「壮大なスペクタクル」北の巨熊 アンドレザ・ジャイアントパンダ

入場するアンドレザ・ジャイアントパンダ<br />(2017年11月17日、東京都台東区の上野恩賜公園野外ステージ/新根室プロレス提供)
入場するアンドレザ・ジャイアントパンダ
(2017年11月17日、東京都台東区の上野恩賜公園野外ステージ/新根室プロレス提供)

♪大きいことはいいことだ~

そんなCM(森永エールチョコレート)が流行したのは50年前の1968年。元号で言うなら昭和43年である。高度経済成長期の日本を象徴するように、作曲家の山本直純さんが満面の笑みで両手を振っていた。

本土最東端の北海道根室市。人口約2万6000人の港町にも「大きいことはいいことだ」を地で行った巨大レスラーがいる。身長3メートル、体重は500キロという「アンドレザ・ジャイアントパンダ」である。所属は、根室のアマチュアプロレス団体「新根室プロレス」(25人)。一見可愛い。だが、実は凶暴そのもの。必殺技は、目にも留まらぬ速さで繰り返されるヘッドバット(頭突き)と巨体を生かしたボディープレスだ。

リングに上がるとファンからため息が漏れた

昨年7月30日、根室の隣の別海町であった大会に突然参戦。衝撃のデビューを果たした。巨体をどのように動かしているのかは秘密だが、「凄いものを見た!」「壮大なスペクタクル」「プロレスの怪しげな世界を反映した最高のキャラクター」などとSNSで瞬く間に拡散。テレビや各地の大会にスペシャルゲストとして参戦したが、今月7日には、九州プロレス10周年記念大会「筋肉山笠‵18」のシングルマッチに登場する。場所は福岡国際センター(福岡市博多区)。対戦相手は、自称・福岡の有名人「ばってん×ぶらぶら」である。

「熱い魂で街を盛り上げていきたい」

ここで、アンドレザについて簡単な説明をしよう。リングネームは「人間山脈」の異名でファンを沸かせたアンドレ・ザ・ジャイアント(身長223センチ)からつけた。「アンドレザ」のあとに「・」がつく。公式プロフィールでは2016年に中国・四川省で生まれた。「1カ月で1年分成長してしまう」という巨熊症を発症。パンダ界でいじめられ、森の中で死にかけていたところを、根室の水産加工会社で実習経験のある中国人の王さんに拾われ、根室との縁ができる。新天地を求め、2017年に来日したという。

今回、DANRO読者のためにインタビューを申し込むと、広報を通じてこんなメッセージを送ってくれた。「地理的に最果ての根室でも、文化や娯楽の最果てであってはいけない。熱い魂で街を盛り上げていきたい」

ゴング直前。スタン・小林と対戦するアンドレザ・ジャイアントパンダ

取材を進めながら、アンドレザが所属する「新根室プロレス」の熱いハートにも触れることができた。コンブ漁師、酪農家、トラック運転手、銀行員……。全員が素人。リングを下りると、もう一つの顔を持っている。不景気に沈みがちな街を元気づけようと、中古のリングをネットオークションで100万円で落札。お金を出し合い2005年に「根室プロレス同好会」を結成。翌06年9月、「新根室プロレス」として旗揚げした。

「観戦は無料です。経費はメンバーが自己負担し、やりくりが大変ですが、小さな田舎町でもやればできるんです」と本部長の宮本賢司さん(45)=玩具店経営、リングネーム・オッサンタイガー=は言う。神社の境内や公園など露天の特設リング。流血など荒っぽさは売りにしていない。リング上で歌ったり、コミカルな踊りを見せたりすることもある。

プロレスには理屈を超えた力があるのだろう。本土最東端から現れた巨大レスラーも未知なる可能性を秘めている。行くのには時間がかかるが、実際に自分の目でその大きさを確認するだけの価値はある。7月20日には釧路管内の鶴居村、28日には根室管内の別海町でも試合がある。

※新根室プロレスは、2019年に解散しましたが、2021年9月にはアンドレザ・ジャイアントパンダを生み出したサムソン宮本さんの一周忌追悼イベントが行われる予定です

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小泉信一 (こいずみ・しんいち)

1961年生まれ。朝日新聞編集委員(大衆文化担当)。演歌・昭和歌謡、旅芝居、酒場、社会風俗、怪異伝承、哲学、文学、鉄道旅行、寅さんなど扱うテーマは森羅万象にわたる。著書に『東京下町』『東京スケッチブック』『寅さんの伝言』など。

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