上野公園パンダ舎の下を走る「京成線」 見えない「電車」の気配を感じる(知られざる鉄道史 4)
複数の路線が乗り入れる東京・日暮里駅。JR山手線と常磐線のほか、成田空港まで「最短36分」で結ぶ京成線も乗り入れるターミナル駅として重要な役割を担っています。
日本ではこうした交通結節点全般をターミナルと呼びますが、英語の「terminal」に由来する「終点」「終着」という本来の意味に従えば、京成本線のターミナルは上野駅になるはずです。
ところが京成上野駅はJR上野駅と少し距離があって、乗り換えが不便。このため京成電鉄は、JR線からの乗り換え駅として「日暮里」を前面に打ち出しているのです。日常的に京成線を利用していても、日暮里~京成上野間に乗ったことがないという人は多いのではないでしょうか。
地下を進む日暮里~上野間
日暮里駅から京成上野駅へ向かう電車は、急カーブを曲がり、谷中墓地と上野公園の間から山手線の内側へ入り込むと、終点の京成上野までずっと地下を進みます。乗客たちは、景色もない、レールと車輪のきしみ音が鳴り響く車内で、終点まで2分ほど不思議な余韻に浸るのです。
この日暮里~上野間は、区間だけみれば京成線とJR線が併行しています。しかし上野公園のへりに沿って走るJR線に比べて、ずっと地下を進む京成線が実際にどこを走っているのか、意識する機会はないかもしれません。現在、日暮里駅の次は終点・京成上野駅ですが、かつてはこの間にふたつの駅がありました。
文化の杜に馴染む旧駅舎
トンネルに入ってすぐの所にあったのが、戦後まもなく営業休止となった「寛永寺坂」駅です。つい数年前まで地上に駅舎跡が残っており、今でも車窓から目を凝らすとホームがあった場所のトンネルが広がっているのが分かります。
寛永寺坂駅の跡地を通過すると、地下トンネルは、寛永寺と東京藝術大学の間を抜けて上野公園に向かって進みます。そして、東京国立博物館・法隆寺宝物館と黒田記念館に挟まれた交差点のあたりに、もう一つの駅がありました。「博物館動物園」駅です。
この駅は比較的最近まで運営されていて、1997年に営業休止。2004年に正式に廃止されました。西洋風の荘厳なつくりの駅舎と地下にあるホームは当時の姿のまま残っており、2018年4月に鉄道施設として初めて「東京都選定歴史的建造物」に選定されました。
上野動物園の下を走る京成線
博物館動物園駅から京成上野駅まで、トンネルは上野公園の下を進みます。地上にいると、トンネルと地上をつなぐ換気口から漏れ出た電車の走行音や振動がはっきりと聞こえてきて、姿は見えないのに鉄道の気配を感じる不思議な体験ができるスポットとなっています。
なぜ動物園の地下に線路があるのでしょうか。 実はこの区間が建設された1933年当時、動物園は線路の西側までしかありませんでした。ところが、動物園の拡張で地下トンネルの上を越えてしまったのです。そして線路の真上にあるのが、話題となったシャンシャンのいるパンダ舎です。
かつてこのパンダ舎を訪れる多くの人々が利用した「旧博物館動物園駅」の駅舎。かつて多くの人が利用していた駅舎の痕跡に、思いを馳せてみてはいかがでしょうか。