「ダイヤモンド・ジョー」 カジノに集う人々に、古き良きアメリカを見た

ダイヤモンド・ジョー カジノ(Photo by Mars Matsui)
ダイヤモンド・ジョー カジノ(Photo by Mars Matsui)

今から10年ほど前、ぼくはミシシッピ川流域に出かけた。

その少し前、アメリカは2016年夏のオリンピック招致に名乗りを挙げていた。

テレビでは、開催都市に立候補したシカゴ市民が招致活動をする様子が連日報道され、投票直前には当時のオバマ大統領とミッシェル夫人がわざわざコペンハーゲンのIOC総会に足を運んで演説する姿が映し出されていた。

大統領夫妻がじきじきにプレゼンしたとなれば、もはや決まったも同然と思っていたところ意外にも落選。ぼくが着いた頃には、アメリカは何事もなかったかのように穏やかになっていた。

ミシシッピ川流域にもカジノはある。陸地にあるカジノと川にあるカジノの2種類だ。
陸地のカジノというのはラスベガスのように地面の上にあるカジノのことで、川にあるカジノというのは「リバーボート式カジノ」つまり「カジノ客船」のことである。
それは上流のアイオワ州にあると聞いていた。

ぼくはウィスコンシン州を経由してアイオワ州に向かった。

道中、「ローラ・インガルス・ワイルダー博物館」に立ち寄った。
この名前を聞いてピンと来た人は、たぶん50歳以上ではないだろうか?
昭和50年代、日本のテレビでも放送され、大人気となったドラマに『大草原の小さな家』がある。アメリカの開拓時代を描いたドラマだが、その作者で、登場人物でもあるのがローラ・インガルス・ワイルダーだ。

「ローラ・インガルス・ワイルダー博物館」(Photo by Mars Matsui)

ぼくもそのドラマが大好きで、この家を見た瞬間、「懐かしい!」と声をあげた。
しかも中に入ると、想像以上に綺麗で、作りもしっかりとしている。あまりにぼくが驚いていたせいか、係の人がやってきて、「この家は当時とそっくりに作り直したレプリカだ」と教えてくれた。

「なあんだ」とは思ったが、それはそうだろう。開拓時代の家がそのまま残っているわけがないのだ。

しばし思い出に浸ったあと出発。太陽が傾きはじめ、空がオレンジ色になりかけた頃、アイオワ州ドゥビュークに到着した。

ここにカジノがあるはずだ。

ミシシッピ川に浮かぶカジノ客船はどこに……

心躍らせて港に来ると、中くらいの大きさの船が停泊し、乗船するための渡り廊下には大きな文字で「CASINO」と書いてある。

期待を持たせた渡り廊下(Photo by Mars Matsui)

これがカジノ客船かと思ったが、乗ってみたところ、どうも様子が違う。カジノなどどこにもないのだ。

おかしいと思って船員に尋ねると、カジノ客船ではなくクルーズ船とのこと。
でも、渡り廊下にカジノと書いてあるじゃないかというと、あれはすぐそばの陸のカジノへの通路で、カジノ客船があるのはミシシッピ川の別の港と教えられた。

肩から力が抜けた。
下調べが足りなかったことを反省したが、まさに“乗りかかった船”。そのままクルーズに出ると、あながち捨てたものではなかった。水車(外輪)を回転させて進む昔ながらの船は懐かしく、ノスタルジックな気持ちに浸りながら、ミシシッピの自然を楽しんだ。

外輪船クルーズ(Photo by Mars Matsui)
船内で食事を楽しむ人々(Photo by Mars Matsui)

船を降りたぼくは「CASINO」と書かれた通路を通って、陸地のカジノに向かった。

カジノの名前は「ダイヤモンド・ジョー」といった。入ってみると、ここがカジノとは思えないほどひっそりとしていた。

ダイヤモンド・ジョーの中(Photo by Mars Matsui)
ボウリング場(Photo by Mars Matsui)

廊下を進むとボウリング場があった。いまどきレトロだ。

さらに進むとホールから楽器の演奏と歌声が聞こえてきた。
歌手のライブでもやっているのかと思ったが、歌声にキレがない。何かがおかしいと思っていると、ぼくの表情に気づいたのか、従業員がやってきてドアを開け、中を見せてくれた。

お客さんのカラオケ(Photo by Mars Matsui)

歌っていたのはお客さん。つまり、コンサートホールで客がカラオケをやっていたのである。
こうなると、カジノがどうなっているのか気になってくる。

期待に胸を膨らませ、というよりはむしろ恐る恐るといった気持ちでカジノフロアにやって来ると、老いも若きもみなテーブルゲームをやっていた。

テーブルゲームに集まる人(Photo by Mars Matsui)

近年、アメリカのカジノはスロットで埋め尽くされ、とくに老人はスロットに流れがち。
このダイヤモンド・ジョーもフロアの大部分がスロットで覆われていたが、客の大半はテーブルゲームをやっていた。

それは老人も同じだった。

ブラックジャックでは、老人が震える手でヒットしていた。
クラップスでも老人が輪になり、立ちっぱなしで疲れたのだろう、足を曲げたり伸ばしたりしながら遊び、当たれば若者と一緒になって喜んでいた。

クラップスをする老人(Photo by Mars Matsui)

若者との違いがあるとすれば、喜んだ時の声がかすれ、ハイタッチする腕の動きが鈍いことくらい。ここでは老いも若きも同じように遊んでいた。

ぼくはある競馬好き老人の言葉を思い出した。
「最近の競馬場は何もかも若者向けで、年寄りには居場所がない」

それを思うと、ボウリングやカラオケは昔ながらの遊びだし、カジノの原点もテーブルゲームだ。このカジノは、老人も気後れしないで遊べるような雰囲気作りが上手なのかもしれないとぼくは思った。

翌日の移動中、映画『フィールド・オブ・ドリームス』のロケ地に足を止めた。

映画『フィールド・オブ・ドリームス』のロケ地(Photo by Mars Matsui)

広大なトウモロコシ畑を切り開いて作られた野球場で、これを見てまた頭の中に当時が蘇った。

『大草原の小さな家』に『フィールド・オブ・ドリームス』。ミシシッピ川では外輪船クルーズ。そんな古き良き時代が残っている地域だからこそ、カジノでもみんなが自然にテーブルゲームに集まるのかもしれないと、ぼくは思った。

(※記事中の写真はすべて許可を得て撮影したものです)

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松井政就 (まつい・まさなり)

作家。1966年生まれ。著書に『本物のカジノへ行こう!』(文春新書)『大事なことはみんな女が教えてくれた』(PHP文庫)ほか。ラブレター代筆、ソニーのプランナー、貴重品専門の配送、ネットニュース編集、フィギュアスケート記者、国会議員のスピーチライターなどの経歴あり。外国のカジノ巡りは25年を超え、合法化言い出しっぺの一人。夕刊フジでコラム連載中。

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