eスポーツに新機軸? 「サイバー剣術」を開発した孤高の武術家

昨今、世間に認知されつつある「eスポーツ」といえば、格闘技ゲームやサッカーゲームなどいわゆる「コンピューターゲーム」のプレイ技術を競うもの。ところが、そのさらに先を行く「e-コンバット」なる競技が誕生したと聞き、さっそく取材に向かいました。

「e-コンバット」は、2人のプレーヤーがセンサーのついた「刀」と「防具」を装備し、生身の体で侍の斬り合いのごとく戦う競技。〝電子剣術〟とでも言えばいいでしょうか。

2018年4月、東京・渋谷のエンターテイメントレストラン「Tokyo Fight Club」で行われた「e-コンバット交陣」のお披露目イベントでは、金網で覆われたリングの中で、プロの格闘家たちによる試合が繰り広げられました。

e-コンバットでは、特製の刀と防具を使って勝負する

一方の攻撃が相手の防具に設置された「急所」にヒットすると、「ドカーン!」という効果音とともに打たれた側のマスクが発光し、モニター画面に「一本」が記録されていきます。まるで格闘ゲームのような仕様ですが、目の前では歴戦の格闘家たちがじりじりと間合いを取り合い、目にもとまらぬ剣さばきで攻防を繰り広げています。生身の格闘技とコンピューターゲームが融合したような、不思議な感覚を味わうことができました。

e-コンバットの練習風景。「急所」に当たるとドカーンと効果音が響く

〝隠れ他流試合〟に満足できず……開発の意外なきっかけ

試合は時間内にとった「一本」の数が多いプレーヤーの勝利となります。「急所」は剣道より多く、面と胴、左右の肩・胸・上腕・小手の計10カ所。強打なら一撃で「一本」となりますが、「急所」に弱いダメージが蓄積しても「一本」となるなど、ゲーム性もなかなか考慮されていると感じました。

ゲームを開発したのは、株式会社響尤(きょうゆう)会長の勝田兼充さん(40)。宮本武蔵に起源を持つ剣術「野田派二天一流」の師範をつとめる「武術家」です。

e-コンバットを開発した武術家・勝田兼充さん

5歳から徒手格闘系の武道を学んできたという勝田さんですが、試合をせず型や演武が中心だった流派の方針に、いつしか納得できなくなっていたといいます。

「いくら型を学んでも、実戦で使わないと意味がない。そう思って、流派で禁止されていた他流試合をこっそり繰り返していました。相手にダメージを与える寸前で止める『当て止め』中心のルールでしたが、お互いに熟練していないと、どっちがやられたかの判定は難しい。解決策を探し求めた結果、センサー付きの防具の開発に思い至りました」

2010年に会社を設立した勝田さんは「非破壊検査用センサー」の技術を持つ機器メーカーに防具の開発を発注。防具自体は数カ月で完成したそうですが、そこから、競技として成立させるまでの道のりは険しかったそうです。

「ゲーム」を入り口に「武術修行」の楽しさを広めたい

「最初は素手での打撃戦を想定していたんですが、素手で殴ると防具の上からでも脳しんとうを起こしてしまい、安全性が確保できない。そこで、武器を使ったほうが安全だということに気づき、今のカーボンやウレタンを使った刀を開発しました。安全で壊れにくい素材を選び出したり、センサーの配置を調整したりといった作業に、5年ほどかかりました」

試行錯誤の結果、ようやく生み出された「e-コンバット」。リアルファイトを追求する目的で始めた開発は、くしくもゲームのような娯楽性を備えた競技に帰結しました。

「ゲームとしての楽しさを入り口にして、多くの人に、武術の修練を通して自分が成長する楽しさを味わってほしい。流派が細かく分かれているなど、今の武道にある堅苦しい壁をとっぱらっていきたいんです」

対戦時には、モニター画面に映し出される「自キャラ」を選択できる

現在は防具がまだ2セットしかなく、一般人は競技に参加できないそうです。当面はイベントでのデモンストレーションなどを通じて普及を目指すとのこと。

「日本に観光に来た外国の方に、日本の武術に触れてもらうショーとして楽しんでもらうことを考えています。ゆくゆくはスポーツとして多くの人が競技できるようにしたい。最終目標は、五輪競技です」

テクノロジーという武器を手にした異色の武術家の挑戦は、まだ始まったばかりです。

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