41歳、元劇団員のフリーター 「艦これ」Tシャツを飾った部屋に住む(ひとり部屋、拝見 1)

鶴田さんの部屋。ベランダは近所のノラ猫の通り道(撮影・中村英史)

41歳、元劇団員、フリーター。埼玉県に住む鶴田誠人さんは、「安定」という言葉とは無縁の生き方をしているように見えます。「芝居はもうやめる」と言いつつ、今もときどき舞台に立っています。「一昨年、大学の同窓会に行ったら、教師になった人がいて、ライターや編集者がいて、区議会議員になったのもいた。そこで俺だけが『芝居やっています』って。あれで吹っ切れた感がある」。鶴田さんは、そう言って笑います。

日本の平均初婚年齢、つまり初めて結婚するときの年齢の平均は、夫が31.1歳、妻が29.4歳です(厚生労働省「我が国の人口動態」2016年の統計)。当然、その年齢を大きく超えても結婚しない人が多くいます。そんな男性や女性のなかには、ひとりで暮らすことに楽しみを見出している人も多いのではないでしょうか? 

「ひとりを楽しむ」をテーマにした記事を発信するDANROの連載企画「ひとり部屋、拝見」。35歳以上でひとり暮らしをしている人に声をかけ、その部屋を見せてもらおうという試みです。「なんもおもしろいことないと思うけど」。そう言いつつ、最初に快く取材を受けてくれたのが、鶴田さんでした。

ひとり暮らしのせいか、ウォーターサーバーの水はたまりがち

自動車工場で働いてわかった「自分は誰かに何かを届けるのが幸せなのかなって」

埼玉県所沢市にあるアパートの玄関を開けると、真っ赤な自転車が置かれていました。パチスロで勝ったとき手に入れたものだそうです。あがらせてもらうと、狭いキッチンに、ひとり暮らしには珍しいウォーターサーバーが置かれていました。貯水槽の水が「まずくて飲めない」そうです。

キッチンの奥は6畳のワンルーム。壁には、ゲーム『艦これ』に登場するキャラクターのTシャツやパーカーが飾られていました。

鶴田さんは現在、東京にあるコンビニでアルバイトをしながら、多いときで年に数回、役者として芝居に出ています。以前は劇団に所属していましたが、現在はどこにも属していません。

中学生のころは、深夜ラジオの影響で声優になりたかったという。

「全然お金になんないんだけどね」。そう言いつつも、仲間や先輩に頼まれると、出演を引き受けます。

「本当は舞台に立つの、しんどいの。だけど、舞台に立っちゃったら、お客さんと向き合うことになる。俺がなんかしたことで、お客さんが喜んでくれることもあれば、逆に『つまんなかったよ』って言うこともあるけど、何かをサーブ(供給)できるっていうのがね」

鶴田さんは、そこに楽しみを見出しているようです。

パチスロで儲けたお金で買った17万円の自転車。漫画『弱虫ペダル』の影響があったという

現在のアパートに引っ越してきたのは10年前。それまでは演劇仲間と2人で、東京都内の古い店舗を改装した建物に住んでいました。家賃は2万円でした。

しかし、同居人の生活態度が原因で大家さんともめ、結局、自分まで部屋を出ていくことになった、と鶴田さんは言います。仲間との同居は解消。「その日のうちに不動産屋に行って、『(初期費用の)予算は20万円』と告げて紹介された部屋のひとつが、ここだった」。現在の家賃は5万1000円です。

10年以上続けているコンビニでのバイトは、夜勤が基本。早ければ21時30分ごろ家を出て、翌朝10時ごろ帰宅します。休みは金曜と土曜。これまで正社員の仕事に就こうと考えたことはないと言います。

「24歳のとき、派遣社員として自動車工場で働いたときにいろんな人を見て。幸せのかたちっていうのは人それぞれだなって、身に染みてわかっちゃった。俺みたいに借金を返すために働く人もいたし、週末、風俗に行くためだけに稼ぐ独身の人もいれば、家族を養うためにっていう人もいる。『じゃ、自分は何をしたいんだ?』って考えたとき、やっぱり人に何かを届けて、それにリアクションをしてもらうっていうのが一番幸せなのかなって、思った」

そう語る鶴田さんですが、「いい年こいてフリーターってどうなの?」という葛藤がなかったわけではありません。しかし、冒頭の「大学同窓会」で、今の自分を同級生に語ったとき「吹っ切れた」と言います。

「なんでかわかんないけど『赤』を自分のパーソナルカラーにしてるんだよね」

「あいつ、創作活動をしてねーなー」芸術学部の同級生に対する思い

部屋にいるときは、多くの時間をパソコンの前で過ごします。ゲーム『艦これ』で遊んでいるか、動画を観ているか。あとは、会社員として働く親友がフェイスブックに投稿する美味しそうな料理の写真を「歯ぎしりしながら見ている(笑)」。そう言いつつ、鶴田さんは今の生活に不満があるわけでもないようです。

「みんながそれぞれ一生懸命やってきた結果が、年収に出てるんだったらしょうがないなって思う。でも、あいつ(親友)、俺のためにひとり芝居を書くって言ったまま書いてない。なんだかんだいって創作活動をしてねーなーっていう。そこらへんが会社勤めとバイトの責任の違いなのかもしれないけどね」

大学の芸術学部で写真を学んだあと、演劇の道へ。「やめるやめる」と言いつつ、今も役者を続ける鶴田さんの、表現者としてのプライドが垣間見えた瞬間でした。

演劇の台本。児童劇団の公演に、教師役で客演したときのもの

もし災害が起きて、この部屋を脱出しなければならなくなったとしたら、何を持って逃げますか? そうたずねると、鶴田さんは少し考えたあと、次のように答えました。

「高校のとき、接骨院でのバイト代を貯めて買った『きまぐれオレンジロード』のCD、それを小脇に抱えて、チャリ(玄関に置かれた自転車)に乗って逃げるかな(笑)」

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土井大輔 (どい・だいすけ)

ライター。小さな出版社を経て、ゲームメーカーに勤務。海外出張の日に寝坊し、飛行機に乗り遅れる(帰国後、始末書を提出)。丸7年間働いたところで、ようやく自分が会社勤めに向いていないことに気づき、独立した。趣味は、ひとり飲み歩きとノラ猫の写真を撮ること。好きなものは年老いた女将のいる居酒屋。

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