「カジノの神様」が少なくなった理由とは?
かつてカジノには“神様”のようなディーラーがいた。1990年代のはじめ、まだカジノ初心者だったぼくは、ラスベガス大通り(=通称「ストリップ」)南端の「サン・レモ」というカジノホテルに泊まった。
そこで声をかけられたのが、カーネル・サンダースみたいなディーラーだった。誘いに乗って彼のテーブルでブラックジャックを始めたところ、ヒット(=カードを引く)すべきか、ステイ(=引かない)すべきかを、顔の表情や仕草で教えてくれた。その様子は前回のコラムでお伝えした通りだ。
しかし近年、こうした”神様”のようなディーラーは、非常に少なくなってしまったと感じる。今回は、その理由について僕の考察をお話ししたい。
「ブラックジャックテーブル」の改良
話の都合上、ブラックジャックの進行について説明しておきたい。
ブラックジャックでは「シュー」と呼ばれる箱からカードを1枚ずつ取り出し、プレイヤーに2枚ずつ表(=数字の見える面を上)にして配る。そして、ディーラーには1枚を表に、2枚目を伏せて配る。
その際、ディーラーの表のカード(=フェイスカードという)が「A」または「10」「J」「Q」「K」(=いずれも10と数える)の場合、ブラックジャックが成立している可能性があるので、ディーラーは伏せたカードを確認することになっている【図1】。
ブラックジャックが成立していればその時点でディーラーの勝ちとなり、成立していなければディーラーは自分の手の内を知った上でゲームを続行するので、冒頭で説明した”神様”のようなこと(ヒットすべきかステイすべきかを合図する)も可能となる。
あまり大きな声では言えないが、あの当時、表にしたカードが「A」「10」「J」「Q」「K」以外の場合でも、伏せたカードを見ているディーラーがいた。うっかりなのかどうかは不明だが、見る回数が増えれば“神様”になれる回数が増えるのも道理であろう。
ところが、その後テーブルは改良されていき、現在はカードを伏せたまま、ブラックジャックが成立しているか否かが自動判別されるようになっている。伏せたカードを見る回数が減れば“神様”になれる回数が減るのも、これまた道理というわけだ。
「シャッフルマシン」の登場
もう一つ、触れておかなくてはならないのは、ある道具の登場だ。「シャッフルマシン」【図2】である。
これにより事実上不可能になったのが「カードカウンティング」だ。
カードカウンティングとは、すでに使われた特定の種類のカードを記憶し、残りのカードがプレイヤーに有利と判断できれば賭け金を増やして勝負する戦法のこと。トム・クルーズとダスティン・ホフマンが出演した映画『レインマン』に出てきたので覚えている人もいるかもしれない。
この方法は実際に有効で、マサチューセッツ工科大学の学生などがチームを組んでカジノから大金を巻き上げたことも話題となった。
むろん、ぼくのような凡人には不可能なことだが、こういうことが出来る人が実際にいるため、やがてカジノはカウンティングを禁止したが、人間の思考を完全にチェックすることなど困難。そこに登場したのがシャッフルマシンだった。
カウンティングという方法はカードに限りがあるのが大前提なので、使用したカードを戻さない従来のシュー【図3】では可能だが、使用したカードを元に戻してシャッフルするマシンの場合、事実上無意味になるというわけだ。
天才ディーラー抑止の目的もある?
シャッフルマシンはカードカウンティング対策として導入されたものだが、それ以外にもディーラーの「ある行為」を防いでいるという見方もある。
従来のシューでは、ディーラーが手作業でシャッフルし、その後、客が指定(=カットという)した位置でカードの束の前後を入れ替え、シューに収めるやり方だった【図4】【図5】。
人間にはたまに超人的な能力の持ち主がいるため、こうしたシャッフルの際に、カードを都合のいい順番に並べる「積み込み」のようなことが絶対に起きないとは断言できない。しかし、シャッフルマシンであればその可能性も消えるのだ。
ここまで説明したとおり、「ブラックジャックテーブル」の改良と「シャッフルマシン」の登場により、”神様”のようなディーラーが減ったのではないかと考えている。
さらに時代的な要因もあるのではないだろうか。僕が”神様”のようなディーラーに出会った当時は、インターネットはおろか携帯電話すら普及していない時代。何か起きてもそれが世界にたちまち広がるようなこともなく、どこかのどかな世の中だった。“神様”のようなディーラーがいたのも、そんな時代ゆえかもしれない。