「僕たちはドラムで会話する」アフリカ音楽の楽しさを伝えるガーナ人

ドラムはコミュニケーションの手段
「ガーナではね、学校の前にドラムが置いてあって、ドラム係の子どもたちが、休み時間や集合時間になるとドラムを叩いて知らせるんです。僕たちにとってサウンドは言葉。みんなリズムの意味を理解している。例えば」と言って、エイモスさんは手拍子を取り始めました。
タン、タン、タン、タ、タン
Come and let us play. (出ておいで。遊ぼう)
「このリズムを聞くと、みんな出てきて遊びに加わるんだ」
今度はドラムを叩きます。
タン、タン、タ、タン。タン、タン、タ、タン
Let’s go to daddy. Let’s go to daddy.(父さんとこに行こう)
今度は別のドラムで。
ドン、ドン、ドン、ドン。
Me Me Me Me.(僕、僕、僕、僕)
ドン、ドン、ド、ド、ドン。
Me Me Me & You.(僕、僕、僕と君)
「ドラム・ランゲージを理解していない人にとってはただの音だけど、僕たちにとっては言葉なんです」

アフリカでは、音楽は人々の生活の一部。特にガーナでは、夕食がすむと、人々は茶碗やスプーンを叩いてリズムを取り始めます。まるで、体の中を音楽が流れているように、体がリズムを刻み始めるのです。文化のなかでも音楽とダンスが重要な位置を占めているだけに、ドラムの種類も多く、日常的に楽しむドラムから、儀式用のドラム、キングやクイーンのためだけに使われるドラムなど、大きさや用途も様々な種類があります。
「ガーナは46の部族からなる国で、公用語は英語ですが、部族の数だけ言語があり、キングとクイーンがいます。キングとクイーンは、部族の人たちに伝えたいことや相談したいことがあると、ドラムを叩いてみんなを呼び集めるんです。僕たちがキングにドラムでメッセージを送ることもありますよ。リズムを間違えるとキングとクイーンに対して大変失礼に当たるので、細心の注意を払ってね」
アフリカ版プレイステーション
エイモス・ガビアさん(37)は西アフリカのガーナ共和国出身のパーカッショニスト。家の中に歌やダンスが絶えない大家族で育ちました。11歳でドラムを始め、プロのバンドに入ります。毎年のようにオーストラリアに行き、あちこちの学校を回って子どもたちにアフリカの音楽を教えていたことも。
現在はニューヨークを拠点にパーカッショニストとして活動する一方、子どもたちに西アフリカの音楽や文化を紹介したり、ワークショップでアフリカンドラムの一つ、ジャンベの叩き方を教えたりしています。

「オーストラリアやアメリカの子どもたちは、アフリカを大きなひとつの国だと思っていたり、アフリカの打楽器といえば全部ボンゴだと思っていたりするんです。僕は子どもの頃、ピアノもギターもキーボードも知っていました。ところが、アフリカの外では、アフリカの音楽もドラムのことも何も知らない人が多い。子どもたちにもっとアフリカのことを教えたい。僕の使命は子どもたちに音楽を好きになってもらうことです。そして、たくさんあるアフリカの打楽器の種類や名称、伝統的な西アフリカの音楽、歌の背景にある歴史や物語を伝えたい」
ところで、現代の私たちの生活は、モバイルフォンやコンピュータゲームなどの文明機器であふれています。でも、「アフリカにはとっくのむかしにモバイルフォンがあったし、子どもたちは“アフリカ版”プレイステーションで遊んでいるんですよ」とエイモスさん。
アフリカでは、むかし村から村へメッセージを伝えるのにトーキングドラムが使われていました。これはエイモスさんによると、アフリカ版「スローモバイルフォン」だそうな。今でもトーキングドラムの伝統は残っていて、人を呼びたいときに電話の代わりにドラムを叩くこともあるそうです。
また、エイモスさんが子どもの頃に遊んでいた、「アサラト」というヨーヨーとマラカスを合わせたような遊具は……。

「学校でこれを子どもたちに紹介するときは、アサラトとはいわずに、『アフリカのプレイステーションだ』と言うんですよ。すると、子どもたちはみんな大笑いする」
アサラトは、アボカドの種くらいの大きさの、木の実の種の中をくりぬいて、その中に米や他の植物の種、ビーズなどを入れてふさいだものをふたつ、紐でつなげた打楽器。ガーナの子どもたちは、自分でアサラトを作ります。そして、これを両手にひとつずつもち、ヨーヨーやけん玉のように様々な動きやリズムを楽しみます。
ヨーヨーやけん玉と違うのは、左右で違う動きやリズムを取らなければいけないこと。そして、ソニーのプレイステーションよりすごいのは、もれなく楽しいサウンドとリズムがついてきて、プレイしながら歌も歌えること。
「音楽はとても大切なもの。僕は子どもたちに、『音楽は魂の食べ物なんだよ』と言っています。好きな音楽を聴けばハッピーになれる。ドラムを叩いたりダンスをすれば、筋肉も鍛えられる。僕にとって音楽は人生そのものです」
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