「ひとりで全部できちゃうんじゃない?」映像ディレクターが見つけたウェブシネマの可能性

ウェブドラマシリーズ「映画かよ。」を自主制作している駒谷揚さん(写真撮影・小澤公則)

フリーランスの映像ディレクター・駒谷揚さん(49)は、コロナ禍のなか、制作・脚本・監督・撮影・編集のすべてをひとりで行ったウェブドラマシリーズ「映画かよ。(Like in Movies)」(全18話)を自主制作し、YouTubeで配信した。

「映画かよ。」は、映画ヲタクたちの「映画まみれの日常」を描いたショートコメディの連続作品。海外の映画好きに高く評価され、アメリカでは、インディーズ映画祭の中でも名が知られているスラムダンス映画祭のほか、アービング国際映画祭、デッドセンター映画祭、イタリアのシシリー・ウェブ・フェストや韓国のソウル・ウェブ・フェストにも入選。カナダのギークフェスト・トロントではベストウェブシリーズ賞に輝いた。

好評を受けて制作された「シーズン2」が6月5日から、「映画かよ。」のYouTubeチャンネルで配信される予定だ。

駒谷さんはこれまで、映像制作会社に所属する傍ら、自主制作で短・長編の映画を作り続け、世界各地の映画祭で何度も受賞してきたが、ブレークスルーにならなかった。しかし、コロナ禍でフリーに転向した今、「映画かよ。」は、自身の次の展開の鍵になっているという。

「映画かよ。」のポスター(撮影&デザイン・鈴木司)

全部ひとりでできちゃうんじゃない?

――このウェブドラマシリーズを作ろうと思ったきっかけは?

駒谷:映画や映像作品を作るのに、ひとりで制作・脚本・監督・撮影・編集を全部できる時代になって、何かやろうとずっと考えていました。タイミングとしては、初の長編映画「TICKET」(2018年) が海外の映画祭でいくつか受賞して、日本で劇場公開できたらと考えていたんですが、いつまでたっても実現しないので、そのイライラの反動というか、「いままでやったことがないシリーズものを、やったことがないYouTubeを使ってやってみよう」と考えました。

僕は2000年代のはじめに映像ディレクターになりました。当時の映像の仕事は今よりもずっと分業制で、パソコンで編集もやる僕のような存在はまだ珍しかったので、低予算のウェブシネマがはやりだしたころ、脚本が書けて、監督も編集もひとりでできる人材として重宝されました。それでも、撮影は光の調整や専門機材を扱うのでカメラマンにお願いしていたし、録音もプロの方に頼らざるをえませんでした。

それが、キヤノンの5Dという一眼レフカメラのシリーズの登場で、写真のクオリティーで映像も撮れる、となったのが2010年あたり。さらに録音機能の質も向上して、「全部ひとりでできちゃうんじゃない?」という空気が流れ始めたのが2015年ぐらいです。そのころは長編映画の制作を優先していましたが、なにかやりたいなと、周りにボソボソ言ってました。

「映画かよ。」の第1話は、2日ほどで脚本を書きました。シリーズものなので、機動力を考えたら、演じる以外はひとりでやるに越したことはない。物語の内容も自分自身をモデルにして、映画ヲタクの主人公とその仲間たちが映画に支配されている日常を描くコメディーにしました。

旧知の俳優の伊藤武雄さんに声を掛けて、やると決めてから1カ月ぐらいで脚本から仕上げまで終えました。とにかく勢いで作ったんですが、完成したら周りから「結構面白かった」と言われたので、さらにエピソードを重ねていきました。

「映画かよ。」撮影中の駒谷さん(左)。右は主人公、ミノル役を演じる俳優の伊藤武雄さん(写真撮影・小澤公則)

頼りない「担保」でフリー転向決意

――コロナ禍の2020年7月に、勤務していた映像会社を退職してフリーに転向されたんですね?

駒谷:2020年の4月初めに非常事態宣言が出されたときに映像業界の仕事は大方ストップし、僕も実質上、休業状態になりました。

アメリカの大学(カリフォルニア州立サンフランシスコ校)の卒業後に入社して、ずっと世話になってきた会社で、「ここに居れば、クビにならない限り、ある程度の年齢までは何とかなる」なんて思っていました。それがコロナ禍で、社会全体がどうなるのかも分からない状況になって、やりたいことを続けるためにどうするべきかと考えました。

ちょうど「映画かよ。」を2020年の1月に撮影して、2月に配信を始めていたので、これに全力を注ぐためにフリーになる絶好のタイミングかもしれないと思いました。

考えてみれば、「何かに育ちそうなにおいがする」とか「友達にはウケている」といった程度のものに全力を注ごうというのは、すごく頼りない担保ですね(笑)。ただ、面白いものを作っている自信はあったし、「これは2、3年放っておくと多分腐ってしまう。本気でやるなら、向こう1年で何とかしなきゃ」という思いがありました。

会社を辞めると決めたときは、1年間仕事がなくても全力で「映画かよ。」の制作を続けて、どこまで行けるか試してみて、もし食っていけなくなったら、どこでも、なんでもいいから働くしかない、という覚悟をしました。

俳優たちに脚本の説明をする駒谷さん(写真撮影・小澤公則)

――長年自主制作を続けてきて、目標に変化はありましたか?

駒谷:これまで「賞をもらって一攫千金」みたいなことばかり狙ってきました。自分も含め、自主制作をしている人は短編から始めるんですが、映画祭で賞をもらってもその先につながらない、というジレンマにぶち当たる。そうすると長編に手を出す。

僕は長編作品の「TICKET」を作ったとき、「海外の映画祭で賞を取って、日本で劇場公開して」というのをエグジットと定めていました。でも、実際に海外で賞を受賞しても、簡単に劇場公開とはならず、未だに公開の方法を模索している状況です。

――「映画かよ。」はこれまでの自主作品とどう違うのですか?

駒谷:YouTubeでの配信なので、広告収入によるマネタイズを真っ先に考えました。そういう意味では、チャンネルの登録者数は1000人以下なので満足からほど遠いです。ただ、これまでと大きく違うのは、コンテンツがネット上にあって、いつでもどこでも観てもらえて、即座にフィードバックがもらえること。だから自分自身も含め、出演するプロの俳優たちにとって、思った以上にいい宣伝材料になり始めています。

作品については、「フィールド・オブ・ドリームス」じゃないですけど、圧倒的に面白いものを作れば人はついてくる、みたいな幻想を昔から持っています。「映画かよ。」では、地上波やケーブルテレビ、劇場映画などスポンサーが必要な作品では決してできない、タブーをかえりみない、オリジナリティーの高いものを作っている自負があります。

僕の場合は英語が使えるので、英語字幕をつければ世界に向けて発信できるというのも大きい。

街中で撮影をする駒谷さん(写真撮影・小澤公則)

世界の人に狙い通りに面白がられる

――映画祭の入選も、これまでと意味合いが変わってきていますか?

駒谷:海外の映画祭関係者と話したり、インタビューを受けたりしていると万国共通で、映画好きな人が、狙い通りに面白がってくれるのが分かります。これまでは海外の映画祭で紹介されても、現地の映画館で決まった場所と時間でしか観せられなかった作品を、誰かが誰かに紹介してくれたらYouTubeですぐに観てもらえる。

とくに今、ハリウッドではスタッフやキャストのダイバーシティーが進んでいて、NetflixやAmazon制作のドラマも含め、アジア人のキャストが広く求められていると聞きます。

だから極端な話、世界中の映画関係者が「映画かよ。」に出演した俳優たちを気に入って、いつ声を掛けてきてもおかしくない。世界の映画業界に向けた素晴らしいオーディションの舞台にもなり得ると考えています。

「映画かよ。」が入選したスラムダンス映画祭のインタビュー

――世界各国で外出自粛令が出ている最中の2020年3月に開かれた「Stuck at Home 48 Hours Film Project 」(アメリカ)に出品するため、「自宅を出ず」「48時間で」というしばりで駒谷さんが製作した作品「King&Queen」も、同映画祭のほか、日・米・英・独・スペインなど8つの映画祭に入選していますね。いまはネット上での動画配信の形を取る映画祭も多く、文字通り、世界に向けて配信されている状況です。

駒谷:世界に観てもらえる機会が増えることで、作り続ける意欲は湧きます。3月には英語版のYouTubeチャンネルも開設しました。まだ頼りない担保のままですが、「映画かよ。」が将来に直結している可能性を感じているからこそ、全力で頑張っています。 

僕が頭を打って、映画を撮れなくなったり、映画の知識が吹っ飛んでしまったりしない限り、制作を続けられるだけのネタはあるし、自信もあります。

今さっき、「アル・パチーノから突然出演オファーの電話がきた」という内容のエピソードを思いつきましたが、そういった「それって勝手にやっていいの?」というような、チャレンジングなアイディアをどんどん試していきますから、そういうところに注目してほしいです

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田中真太郎 (たなか・しんたろう)

ジャーナリスト、エディター。サンフランシスコの新聞社とニューヨークのフリーペーパーで編集長を務め、2019年4月からフリー。スポーツ、エンタメ、ライフスタイルなど幅広いジャンルでの取材経験を持つ。フリー転向後はテレビレポーター、SNSコンテンツクリエーターとしても活動。

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