冬の太陽を求めて「蛇の形」の善福寺川を散歩する(大都会の黙考スポット 5)

ふだん東京のネットベンチャーの慌ただしい現場に身を置いている筆者が、大都会の喧噪から離れ、ゆっくりと物思いにふけることができる「黙考スポット」を探索するこのコラム。今回は、杉並区の善福寺川沿いを紹介する。
冬にこそあえて日向を求める
「オレ、丸一日、一度も日光に当たってないかも」ということに最近気づいた。
朝の出勤時、朝日はまだ天低くマンションの影に隠れている。地下鉄に乗って、高層ビル群が立ち並ぶ街の駅で降りると、地上に出ても日陰を歩かされる。ビル風を受け、北国とは違う寒さを感じる。
日光を15分以上浴びると「セロトニン」というホルモンが分泌されて、精神衛生にもっぱらイイらしい。都会の冬になぜか憂鬱になるのは、インフルエンザウイルスなんかよりも「セロトニン不足」のせいなのかもしれない。
こんな冬にこそあえて「日向」を求めるべきだ。日の低い冬に日光に当たるには、高い建物を避けなければならない。また冬の場合、日向を求めて広い公園に座っていても、北風が寒くて耐えられなくなるため、歩きながら日光に当たりつつ、一人で黙考できるような場所がいい。

前回 の隅田川以外で、そんな場所が都心にあるだろうか。そうだ、今回は西に行ってみよう。西と言っても「杉並区」だ。僕にとって、仕事で行く機会はほとんどない場所だ。新宿で仕事のアポイントがあったとき、その前後に時間を押さえて足を伸ばすのがいいかもしれない。
今日はもう都心には戻りたくない
杉並区を東西に貫く中央線の沿線は昔から「サブカル」な雰囲気をもった街が多い。中野、高円寺、阿佐ヶ谷、荻窪。独身男子が一度住みだすと離れられない街だ。駅前は常に雑然としていて落ち着ける場所など皆無だが、グーグルマップを開くと高円寺駅と阿佐ヶ谷駅の南方に何やら「蛇のようにグニャグニャ曲がりくねった形の緑地帯」が見える。
中央線の高円寺駅から「蛇の形」に向かって徒歩で南下すると、徐々に高い建物は消え、住宅街に入っていく。冬の早朝でも夕暮れでも、道を選べば陽の当たる場所を歩くことができる。住宅街だとまだ多少の人や車とすれ違い、「ひとり」で黙考するには至らない。早く「蛇の形」の緑地までたどり着かなくては。
住宅街の先に森が見える。細い坂を下っていく。道を下りきると空が開けた。「隅田川」と比べるととても狭い10mほどの川幅の「小川」が流れていた。
「善福寺川」である。

川の側道はきちんと舗装されていて、桜並木が整えられている。全身に日光を浴びながら歩くことができるので、セロトニンが出まくっているはずだ。気分が晴れてくる。周りに人もいなくなり、歩きながらゆっくりと考え事ができる。
鳥のさえずりが聞こえる。柵越しに川面を覗き込むと、カルガモが泳いでいる。都心ではあまり見かけない「ハクセキレイ」や「キセキレイ」といった野鳥が川面スレスレを飛び交っている。蛇のようにクネクネした川をひたすら西の方に歩いていくと、いくつもの小さな公園に出会う。どの公園もとても静かで、イチョウの木と小さなベンチぐらいしかない。
歩き疲れたので、広い芝生の上にぽつんとあるベンチに座った。眼の前に芝生や木々の緑が広がっている。冬の日光を十分に浴びてカラダも温まっているし、ここで小休止しながらノートパソコンを広げてシゴトをしてみてもいい。

ベンチでしばらくぼんやりとしながら、道すがらの自販機で買ったコーヒーでカラダを中からも温める。スマホのグーグルマップで現在地を確認する。「蛇の形」をした善福寺川のどのあたりまで進んでいるのか。随分と日光を浴びながら歩いたつもりだったが、まだまだ「蛇のしっぽ」部分に過ぎなかった。
そして、善福寺川の先の方に目をやると、港区で出会った空中庭園裏の「天空の森」を越える大きさの森が見えるではないか。
今日はもう都心には戻りたくない。街に戻れば電源やWiFiのあるカフェは見つかるのだから。僕はまた「森」を求めて、善福寺川を泳ぐカモと並走して歩いた。

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