拾ったダンボールで「名刺入れ」を作ると、ストーリーと会話が生まれる

ダンボールアーティストの島津冬樹さん
ダンボールアーティストの島津冬樹さん

「ダンボールが輝いて見えるんです」。そう語るダンボールアーティスト、島津冬樹さんのワークショップが11月21日、東京・渋谷で開かれました。

世界各地の街角に捨てられているダンボールを拾って、財布や名刺入れを作っている島津さん。彼の活動を追ったドキュメンタリー映画『旅するダンボール』が12月7日に劇場公開されるのを前に、約20人の参加者たちは、捨てられていたダンボールから名刺入れを作ってみて、不要品から「価値ある物」が生まれる瞬間を体験しました。

ワークショップは、朝日新聞の未来メディアカフェの一環として開催。ワークショップの後のトークセッションでは、DANROの亀松太郎編集長が聞き手となって、島津さんと映画監督の岡島龍介さん、プロデューサーの汐巻裕子さんが、映画『旅するダンボール』の裏話などについて語り合いました。

ダンボール名刺入れづくりを体験

ワークショップの様子

ダンボールの名刺入れを作るワークショップでは、島津さんがスクリーンに図を映し出して、丁寧に作り方をレクチャー。歩き回りながら、一人ひとりに作るコツをアドバイスしていました。参加者はみな真剣な表情で、ダンボールと向き合っていました。

参加者の男性がキリンビールのダンボールで作った名刺入れ

島津さんは、参加者の作品を一つ一つ見ながら「みなさん、普段から工作をしてるんですか?」と感想を漏らすほど、完成度の高さに驚いていました。キリンビールのダンボールで名刺入れを作った30代の男性は次のように感想を語っていました。

「ダンボールにはストーリーや文脈があります。この名刺入れを使うことで、『ビール好きなんですか?』『キリンの人ですか?』といった会話が生まれる。そこから生まれるコミュニケーションが素敵だなと思いました」

トークショーの様子

「好き」から環境問題にアプローチ

イベントの後半はDANROの亀松編集長が聞き手となって、島津さんと岡島監督、汐巻プロデューサーが語り合いました。

ダンボールアーティストの島津冬樹さん

島津さんは大学生のときにダンボール拾いにハマって以来、ダンボールが好きでたまらないといいます。ゆるいデザインが多く、「暖かみ」を感じることができるからだそうです。普段道を歩くときも、ダンボールが落ちていないかが気になって、下ばかりを見てしまうとのこと。

そんなダンボールのすばらしさを、ひとりでも多くの人に伝えたいという思いから、この映画を企画しました。そんな島津さんに対して、プロデューサーの汐巻さんは、「好き」という思いが結果的に地球環境の課題解決につながっているのがおもしろいと言います。

映画『旅するダンボール』のプロデューサー・汐巻裕子さん

「私たち市民は『(地球環境のために)何をしたらいいのかな』という戸惑いが今の段階であります。たとえば、『(プラスチック製の)ストローを本当に全部やめるの?』と。ここまで(環境問題が)進んでしまって、無理難題なんじゃないかと思いがちです。それを逆のアプローチで、島津くんは好きから入っていく。結果的に、地球のためや誰かのためのリターンの行為になっていく。それが新しいと思いました」(汐巻さん)

映画『旅するダンボール』の監督・岡島龍介さん

岡島監督は、映画を撮影しているとき、島津さんのダンボールへの愛がいったい何につながるのか、先が見えなかったことがあるといいます。そんな時に、汐巻さんから「アップサイクル」という言葉が出てきたそうです。

「アップサイクルとは、価値のないものから価値を生み出していくということです。島津くんがやっている活動はアップサイクルじゃないかと気づいた。それをエンディングにしようと全員一致したんです」(岡島監督)

参加者の女性がマレーシアのダンボールで作った名刺入れ

トークショーでは、ワークショップの参加者も感想を語りました。マレーシアのダンボールで名刺入れを作った20代の女性は、大学生のときマレーシアに留学していたそうです。帰国後、マレーシアで知り合った友人が、現地の物をダンボールに入れて送ってくれました。

「送ってくれる気持ちがすごく嬉しいし、ダンボールは日本ではなかなかないようなデザインで、すごくかわいいんです。これは捨てたくないと思っていたときにテレビで島津さんの作品を見て、絶対いつかこれを使おうと思っていました」

マレーシアのダンボール

そんな話に対して、汐巻さんは「まさに島津くんがやっているダンボール集めと一緒。デザインが単にかわいいということだけではなく、ダンボールが人の手を経てきた歴史や道筋、その裏側にあるストーリーが好きなんですね」と語っていました。

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