戦国武将・宇喜多秀家も口にした!? 八丈島「アオウミガメ」の煮込み

独自の食文化が残る八丈島へ飛んだ(イラスト・古本有美)
独自の食文化が残る八丈島へ飛んだ(イラスト・古本有美)

作家の山口瞳が言っていた。「最初の一杯がいい。そして、最後の一杯も捨てがたい」。結局、あれこれ理由をつけて酒を飲んでしまうのだが、私がここに来たのは理由がある。

東京の都心から南に約300キロ。太平洋に浮かぶ八丈島(東京都八丈町)。ここにはウミガメを食べる食文化がある。それをつまみに一杯やろうという魂胆である。

ウミガメは絶滅危惧種に指定されているが、都の漁業調整規則で制限つきで捕獲が許されている。八丈島よりさらに南の小笠原諸島・母島で捕獲・解体されたアオウミガメである。

島の中心、三根地区にある居酒屋「梁山泊」へ。メニューには「Sea Turtle Broth」という英語表記とともに「青海亀の煮込み」と書かれている。亀の体のいろいろな部分をみそ汁風に煮込んだという。一皿千円。

「風味を引き立てるため、ショウガや島特産のアシタバを入れて煮ます。タマネギを入れる地域もありますよ」と店の従業員が説明する。煮込みの汁は黄緑色っぽく、独特のにおいが鼻につく。初めてだったので一瞬引いてしまったが、隣に座った島の人は「亀のエキスが溶け込んでいる。これがうまいんだ」。器に盛られたスープをすべて飲み干す。私も飲んでみる。体の中からみるみる元気がみなぎってくるような感じがしてきた。

アオウミガメの煮込み

八丈島は「旅人を包み込むように温かい」

沖合を黒潮が流れ、漂流・漂着の文化が花開いた八丈島。「旅人を包み込むように温かいのは、懐の深い歴史があるから」と島の人は誇らしげに話す。宇喜多秀家も流人だった。西暦1600年の「関ヶ原の戦い」で敗れた西軍の主力である。以来、明治初期までの260年あまりの間に約1900人が流されたと伝えられる。

「秀家も亀を食べたんじゃないでしょうか。内臓がとくにうまいんです」と店を案内してくれた源博道さん。島にある寺の住職で、平安末期の武将・源為朝の子孫だという。たしかに、貴重なたんぱく源だったのだろう。34歳で島に流されたあと、50年近く生きた秀家も亀肉を食べたにちがいない。

昼間、島の自然を紹介している「ビジターセンター」を訪ねたことを思い出した。アオウミガメの100グラム(刺し身用)あたりの栄養分析表が掲示されていた。82キロカロリーで水分79.7グラム、たんぱく質19.1グラム、脂質0.2グラム。なるほど低カロリーで高たんぱくだ。

さて、居酒屋「梁山泊」での夜。ウミガメの煮込みのほか、名産クサヤやカンパチの刺し身などをたらふく食べ、ほろ酔い加減でホテルに戻った。人は食べたものに似てくるという。部屋の鏡に映る自分の顔を見たら丸い。目も眠たそうだ。なんだか自分が亀になって海に帰ってしまうような気がしてきた。

でもいいか。亀は古来、幸運、金運、健康をもたらすといわれているのだから。明日は島のスナックを巡ってみよう。ムフフ。楽しみ、楽しみ。

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小泉信一 (こいずみ・しんいち)

1961年生まれ。朝日新聞編集委員(大衆文化担当)。演歌・昭和歌謡、旅芝居、酒場、社会風俗、怪異伝承、哲学、文学、鉄道旅行、寅さんなど扱うテーマは森羅万象にわたる。著書に『東京下町』『東京スケッチブック』『寅さんの伝言』など。

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