男性未婚率3割超「希望は、戦争」の著者が語る「ロスジェネ世代」の未来とは?

フリーライターの赤木智弘さん
フリーライターの赤木智弘さん

30代や40代になっても結婚しないで「ひとり」の生き方を選択する人が増えている現代の日本。その中には、「結婚したくても経済的理由でできない」という人もかなりの数、いるはずです。「結婚」と「格差」の問題をどう考えればいいのか。2007年、論壇誌『論座』に発表した論文「『丸山眞男』をひっぱたきたい――31歳、フリーター。希望は、戦争。」で、ロスジェネ世代が直面する格差問題を論じて大きな話題を呼んだフリーライターの赤木智弘さん(42)に聞いてみました。

「経済的理由から結婚できない人も相当数いる」

――赤木さんは現在、独身とのことですが、ご自身はどんな結婚観を持たれていますか。

赤木:一度くらいは結婚したいと思っていましたが、今はもう、あきらめました。それだけではありませんが、やはり経済的な問題も大きいです。責任を考えるととてもじゃないけど、子どもは育てられない。もう、こだわってもしょうがないと思って、割り切っています。子育ての楽しさは他の人に任せて、人生、刹那的に楽しければいいんじゃないかと思っています。

――日本の生涯未婚率は年々高まっていて、生涯未婚率(50歳時点で一度も結婚したことがない人の割合)は2015年時点で男性は23.37%、女性14.06%。結婚しない人が増えています。なぜだと思いますか。

赤木:結婚するかしないか、子どもを産むかどうかはあくまで本人の選択の問題なので、社会や国が「結婚すべきだ」などと言うべきではないと思います。女性の社会進出も進んで、昔のように男性に養ってもらう必要がなくなったのもあるでしょうし、男も女も「結婚にメリットを感じない」という人が多いのでは? ただ、就職氷河期を体験した僕たち「ロスジェネ世代」には、低賃金の非正規雇用の境遇から抜け出せない人も多い。本人の選択ではなく、経済的な理由から結婚できない、という人も相当数いるでしょう。

――就職氷河期のころに社会人になった「ロスジェネ世代」は、現在30代後半から40代半ば。この世代の男性の未婚率を見てみると、35~39歳が35%、40~44歳が30%(2015年の国勢調査より)と、実に3割以上が独身ということになります。経済的な格差も、こうした結果に影響しているのでしょうか。

赤木:リーマンショックがあった10年ほど前、「ロスジェネ世代」や「派遣切り」という言葉が流行し、非正規雇用や格差の問題が注目されていました。あの頃に、ロスジェネ世代を救済する有効な手を打っていれば、我々の世代ももう少し多くが結婚し、子どもを産んだかもしれない。でも、2011年の東日本大震災の後、左派は「反原発」に、右派は「愛国」に行ってしまった。労組も、正社員の利権しか守らなかった。ロスジェネ問題は何も解決されないまま時間だけが過ぎてしまいました。

インタビューに答えるフリーライターの赤木智弘さん
フリーライターの赤木智弘さん

「孤独を過剰に問題視する風潮は疑問」

――雇用といえば、最近は10年前と打って変わって「人手不足」が問題視され、外国人労働者の受け入れの是非が議論されています。それでも、格差問題は解決しないのでしょうか。

赤木:外国人労働者を雇わないで「ロスジェネ世代」を雇用すれば良い、などという意見も聞きますが、それではロスジェネ世代は、今の外国人労働者のように最低賃金以下で使い潰されるだけ。結局は、「雇用の調整弁」扱いです。仮に40歳前後で正社員として雇用されても、定年まで20年ほど。賃金もさほど上昇しないでしょうし、やはり格差は解消されません。

――では、「ロスジェネ世代」の格差問題を解決するには、どうすればいいのでしょう。

赤木:結局は、税金によって国が再分配をするしかないと思います。たとえば、普通に暮らしていける最低限の収入を全国民に保証する「ベーシックインカム」を導入するのもありだと思います。日本はまだ「働かざる者食うべからず」という風潮が強いですが、これからはAI(人工知能)も導入され、生産性を上げるためにどんどん労働者が減らされる時代です。生産は機械がしてくれても、肝心の消費者がいないと社会は回りません。

――「ロスジェネ世代」にお金を回さないと、消費者がいなくなって社会も回らなくなると。

赤木:「ロスジェネ世代」はそれまでの世代のようにローンを組んで家を建てたり、子育てにお金を使ったりしません。この世代が最小限の消費しかしないと、経済が回らなくなり、ますます不景気になる。このどん詰まりを解消するには、格差社会の犠牲になっている人たちがもっとお金を使えるようにするべきです。社会は一部のお金持ちだけでは回らない。ひとりでも、孤独でも、みんなが消費者として楽しみながら生きていける世の中であればいいのではないでしょうか。

街を歩くフリーライターの赤木智弘さん
フリーライターの赤木智弘さん

――ところで、近年は孤独死する人が年間3万人とも言われ、社会問題になっています。独身者が増えていったら、孤独死もますます増えそうです。

赤木:孤独を過剰に問題視する風潮には疑問を感じます。孤独死というと、すぐに「かわいそう」「悲惨」というイメージで語られるけど、本当でしょうか。実はその人は家族がいなくても幸福だったかもしれないし、友達がいて孤独ではなかったかもしれない。現代は近所づき合いがなくても、ネット上で同じ趣味の人とつながれる時代ですからね。家族を持たないことが当たり前になった時代に、社会の受け止め方が追いついていないのではないでしょうか。ひとりで死んだ人が幸せだったか不幸だったかは、個々の事情を見てみないとわかりません。あまり問題視しすぎると、独身者が家を借りづらくなるなど、マイナスの影響が出てしまいそうです。

――ひとりで生きていることと「幸福」は矛盾しない、ということですね。

赤木:孤独な人が幸せか、不幸か、というのは個人の考え方の問題だから、そこは完全に自己責任でいいと思うんです。孤独になろうが“パリピ”になろうが、自分が幸せと感じるところにいればいい。ネット社会になって人とつながる方法は多様になりました。それを適度に利用すればいいのです。家族がいても、ひとりでも、消費者として楽しみながら生きていける世の中であればいいのではないかと思います。

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