「ひとりバー」の楽しみ方 初秋におすすめのカクテル&ウイスキー
以前は、ひとりでバーに行くのは敷居が高いと思っていたのですが、一度行ったらその魅力に取り付かれてしまいました。お酒が美味しく、なにより居心地がいいのです。それでもまだ一歩が踏み出せない人に贈る、「ひとりバー」のすすめ。この秋、デビューしてみませんか?
ひとり酒の日こそバーを利用しよう
「ひとりのお客様はとても多いですよ。私の店にはカウンターが7席あるのですが、日によってはすべておひとりさまの時もあります」と話すのは、銀座「BAR KAGE」のオーナーバーテンダーである影山武嗣(51)さん。
けれど、お酒のことをあまり知らないと格好悪いようで恥ずかしい気がしてしまいます。なかなか「ひとりバー」デビューできないのには、そういう理由もあるのでは…?
「格好悪いのは、知らないことではなくて格好をつけること。慣れている風を気取る必要はまったくないのです。強いのは苦手とか甘いものがいい、というように相談していただき、あとはバーテンダーにお任せください」
お酒が出てきたあとも、なんとなく手持ち無沙汰になってしまうのではないかという不安もあります。
「静かに飲んでもいい。バーテンダーと話をしてもらってもいい。自由に楽しんでいただいていいのですよ」
バーテンダーの仕事は、美味しいお酒をつくることはもちろん、お客様とのコミュニケーションという部分も大きいといいます。物思いにふけりたいときは放っておいてくれるし、おしゃべりしたいときにはつきあってくれます。
「もし、あまり居心地がよくないと感じたら一杯飲んでサッと帰ればいいですし、ゆっくりしたければ何杯飲んでいただいてもいいのです。決まった飲み方はありませんから」
ひとりなので、飲み過ぎないかも心配です。
「バーテンダーはちゃんと見ています。そろそろ限界だな、と思うお客様にはやんわりとお伝えするようにいたしますのでご安心ください」
あの古典的なシチュエーションは実際にあるのか
ここで、とあることを思い出しました。よく聞く「あちらのお客様からこのお酒を…」と、バーテンダーがお酒を差し出し、見るとカウンターの向こうで誰かが微笑んでいる、という古典的なシチュエーションです。こんなことって、本当にあるんでしょうか?
「ほとんどないですねえ(笑)」
やっぱりそうですか。
「もしそういう時があっても、バーテンダーがいきなりお酒を差し出すということはありません。まずはお声がけをさせていただきますので、お断りいただいてもいいですし、受け取っていただいてもいいのです。断りたいときは、バーテンダーがうまくやりますのでご心配なく」
そんな劇的なシチュエーションではなくても、ひとり客同士がいつの間にか会話を始めていることもあるのだとか。そういう自然なコミュニケーションだったら、楽しいですね。とはいえ、あまりしゃべりかけられたくないという時もあります。
「難しいことを考えず、まずは行ってみてください」という影山さん。「バーにはひとりでもいられるカウンターがあり、お客様に心地よく過ごしていただくためにバーテンダーがいるのですから。任せてください」
そう、きっと、バーはどんなひとりの人でも受け止めてくれる。そんな懐の深い場所なのです。そして私は今夜もどこかのバーへ出かけていくのでした。
バー初心者のためのおすすめカクテル&ウイスキー
好みを伝えればいいですよ、と言われても、どんなものが好みかすらわからないかたもいらっしゃるかもしれません。そこで、影山さんにおすすめのカクテルとウイスキーを選んでいただきました。
どんなカクテルにもウイスキーにも、ストーリーがあるもの。あらかじめ気になるお酒のストーリーを覚えてからバーに行ってもいいし、おすすめされたお酒のストーリーを後から調べるのも良し。ただ飲むのとは違った楽しみ方ができるのもバーの魅力ですね。
ネグローニ。ドライジンとカンパリ、スイートベルモットを1/3ずつ注いでステアするクラシックカクテル。「最近、なぜか外国人のお客様からの注文が多く、西海岸あたりで流行しているというウワサも」(影山さん)。スライスオレンジを入れるバーもありますが、オレンジピールを入れるのがKAGE流。甘みと苦みがほどよく調和しているので、甘いカクテルが飲みたいけれど見た目がシブいほうがいいという人におすすめ。食前にも。
モッキンバード。テキーラ1/2,グリーンペパーミント1/4、ライムジュース1/4をシェイク。テキーラベースのカクテルはマルガリータが有名ですが、こんな飲み方もあるのですね。ブルーグリーンのカラー、さわやかな酸味とミントのスッキリ感が、夏を惜しむのにぴったり。「テキーラは強いから、と敬遠されるお客様がいらっしゃいますが、度数はジンなどとほとんど変わりません。マルガリータで味わうのもいいですが、時にはこういうカクテルで味わってみるのもいいのではないでしょうか」(影山さん)
ウイスキーのロック。使用したのはアバフェルディ12年。スコットランドのアバフェルディという街でつくられるシングルモルト・スコッチウイスキー。「日本のウイスキーが流行中ですが、相対的に高価になってしまったので、初心者のかたにおすすめしているのがこれです。ほどよい熟成感があり、飲みやすいと思います」(影山さん)。まろやかさの中に、きちんとスパイシーさもあるやさしい味、ウイスキーは喉にカッとくる、というイメージを持っている人にこそ、ロックで飲んでほしい一杯。
あなたも気になっていたバーのドアを開けて、「ひとりバー」デビューしてみませんか。落ち着いた雰囲気で飲むお酒もまた格別です。