乳がんの詳細は、血液検査のあとで!(未婚ひとりと一匹 3)
この連載コラムの1回目で、左乳全摘出手術へ出発を叫んだコヤナギユウと、猫のくるみです。
前回は浮き草暮らしのわたしが猫を飼うことにした理由を書きましたが、今回は乳がんが見つかった時のことを書こうと思います。と、その前に。現在の時間軸で生きているわたしと中継がつながっています。
現在のコヤナギさーん、シリコンのおっぱいはいかがですかー!
「はーい、こちら、術後1カ月経過した現在のコヤナギです。ぱっと見はかなり元気そうなんじゃないかと思います。1カ月は長く感じましたね。シリコンのおっぱいは少し慣れてきました。手術自体は思っていたほど痛くなかったので、どうか術前のコヤナギさんはビビりすぎないでくださいね!」
はーい、先々のことはあまり考えずやっていきたいと思います〜!
それでは、時は戻りまして「生体検査」の結果を聞きに行くところから始まります。
実は20代からがんだった?
無料につられて受けた区の健康診断で、がんをちらつかせながら有料健診に誘い込み、小銭を稼ぐ町医者。その茶番に付き合ってやるか、という軽い気持ちでうけた生体検査。
乳がんだと、「穿刺吸引細胞診(せんしきゅういんさいぼうしん)」といって、直径1mmほどの筒状になった二重構造になった針を刺し、チーズの味見みたいに細胞をくりぬきます。
もちろん、痛みを伴うので、歯医者と同じ局所麻酔を打ってから行いますが、10代の頃にやったピアス穴を開けるピアッサーよろしく、バチーンバチーンと肉の中で響く感覚は、わたしにはけっこう苦手でした。
それから一週間、結果を聞きに病院へ。
「残念ですが、悪性でした」
悪性……?
「平たくいうと乳がんですね」
\なんということでしょう/
生体検査を勧めた医師は小銭稼ぎではなく、名医だったのです!
と、心の中の第一声はサザエさんの声でした。
そのあとは、白銀の動揺です。
どうしよう、そんな可能性まったく考えてなかった。だって健康診断では「健康」だったのだ。いまだってどこも痛くないし、がんの可能性なんてまったく考えていていなかった。
どうしよう、まずなにを考えればいいんだろう。
止まりそうな思考のねじを一生懸命回す。まずは現状の確認、やること、できること、お金……。
フリーズしているわたしに向かって、名医はゆっくり、状態について話してくれました。
腫瘍の大きさは2.5cmほど。
「リンパ節への転移」がなさそうなため「ステージⅡA」とのこと。
乳腺症だと思っていたしこりが、乳がんだったのです。
でも、待って! いままで人間ドックは何度も受けていたし、マンモグラフィーもエコーも何度もやったけど?
がんの正体は細胞のミスコピーです。わたしたち人間は細胞分裂を繰り返し、代謝しながら生きているわけだけど、ミスコピーは消えることなく増えてしまうとか。
小さな小さなミスコピーの細胞が、少しずつ間違えたまま増殖していって「がん」というかたまりになるので、見つかるほどの大きさになるまでは、それなりに年月がかかるそう。
「コヤナギさんの場合、乳腺症といわれた20代の頃からがんだった可能性もあります」
そうなの!?
手術は? 抗がん剤治療は? 詳細は血液検査のあとで!
がんは遺伝する、なんて聞くけれど、それは場所によるらしい。父は食道がんで死んでおり、乳がんは遺伝性のものもあるけれど、わたしは関係ないそう。
また、がんには進行の早いもの、遅いもの、ほかへ転移しやすい活発なものなど、いろいろな「性格」があり、再び血液検査をすることに。何度目だ?
今後のざっくりとした治療手順を聞いて、乳がんに関する小さな冊子をもらう。
がんは切除するしかないので、大きい病院へ行く必要があります。
「紹介状を書くので、次に来るときまでに病院を決めておいてほしい」
と言われたけれど、病院のことなんて全然知らないので、比較的近所で、手術の順番待ちも短いという病院のパンフレットももらいました。
また、医療費については「高額医療の補助」という制度があるので、区役所に聞いてみると良い、と教えてもらいました。
「事前に申請しておけば、それ以上請求されませんから。だいたい8万円くらいで収まると思いますよ」
8万円。安くはないけれど、手術を諦める金額ではなくてひとまずホッとしました。
わたしは生命保険に入っていなかったのです。貯金なんてもちろんない。なんだかんだで、いちばん不安になるお金ですが、8万円ならなんとかなりそうです。
病院をあとにして仕事に向かいながら、これからのことを考えました。
入院、手術、術後経過……。その間の猫の世話も、誰かに頼まねば。
新潟に暮らしている年金暮らしの母が適任だろうけど、東京でひとり暮らしをするのは不安だろうから、兄にも来てもらう必要があるだろう。
いまお仕事している相手には、いつ伝えれば良いんだろう。わたしはこれから仕事ができるんだろうか。仕事しないと治療費だって払えないので、働けないのは困るのだ。
いつ手術するのだろう。
わたしのおっぱいはどうなる。
入院するまでやることはないのだろうか。
入院期間はどのくらい?
退院したらすぐに働けるの?
ああ、分からないことばかり。すべては血液検査のあとで!
不安な気持ちを吐き出したいと、母と兄に電話したけれどつながらない。
そういうものだよね、と妙に納得してしまいました。
お腹が空いたので、日高屋に入った。「食事制限は特になかったよな」と思って、レバニラ定食とランチビールを注文しました。