「せんべろの聖地」赤羽で楽しむひとり飲み

丸鷹酒場、店長のたくみさん(右)と常連さん(2018年5月撮影)

先日、びっくりすることがありました。仕事帰り、一人自宅近くの赤羽の居酒屋で飲んでいたんですけど、隣にいた大人しそうな兄ちゃんが急に立ち上がって奇声をあげたんです。店内のテレビを見ると、フジテレビの街頭インタビュー。その兄ちゃんが、弛緩した赤ら顔からは想像できない、キリっとした表情で「クラウドサービス」について語っていました。

聞いてみると、彼もまた赤羽の住民で、うちの隣のマンションに住んでいたこともあるそうです。「またここで」と言って、連絡先も交換せずに別れました。

東京都北区赤羽。飲兵衛の聖地なんて呼ぶ人もいるみたいですが、最大の魅力は味でもコスパでもなく、住民の人懐っこさだろうと思います。地元民が通う店では、カウンターに座るとたいてい話に混ぜられる。

この店で知り合った40代の地元女性は、この距離の近さを「バネクオリティー」とガラガラ声で表現していました。保護者友だちと来ていたみたいですが、なぜか僕も仲間に入れられ、別の店で朝4時まで飲むことになりました。バネクオリティーぱねぇよ。

千円ちょっとで大満足 赤羽「丸鷹酒場」

さて、紹介が遅れました。この店は「丸鷹酒場」という焼きとん・焼きとり屋さんです。JR赤羽駅を降りたら、飲み屋ひしめく「1番街」を右に折れ、赤羽小学校北門のちょっと先にあります。飲み屋街のど真ん中に小学校、これが赤羽です。

丸鷹に初めて来たのは、熊本から引っ越して来て間もない2016年4月でした。驚いたのが、店長のたくみさん(31)、僕の中学校の同級生と知り合いだったということ。もつ焼きが売りの大衆居酒屋「かぶら屋」のアルバイト仲間だったんですって。

かぶら屋同様コスパが良く、お通しはナシ。最近ちょっと値上がりしたけど、焼きとんは1本100円、焼きとりは120円から。生ビール390円、ウーロンハイ320円なので、「せんべろ」は難しくても、百円玉を少し足せば、大満足で帰れます。

丸鷹、自慢の焼きとん

初対面のおじさんたちと「ゲイバー」でカラオケ

かぶら屋との共通点といえば、店員さんに名札がついているのも同じですね。みんな名前で呼び合っているので、2~3回通えば、自然とスタッフ、常連さんの名前が分かります。

やはり、相手をどう呼ぶか、という問題は大切で、名前を憶えているとコミュニケーションがはかどります。店の1階はテーブル1つを除いて、全部カウンター席ですから、一度座ると赤羽民からもう逃げられません。

常連客らでにぎわう1階のカウンター(2018年5月撮影)

丸鷹では、初対面のおじさん2人に、ゲイバーに連行され、午前3時までカラオケ指導をされたこともありました。「声質的に君にはこれだね」と、あまり聴いたことがなかった、アジカン(ASIAN KUNG-FU GENERATION)の『Re:Re:』という曲を3回も歌わされました。良い曲ですね。

それから同い年のフォーク歌手・岸田雄太くんと意気投合して、今度ライブに行く約束をしたり(まだ行ってなかった)、電車に乗ったら、隣に常連のおじさんが座っていてビックリしたり。

あ、隣席の中年女性から、しきりにマンション購入を勧められたこともありました。「うわっ」と思ったけれど、不動産屋さんじゃなくて、ご自身も近くのを買われたのだとか。「この街、出る気にならないでしょ。だったら早い方が良いわよ」。うーん、悩みます。

5月に浜松町店がオープン 店長は「きどっち」

そうそう、この丸鷹、オープンは2014年なのですが、2016年に西川口、2017年に町屋と毎年のように新店をオープンさせています。そして、2018年5月7日に浜松町店ができました。

店長は、この間まで赤羽で働いていた「きどっち」。金印が出土した志賀島出身(福岡県)のいつもニコニコしている好青年です。ずっと仲良くしてくれたので、オープン初日にお祝いで行ってきました。さすがに赤羽と同じ値段は難しいようで、焼き物は1本20~30円ほど赤羽よりも高め。でも、浜松町の方が酒とアテの種類が豊富です。

手ぶらだったので、「好きなもん飲んでよ」と言ったら、きどっちのやつ、上目遣いで「そのっち(こう呼ばれている)、白穂乃香いただいても良いですか」。日本酒を除いて、一番高い酒だ。まったく憎めないやつだぜ。数百円でデカい顔をさせてくれてありがとう。

浜松町店の店長・きどっち(2018年5月撮影)

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園田昌也 (そのだ・まさや)

弁護士ドットコムニュース記者。昭和62年生まれの「ゆとりのフロントランナー」。学生時代にネットメディアでこたつライターを経験。地方紙の文化部(芸能班)記者をへて、現職。転勤族だったので、赤羽を「地元」にせんと日夜飲み歩いている。

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