじゃないな」と思えて、読むだけでも気持ちが軽くなります。めちゃくちゃ宣伝っぽいですけど(笑)、実際いつもそう思っています。ぜひ気になる記事からご覧になってみてください。
※この記事は、DANRO編集部が運営するPodcast「DANROラジオ」の内容をもとに作成しました。
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