「タブーだから惹かれる」女性ひとりでも泊まれる「遊廓」の魅力
「女性ひとりでも気軽に遊廓に泊まれます」。遊廓跡の写真を撮影しているフリーカメラマンの関根虎洸さんはそう語ります。かつて遊女が集まり男性客の相手をしていた「遊廓」。1958年の売春防止法の施行によって廃業に追い込まれました。
しかしその後、旅館に転業して営業を続けている店があります。そんな旅館には、遊廓の建築や文化的な側面に関心をもつ女性が、ひとりで宿泊することがあるそうです。
関根さんは、そんな元遊廓の旅館を取材した本『遊廓に泊まる』(新潮社)を7月に出版しました。本の中では、独特の意匠を誇る遊廓建築の様子を写真で紹介しながら、その歴史を文章で伝えています。
今も残る「遊廓」建築を紹介
関根さんは、遊廓は「タブーだから」こそ惹かれるといいます。「知りたい」という好奇心を刺激されるそうです。2014年に中国の大連を訪れたときに、日本がかつてつくった遊廓の建物を見て関心を持ちました。翌年には、伊勢神宮近くの「麻吉旅館」に宿泊しました。そこにあった遊廓の面影を色濃く残した建物に惹かれたといいます。
本の中では、20カ所の「元遊廓」の旅館や飲食店などが紹介されています。関根さんが特にお勧めだというのが、京都府八幡市の多津美旅館(橋本遊廓跡)です。往時の遊廓建築が残っていて、見応えがあるといいます。
仲代達矢さんや夏目雅子さんが出演した映画『鬼龍院花子の生涯』(1982年)のロケ地にもなりました。アクセスの良さもポイントです。京阪電車の橋本駅を下車すると、すぐ目の前に遊廓だったころの雰囲気が広がっているといいます。
遊廓に詳しくない初心者がひとりで宿泊するならば、青森県八戸市にある新むつ旅館がお勧めだといいます。館内に入ると、玄関の右側にあるY字階段に目を引かれます。天窓から差し込む光が黒光りした階段を照らしており、「いまにも遊女が下りてくるのではないか」と錯覚させるほどの迫力があるとのこと。
「明治時代の遊廓建築がほぼそのままの状態で残っている建物で、遊女たちのお守りや遊客帳といった当時の資料も残っています。何より旅館の女将さんが親切で、当時の様子など色々と話を聞かせてくれます」(関根さん)
「出張や旅行に合わせて泊まってほしい」
元「遊廓」の旅館を取材する苦労について、関根さんは次のように振り返っています。
「かつて遊廓だったという情報は、ほとんどの旅館が提示していないため、まず旧遊廓で営業中の『転業旅館』を探すことから始めました。取材や掲載がNGだった旅館もありました。掲載した旅館は、遊廓時代の話を聞かせてくれた、つまり取材に協力をしてくれた旅館です」
本に載せたすべての旅館は「自信を持ってオススメできる」とのこと。ぜひ主人や女将さんに話を聞いてみてほしいといいます。
「遊廓建築や遊廓の風習等に興味を持った旅行者が宿泊しても、色々と親切に教えてくれると思います。旅行や出張に合わせて、ぜひ宿泊してみてください」