小田急を西へ。緑の三連星とホワイトアウト(大都会の黙考スポット 12)

(Photo by Getty Images)
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ふだん東京のネットベンチャーの慌ただしい現場に身を置いている筆者が、大都会の喧噪から離れ、ゆっくりと物思いにふけることができる「黙考スポット」を探索するこのコラム。今回は小田急線で世田谷区に向かってみた。

朝の通勤電車に逆行する愉悦は定番に

都会のレアポケモンともいえる黙考スポットを見つけるために、まだ降りたことのない駅で途中下車してみる。山手線内の地下鉄駅はほぼ完ストしてしまったので、私鉄で山手圏外に足を伸ばしてみるしかない。

普段自分が通勤に使わない東京の私鉄沿線には、そんな駅がまだまだ無尽蔵にある。小田急線は僕にとってそんな電車だ。朝帰りの千代田線で寝過ごしたときによくお世話になったものだ。

新宿や表参道まで15分圏内だったら、アポイントの前に少し早めに向かって散策すれば、誰にも迷惑かけることなく、黙考スポットを探すことができる。

ああ、そして憧れの世田谷区。住むことはできないけれども、途中下車して散歩するだけなら、ワンコインで経験できる。ハッピーアワーでハイボールを飲むようなものだ。

早朝の下り私鉄が意外と快適だ。以前、早朝に京王線を西に向かった時も感じたが、通勤ラッシュと逆行するのは小さな愉悦を感じる。15分ほど電車に揺られたところで下車してみる。

世田谷区の「経堂駅」だ。Google マップで駅周辺を確認すると、どうやら住宅街のようだ。

烏山川緑道で笑顔の貴婦人とすれ違う

常日頃Google マップを凝視している僕は、このクネクネとした細い薄緑の線を見逃さなかった。これはよく散見される「かつて川だったかも」な緑道だ。

「烏山川緑道」

僕の日常では、朝のオフィス街を歩くと、いつもスーツを着こなしたやや険しい表情をした大人とたくさんすれ違う。ここ東京では、朝から笑顔な上機嫌な人はほぼ皆無に思う。

烏山川緑道

烏山川緑道なるその散歩道は幅3メートルほどで、綺麗に舗装されていた。すぐ隣は車道だが、車の交通量は少なく静かだ。「ここは江戸時代には小川だったんだろうし、周りは畑だったんだろうな」なんて想像しつつ、周囲を見渡しながら歩く。

時間帯のせいもあるのか人通りが少ない。険しい表情をした通勤前のサラリーマンもいない。純白な仔犬を連れた清楚な老婦人が歩いている。すれ違いざまに笑みを浮かべて会釈してくる。周囲に高い建物もなく、朝日を全身に浴びていて、ほっこりとする。

都心ビル街でスマートイヤホンしながら、音楽で強引にマインドを高めてアスファルトの上を闊歩している朝とは全然違う。車の騒音もない。学校のチャイムが聞こえてくる。都心から15分ほど離れただけなのに、全く違う世界のゆっくりとした時間の流れを感じる。小さなベンチで一休みして一人黙考にふけってみる。

緑の三連星がジェットストリームアタック

ゆっくりとした時間の流れを感じる緑道。この先に果たして何があるのだろうか。

僕の行き先はすでに決まっていた。大都会の黙考スポットは、巨大IT企業Googleにも見つからないように隠れている。Googleマップのデフォルトでは見つからない。僕はいつものようにGoogleマップを「航空写真」モードに切り替える。「鮮やかな緑色」を探す。

この緑道を東に向かっていけば、鮮やかな緑が広がっている地帯がある。それは航空写真で見ると、前方後円墳のような鍵穴にも見える。そういえば、前方後円墳の鍵穴は宇宙人へのメッセージなんて説を思い出した。世田谷区にそんな聖域があったのだろうか。一人妄想しながらテンションがあがる。その緑地は三つの星のようにも妄想する。

「緑の三連星」

ただならぬ雰囲気を勝手に感じる。

都会仕事で僕の荒んだ心にジェットストリームアタックしてくるようだ。

「世田谷八幡宮」と「世田谷城址公園」と「豪徳寺」の三連星だ。

境内に土俵と力石がある世田谷八幡宮

神社の境内にいたカルガモ

世田谷八幡宮。閑静な住宅街に突如現れる赤い鳥居。神社の境内に入ると小さな池があった。カルガモが4羽、仲良くたたずんでいる。カモさんは優しい目をして僕をチラ見する。杉並区の善福寺川でもカモさんはお見かけするが、こんなに近くで見ることはできない。カモさんと間近で遭遇できるレアスポットかもしれない。

地表に正方形と円が描かれている。土俵のようだ

境内を進むと、右手にお堀のような窪地が見える。地表に正方形と円が描かれている。土俵のようだ。江戸三大相撲の一つだったらしい。

力石が綺麗に並べられている

昔の力士が力比べをするのに使ったような力石が、柵の中に綺麗に並べられている。見ているだけだが、何だか非力な僕にもエネルギーがみなぎってくるようだ。

楽々登れる世田谷城址公園

世田谷城址公園

続いて世田谷城址公園に向かう。黙考スポットを巡る旅に「城址公園」は頻出ワードとなりつつある。文字通りかつてはお城だった公園であり、丘のような高台になっていて、見晴台がある。

八幡宮の力石でHPがフル充電されている気分なので、小高い丘に登るのはウェルカムだ。頂上にたどり着くと、住宅街と青い空が目の前に広がる。缶コーヒーを飲みながら物思いにふける。

豪徳寺でホワイトアウト

大きな杉の木が出迎える「豪徳寺」

最後は大ボスの「豪徳寺」だ。

入口の参道からして先ほど立ち寄った2スポットとは貫禄が違う。天にも登るような大きな杉の木が僕を出迎えている。大木に会釈するように参道に入ると、空気がひんやりとする。樹木が下界の音を遮り、鳥のさえずりだけが響き、静謐な雰囲気を作り出す。境内の中も静かで心が落ち着く。

山門、本堂、三重塔、書院。どれもが格式高く感じられて、何故だか背筋が伸びる。普段の雑念が取り払われて、少し目線の高い思考をし始める。

人生の真の目的を考えながら奥に進むと、初めて参拝客を見かける。海外からの観光客が一箇所に集まっている。一瞬白銀の世界を垣間見たような、視界一面が真っ白になる。ホワイトアウト? 脳がリセットされるような錯覚に陥る。

雪だるま?いや違う。小さな妖怪だろうか。ジブリの映画に出てくるような「まっくろくろすけ」の純白バージョン?

壮観たる「招き猫」

それは壮観たる「招き猫」だった。

白い猫、猫、猫、猫、猫。100体とかのレベルじゃない、1000体は超えているだろう。猫たちは微動だにせず、大きく目を開けてこちらを見つめて手招きしている。

ここは招き猫発祥の地だそうだ。招かれた。完全に招かれた。猫の瞳をジッと見つめて深く思考してみる。僕は次はどこに招かれるべきなのだろうか。砂利道で乾いた音を奏でながら思索する。

そうだ、そろそろ新宿で仕事のアポイントに向かわなくてはならないのだった。

招き猫からタコ焼きへ

静謐な参道で再び心を鎮めながら、最寄り駅の豪徳寺駅に向かう。途中の路地で古びた店を見かけた。

タコ焼き屋だった。小腹が空いてきた。これは招かれた。完全に招かれた。

熱々のタコ焼きを食べ歩きながら、スマホで「世田谷区 タコ焼き」で検索してみたら、この近くに氷室京介さんが通っていたタコ焼き屋があるらしい。これはまた世田谷区のタコ焼き屋に招かれた。いつか食べに行こう。

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