スポーツイベントとカジノの切っても切れない関係 五輪とカジノ(下)

コキットラムにあるBOULEVARDカジノ(photo by Mars Matsui)
コキットラムにあるBOULEVARDカジノ(photo by Mars Matsui)

カジノ誘致で行政と地元が交わした「約束」

バンクーバー五輪(2010年)でカナダを訪れた際、ぼくはバンクーバー近郊のコキットラム市の民泊に泊まった。そこから車を何分か走らせたところに「BOULEVARD」という名前のカジノがあった。

この時はあくまで五輪観戦に来たつもりだったので、宿の近くにカジノがあるかどうかなんて調べていなかったが、あると教えてくれたのは宿のオーナーだった。

彼によれば、このカジノが作られる際、地元では相当なすったもんだがあったらしい。
「犯罪の温床になる」「治安が悪くなる」「教育上良くない」など、日本と同じような不安の声があがったが、行政が大きく2つの約束をすることで、カジノの設置が受け入れられた。

その2つとは、
1.カジノを巡るお金の流れを透明化すること
2.収益を地元の福祉や教育に還元すること
という内容だ。

カジノがらみの犯罪というと、客によるイカサマを想像する人がいるかもしれないが、そんなのはもっぱら映画や漫画の中の話で、実際はカジノを作る側や運営する側が起こす犯罪のほうがずっとポピュラーだ。日本のIR担当副大臣だった自民党(当時)の秋元司衆議院議員が、中国のカジノ会社からの収賄で逮捕されたこともまさに典型といえるだろう。

そうした問題が起きないことは大前提とし、カジノは市に粗利の10%を納税することを約束。具体的には、図書館の新築やスタジアムの改修など、地元のインフラ整備に使用された。

BOULEVARDカジノ 外観(photo by Mars Matsui)

カナダのカジノは州政府が民間に営業させる「官設民営」なので、日本とは形態が違うが、民泊のオーナーも、カジノはきちんと管理することで地域にメリットももたらす面があると話していた。

そんな彼は、カジノに出撃するぼくを、最初のうちは「お金がなくなるから」と引きとめていたが、やがて引きとめるのをやめた。ぼくがたびたび勝って帰ってきたからだ。

でも、勝てたのは決してぼくが上手だったからではない。誰でも勝てるような出目が出たからだ。

「おおお!」と歓声があがった あれは「偶然」だったのか?

フロアのイメージ(Illustrated by Mars Matsui)

ある晩のことである。ルーレットのテーブルに着くと女性ディーラーがニコリとした。ぼくも真似してニコリとし、深く考えず賭けてみた。すると7(赤)が的中。これは幸先よいと、お礼のチップを投げた。

次のゲーム。もう一度7の周辺に賭けてみた。

ルーレットではチップを置く場所と回転盤上の数字の並び順が異なっている。ぼくが賭けたのは回転盤上の7のまわりだが、玉は反対側に落ちた。大外れである。

3ゲーム目。もう一度7のまわりに賭けると、また7が的中した。

4ゲーム目は黒でハズレ。

ここまで「赤」→「黒」→「赤」→「黒」の順番で来ている。しかも2回出た赤はどちらも7。もしや7がまた出るのではないか?

ほかのお客さんも気づいたようで、テーブルに集まってきて7に賭けた。

もちろんぼくも賭けたが、出たのは32。テーブルに「そう簡単にはいかないか」という空気が流れたが、「赤」→「黒」→「赤」→「黒」→「赤」の順番は続いている。

次に黒が出ると、みんな一斉に7に賭けた。みんなが注目する中、ディーラーの投げた玉は3度目の7に落ちた。

「おおお!」という声が上がった。

次に黒が出ると、みんな「夢よもう一度」といった感じで、いかにもダメモトといった様子で再び7に賭けた。すると、何と、玉は4度目の7に落ちたのだ。

偶然かディーラーの大サービスか?(Illustrated by Mars Matsui)

名前も知らないお客さんたちと、ぼくは手を取り合って喜んだ。ディーラーにお礼のチップを投げると、彼女はそこで交代した。

不思議な出目になるときは、ある共通点があった

この結果が果たして偶然なのか、それとも天才的な技能を持ったディーラーの大サービスなのか、ぼくにはわからない。でもひとつだけ言えるのは、不思議な出目は人間のディーラーが投げているテーブルで起きたということだ。

ラスベガスやアトランティックシティでも似たことを何度か経験しているが、どれも人間が投げているルーレットであり、自動化された機械式ルーレットではあまり見たことがない。

カジノでのおもてなしというと、ショーや豪華なホテルや食事などが話題になりがちだが、やはりゲームそのもので特別な体験をさせてもらうことが一番だとぼくは思う。

五輪やワールドカップなどスポーツイベントに来る人は、ホスト国にいいイメージを持ってもらうための大切なお客さんだ。そんな人がカジノでこんな体験をすればたぶん一生忘れない。まさにぼくがそうで、バンクーバー五輪の思い出は、このカジノ抜きでは語れない。

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松井政就 (まつい・まさなり)

作家。1966年生まれ。著書に『本物のカジノへ行こう!』(文春新書)『大事なことはみんな女が教えてくれた』(PHP文庫)ほか。ラブレター代筆、ソニーのプランナー、貴重品専門の配送、ネットニュース編集、フィギュアスケート記者、国会議員のスピーチライターなどの経歴あり。外国のカジノ巡りは25年を超え、合法化言い出しっぺの一人。夕刊フジでコラム連載中。

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