元AKB48のシンガーソングライター・星野みちる 「ひとりで歌いたい」思いが強くなって卒業した
2005年、東京・秋葉原。ソロシンガーを目指しながら、アイドルグループ「AKB48」の一員として、劇場ステージで歌い踊る少女がいました。1期生の星野みちるさん。当時19歳でした。
「オープニングメンバーオーディション」(応募総数7924人、最終合格者24人)に合格し、前田敦子さんや小嶋陽菜さんらの同期に当たりますが、星野さんはあまり日の目を見ることがないまま、2年足らずでグループを卒業します。その後は得意のピアノと作曲能力を生かし、ソロのシンガーソングライターとして長年にわたって活躍してきました。
そんな星野さんも30歳を超え、2018年末には新レーベル「よいレコード會社」を設立、自ら社長の座に着きました。王道ポップスを歌い続ける音楽性とは裏腹に、その経歴は一風変わっています。なぜAKB48に加入したのか。そして、なぜ卒業していまの道を歩んだのか。星野さんに聞きました。
アイドルになりたかったわけではない
ーーまず、そもそも音楽に目覚めたきっかけから教えてください。
星野:小学生の時に、安室奈美恵さんがきっかけで歌が好きになりました。CDを買って、息継ぎのタイミングまでマネして歌ってましたね。ピアノはもっと前で、3歳の時に始めました。近所の大学生のお姉さんが弾いているピアノの音が聞こえてきて、「やりたい」と言い出したらしいです。
ーー曲を作り始めたのはいつごろでしょう。
星野:18歳か19歳の頃ですね。当時、歌手のオーディションを受け続けていたんですけど、ずっとカラオケを使って歌ってたんです。その中で、ある審査員の方に「自分で曲を作ったほうが受かりやすくなるよ」っていうアドバイスをもらって。「じゃあ作ってみようかな」って作るようになりました。そうしたらAKB48のオーディションに受かって。
ーーそれは自分で曲を作って歌っていることが評価されて?
星野:たぶんそうですね。ちゃんと理由を聞いてはいないですけど(笑)。ただ、わたしはアイドルになりたかったわけではなくて。本当はひとりで歌いたかったんですけど、せっかくつかんだチャンスなのでやってみようと思ったんです。
ーーそして2年間ほどグループに在籍しました。アイドル活動は楽しかったですか。
星野:楽しかったです。夢だった歌のお仕事ができるっていうのがうれしくて、一生懸命やっていました。でも結局、ひとりで歌いたい思いが強くなって、卒業を決めたんです。
ーー星野さんが卒業した後、AKB48は大ブレイクを果たします。「残れば良かったのに」みたいなことを言われたのでは?
星野:すごく言われました。おばあちゃんとか親戚とかに「あとちょっといればねー」って。でも、わたしがいても貢献できなかったと思いますし、「すごいなー」と思って見てましたね。仮に在籍中にブレイクしていたとしても、たぶん辞めていたと思います。
ソロシンガーとして再出発
ーーその後ソロシンガーに転身するわけですが、ひとりになった時の心境はどうでしたか?
星野:寂しいというよりは楽しかったですね。「集団の中の誰か」ではなく「自分」としていられるので、やりがいを感じていました。楽屋もひとりで使えるし、仕事にもひとりで行って、自分が行かないと始まらないですし。
ーーそれからもう10年以上が経ちます。ソロアーティストとしてやってきて、この10年はいかがでしたか。
星野:大変でした。もっとスムーズにいくかなと思ってたんですけど、CDひとつ出すのもすごく難しいんだなって。最初の頃は2年に1枚出せればいいほうで、「もっと活動したいのに、できないな」っていう歯がゆさがありました。
ーーライブなどでは、アイドルグループ出身というだけでナメられたりもしたんじゃないですか。
星野:だいぶしましたね。対バンのアーティストさんの冷たい視線が痛くて(笑)。ただ、いいことも悪いことも全部自分の成果として実感できるようになって、それが自分には合っていたと思います。ちょっとしたうれしいことも「自分がやったからだ」っていう喜びになりましたし。グループの時は「ほかの人がすごいんだ」としか思えなかったんですけど。
自主レーベルの社長に
ーーそして昨年、「よいレコード會社」というレーベルを立ち上げて、社長に就任しました。
星野:近年はずっとチームで楽しくやってきたんですけど、一緒にやっていたプロデューサーさんと別々になる機会があって。これを機に自分で一から作ったり、やりたいことをやってみたりしようと思って、独立しました。
ーーリーダーシップを取るタイプには見えないので、社長という選択は意外でした。
星野:自分でも意外でした(笑)。大人になったので、ちょっと自分で頑張らなきゃなって。誰かにやってもらうのではなく。
ーー社長って、具体的には何をするんですか。
星野:具体的には、チヤホヤしてもらえます。
ーー取引先の人とゴルフに行ったりとかは。
星野:まだそういう接待は受けてないですね。そういうのをやりたいです。
ピアノ弾き語りを極めたい
ーー今年3月、その新レーベルからシングル「逆光」をリリースしました。これまでの汎用性の高いポップチューンではなく、星野さんが歌うことで初めて意味を持つ属人性の高い楽曲という印象があります。
星野:今まで以上に自分の意思が反映された、とても思い入れの強い1曲になりました。前作から1年9ヶ月ぶりのリリースになったんですけど、その間は制作も完全に止まっていて、作る意欲もなくなっていたんです。それが、昨年末にレーベルを立ち上げようってなった時にやっと「曲を作ろう」という気持ちになれて、わりとポンとできました。だから、自分の思いがワッと出た曲になっているのかなって。
ーーとは言え、星野さんのボーカルって、シンガーソングライターにありがちな「俺の歌を聴け」的なグイグイ感がほぼ皆無ですよね。そこは意識的なんでしょうか。
星野:意識的ではないですけど、聴く立場としてはサラッと歌う人が好きです。そっちのほうが逆に歌詞が入ってきたりする場合もあって。ただ、自分の歌には特徴がなさすぎるなって悩んだこともあります。
ーーエゴを感じさせないところが最大の特徴だと思います。ピアノも同様で、あまり楽器に執着がなさそうに見えますね。
星野:そうですね。たまたまピアノを習っていたからピアノを使っているだけだったので、ライブでも最近は1〜2曲くらいしか弾いてなかったんです。でも、「逆光」ができたことを機に「ピアノ弾き語りを極めたい」って今さら目覚めました。30を過ぎて(笑)。ひとりでピアノを弾いて歌って「どうだ!」ってびっくりさせたい気持ちがあるんです。今はライブでも全曲ピアノを弾いています。
目指せビルボード
ーー今後は何を目指していくのでしょうか?
星野:最近やっているチェロとパーカッションとの3人編成で大きなライブもやってみたいし、ひとりでもカッコよく弾けるようになって、素敵なところで歌いたいですね。「目指せビルボード(クラブ&レストランBillboard Live TOKYO)」です。座ってしっとり聴ける、レストランぽいところでやりたいなって。ブルーノート東京とか。
ーー社長としての所信表明みたいなものはありますか。
星野:なんだろう……(考え込む)。騙そうとしてくる人がきっと多くなると思うんですよ。騙されないように、人の見極めをちゃんとしなきゃなって。あとは、歌だけで食べていけるように頑張ります。
ーーそれは社長かどうかにはあまり関係ないですね。
星野:社長って、何を言えばいいんですか。
ーー例えば、どんなレーベルにしていきたいとか。
星野:ああ。なんだろう……。所属アーティストを増やすとかは考えてないです。自分さえ良ければいいので(笑)。やりたいことをやりたい人たちとやっていくっていうスタンスです。
ーーでは最後に、同じように弾き語りを頑張っていこうという人たちへ向けて、メッセージをお願いします。
星野:弾き語りを教えてほしいです。教えてください。