知られていないところで「がっつり」進化したホッチキスの名機(ひとりと文具 10)

見るからに華やかさはないが、ドシッと手に収まる雰囲気は「頼りがいのある道具」という感じ。
見るからに華やかさはないが、ドシッと手に収まる雰囲気は「頼りがいのある道具」という感じ。

いま、もし手元にホッチキスがあったとしたら、ちょっと手に取ってみてもらいたい。それ、いつ購入されたものか記憶にあるだろうか?

10年以内のことならまだかなりマシなほうで、下手すると20年30年前に買った、ということだって普通にあり得る。つまり、ホッチキスはそれぐらいアップデートされていない可能性が高い文房具なのだ。

これほど文房具が進化し続けている昨今、30年前の製品が現役で稼働するメリットがあるとすれば、単に一時的な買い替えコスト(それも1000円以下の話)だけだろう。

対して、いま買い替えをすれば、使い勝手の面で大幅に改善されることは、文房具ライターとしての立場でもって保証しよう。ホッチキス、実は知られていないところでがっつりと進化し続けているのである。

今の古いホッチキスが壊れるまで使い続ける、というのも、エコの視点でいえば正しいこと。ただ、試しに一度最新のホッチキスを使ってみれば、「えっ、こんなに使いやすく進化してるの?」と驚くはずだし、もう古い製品に戻れなくなるのも間違いないのだ。

軽綴じなのに開き角が大きくなりすぎない最新機構

一時期、針を使わない「針なしホッチキス」がメディアで注目された時期があったのを記憶されている方も多いだろう。

そのせいで「最新のホッチキスは針なしで、針を使うのは古いタイプ」という妙なイメージが広まってしまったのは、残念なことだ。実は先にも述べたとおり、針を使うホッチキスも進化している……というか、むしろ針なしタイプよりもきちんと新製品が出続けているぐらいである。

その中でも最新鋭にして、早くも文房具好きの間で「これは名機!」と評判になっているのが、MAXの「HD-10 TL」だ。

実用性抜群のプロ仕様ホッチキス「HD-10 TL」(MAX)

……これのどこが最新鋭にして名機なのか、という気持ちは分かる。ぶっちゃけて言えば“新しさゼロ”のルックスだし、おそらく、お手元の古いホッチキスとどこが違うのか、見分けをつけるほうが難しいだろう。

とはいえ、それはあくまでも見かけだけ。ひと皮剥けば、中には最新の機構が詰まっているのである。

ここ10年におけるホッチキスのトレンドといえば、「綴じる力50%オフ」の軽綴じ機能だろう。これは本体内部に備えた二重テコによる倍力機構で、分厚い紙束もサクッと軽い力で綴じられるというもの。

ただ、これにはひとつ欠点があって、力が軽くなる代わりに、押し込む距離=本体の開き角度が大きくなってしまう。

近年の軽綴じホッチキスが全体的にコンパクトでショートボディなのは、開き角が大きすぎて、ロングボディだと握れないほどに背が高くなってしまうからなのだ。

従来の軽綴じホッチキス(左)とHD-10 TL(右)の比較。軽綴じの方が全長は短いが、ずんぐりと背が高いのが判る。

では、全高が古いホッチキスと大差ない本機にはこの軽綴じがないのかといえば、そうではない。この製品のために新たに開発された、可変倍力機構による軽綴じが備わっているのである。

従来の二重テコによる倍力機構は、押し始めからガチャッと押し切るまでが常に軽い力で働くような構造になっている。しかし冷静に考えれば、軽い力で押したいのは最後のガチャッという部分だけ。それまでは別に軽くなくても問題なかったのだ。

押し始めは普通で、最後の綴じる瞬間だけテコが効く……という可変倍力機構ならば、押し込み距離は従来の倍力機構より短く(全高で約23%減)、それでいて綴じる力は50%オフとなるわけ。

押し込んでいる途中から感じる、紙に吸い込まれるような手応えが面白い。

この機構は手応えが非常に独特。握ってグッと押し始めると、途中からじわっと倍力が働き出して軽くなり、最後はスコッと手応えが消えるように針が紙へ入っていく。まるで磁石かなにかで先端が吸い付けられるような感覚だ。

実際、綴じる力はこれまでの軽綴じと同じ50%オフなのだが、この独特の綴じ感のおかげで、イメージとしてはさらに軽く感じられるほど。

これが「最後のホッチキス」になるかも知れない堅牢さ

3連150本の針が一気に装填可能。面倒な針の補充が減らせて、大量の綴じ作業も効率アップ。

可変倍力機構によって、全高が変わらずに握りやすいロングボディが実現できたわけだが、これにはまだメリットがある。針の装填本数が大幅に増やせるのだ。

ショートノーズボディでは50本がいっぱいだったところが、一気に150本(針3連)を装填できるように。これなら、一度補充すれば当分は針の入れ替え作業が不要になるだろう。

また当然のことながら、綴じ奥行きもショートボディの倍近い53ミリになり、より深いところまで綴じにいけるようになっている。

単に紙束の端を綴じるだけなら奥行きにあまり意味はないが、工作などで使う場合にはなかなか便利だ。

綴じ奥行きはこれほど違う。日常的にここまで奥行きが必要になるケースは多くないが、それでも足りないよりはずっといい。

もうひとつ、「HD-10 TL」は耐久性を重視した機構設計がなされており、これまでの軽綴じホッチキスの3倍とも言われている堅牢性を有している。

綴じ枚数(2〜20枚)などの性能はベーシックだが、その分、シンプルな構造で壊れにくく、長期間現役で使い続けられるわけだ。

このまま世の中が完全なペーパレスに移行するにしても、まだ10年20年は先の話。で、その時に手元に残っているのが「あなたが使う最後のホッチキス」となるわけだ。

それなら、今から20年以上の使用にも耐えうる堅牢さで、さらに機能的にも満足できる…つまり、“最後のホッチキス”に相応しい名機を備えておくのは、意味のあることなのではないだろうか。

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