世界「100人の女性」に選ばれた90歳のおばあちゃん「まだ夢がいっぱいある」

2018年の「100人の女性」に選ばれた高見澤摂子さん
2018年の「100人の女性」に選ばれた高見澤摂子さん

人々に感動や影響を与えた世界各国の女性を選ぶイギリス・BBCの「100人の女性」。2018年は日本から2人が選出されました。そのひとりが、千葉県に住む高見澤摂子さん(90歳)です。

これまで小林麻央さん(2016年)や伊達公子さん(2017年)といった著名人が選ばれている「100人の女性」に、無名の「おばあちゃん」である高見澤さんが選ばれたのはなぜでしょうか。

高見澤さんにインタビューして、選出された背景や破天荒な自身のエピソードを聞かせてもらいました。彼女の素顔を知れば、「将来こんなおばあちゃんになりたい!」と思うかもしれません・・・

日本中を驚かせたチャレンジ精神

2018年の夏、ツイッターでこんな投稿が話題になりました。

<今年90歳になるうちのおばあちゃんが「東京オリンピックで通訳をやりたいから英語を教えてほしい」と言うので、毎日1個ずつLINEで英単語を送るというのを始めました>

Twitterのキャプチャ画像 おばあちゃん英語1
お孫さんが高見澤摂子さんに英語を教えるLINEのやり取り
公開されたLINEのやりとり

LINEのやりとりを公開したのは、高見澤さんの孫の夏子さん。「おばあちゃん」は孫に対して、カンニングを正直に告白したり、自らを「ボケエッグプラント」(ボケナスの意)と自嘲したり。

90歳とは思えないチャーミングな受け答えが笑いを誘いました。同時に、何歳になってもチャレンジを続ける姿勢が多くの人の胸を打ちました。

この投稿が大きな反響を呼び、現在までに3万6000リツイートを記録。BBCの記者の目にも留まり、見事「100人の女性」に選出されたのです。BBCの記事では「2020年東京オリンピックのガイドを夢見る90歳」として紹介されています。

LINEでの英会話レッスンが始まったのは、昨年の1月。海外滞在中だった孫の夏子さんから届いたLINEに、高見澤さんが「英語が喋れたらいいな」と返信したのがきっかけだったといいます。

高見澤:最初は(オリンピックのガイドとか)そういう気持ちじゃなくて、「英語を話せたら楽しいだろうね」とか、軽はずみな日常会話の中でのことだったんです。日本にいる外国人の方と話したいという気持ちもあるんですけど、海外旅行で英語が話せれば、国際語ですからね、もっともっと深くいろんなことがわかるし、楽しめる。そう思っていたんです。それはもう痛切に、旅行をするたびに感じていたことなんですね。

英語の勉強ノートを見せてもらうと、真剣に学習している様子がひしひしと伝わってきました。

英語の勉強ノート。アルファベットはほとんど出てこない。
英語の勉強ノート。アルファベットはほとんど出てこない。

高見澤:ついこの間、うちの近くの公園で、男の人が自分の子どもをブランコに乗せていたんだけど、会話が日本語じゃなくてね。どうも英語みたいだから、勇気を出して、「エクスキューズミー」って話しかけたんですよ。そしたら、アイルランドの方だった。それでスマホを出してね。これから良いコミュニケーションが始まろうとしていたんだけど、その方の日本人の奥さんが向こうのほうから歩いてきちゃってね! 奥さんが通訳になっちゃったんですよ。残念!

——英語の練習をしたかったのに、日本語を使われてしまった、と。でも、勇気を出して話しかける姿勢が素晴らしいですね。

高見澤:(英語を習得するには)実践するのが一番早いんじゃないかなって、思うんです。

——海外旅行が好きだということですが、初めて海外へ行ったのはいつごろですか?

高見澤:初めて行ったのはインドで、40代後半のとき。定年後は、だいたい1年に1回は海外へ行っていました。現地の生活、歴史、文化、政治、経済を知るのが楽しい。最後に行ったのは、2年前のマカオ。英語は話せないけど、市場には強いんです。「ワンハンドレット」とかは言える。負かすのは大事だから(笑)

スマホはひとりで買ってきた

2010年からツイッターをやっていたという高見澤さん。LINEやスマホを自在に操っているところにも驚かされます。

「おばあちゃん、スマホもひとりでドコモショップへ行って買ってきたんだよね(笑)」

と話すのは、孫の夏子さん。

高見澤さんと二人の孫。涼さん(左)と夏子さん(右)
高見澤さんと二人の孫。涼さん(左)と夏子さん(右)

「2年くらい前だったかな。私の両親と兄弟でやりとりしている家族のLINEグループがあったんですけど、おばあちゃんだけガラケーだったんですよね。『どこそこに行ったよ』ってLINEで写真を送っても、おばあちゃんだけ見られないから、『その情報、知らない』ということがあって。それで、自分でお店に行って、スマホを買ってきて、『これにLINEを入れてくれ』って(笑)」(夏子さん)

高見澤:私だけガラケーで、仲間外れにされるのが嫌だったから! でも、何も知らないから、変な買い方してきてね。

「スマホだけならいいんだけど、いろんなオプションに入ってて。しかも、タブレットまでついてきて(笑)」(夏子さん)

破天荒なエピソードが尽きません
破天荒なエピソードが尽きません

絵を学ぶため、41歳で武蔵美に入学

——ツイッターでは自身の戦争体験に関する投稿もされています。以前、日本が戦争に負けたとわかったときに「喜びで震えた」と書いていました。当時は悔しがる国民が多かったのだと思っていましたが、摂子さんは嬉しかったんですか?

高見澤摂子さんのツイートのキャプチャ

高見澤:「天皇陛下万歳!」というような軍国少女になっちゃっていたのにね。もう本当にね、体中が嬉しくて。ガタガタするほど嬉しかった。

——戦争が終わってからは、何を?

高見澤:真っ先に行ったのが、美大です。絵を学びたくて、願書を取りに行ったんですよ。でも、そのころはまだ共学になっていなくて、ダメでした。

「それで、小学校の教員になったんだよね。それから、美術専科(美術だけ教える教員)になるために、大人になってから武蔵美(武蔵野美術大学)に入ったんです」(夏子さん)

——大人になってから武蔵美に?

高見澤:教えたいという気持ちより、自分自身が勉強したいっていう気持ちのほうが強かったんですけどね。

1970年4月、41歳で武蔵美の通信教育で学び始めた高見澤さん。

高見澤:働きながら通っていたから、朝一番の電車に乗って、終電で帰ってくるんですよ。それでも面白かったですね、武蔵美は。

武蔵美卒業後は、小学校の図工専科、のちに中学校の美術専科の教員となり、定年まで勤めます。定年後も、友人と絵を描いてグループ展を開いたり、精力的に活動していました。

英語の勉強ノートの表紙には、自ら描いた似顔絵が。
英語の勉強ノートの表紙には、自ら描いた似顔絵が。

若い人たちには「未来を見せてもらっている」

——これもツイッターの投稿で見かけたんですが、「国際ニュースが好き」だと書いてありました。そうなんですか?

高見澤:大好き。プライムニュース(フジテレビ)やWBS(ワールドビジネスサテライト/テレビ東京)を観ると、「今、世界はこういう情勢なんだ」と知れる。AIとか、クラウドとかも。

——クラウドもわかるんですか!?

高見澤:「クラウド」っていう言葉が耳に入ってきたのは、もう何年も前ですかね。意味がわからないから、孫に聞いたんですよ。その言葉が一般的になる前に、みんなからいろんな情報を教えてもらって、概念がわかって。そうすると、世界の見方もまた変わってくるんだよね。AIによって、今ある仕事の多くがなくなっちゃうとか、そういうような話も。未来がどうなるのか、それを知ることがすごく面白い。

——これからの日本を築いていく若い世代に、何か伝えたいことはありますか?

高見澤:年寄りって、すぐ「今の若いもんは」って言うでしょ? だけど、私のツイッターに返事をくれる若い人たちがたくさんいて、その人たちのコメントを読んでいると、「安心して日本の将来を任せられる人たちだ」って、ものすごく思えるのよ。私は若い人たちから、未来を見せてもらった。ありがたいっていう気持ちですね。

——そういう気持ちなんですか。ビックリしました。

「おばあちゃん、『これからの日本は大丈夫』って、いつも言っているよね」(夏子さん)

孫の夏子さんと一緒に取材に応じる高見澤さん
孫の夏子さんと一緒に取材に応じる高見澤さん

高見澤:そうそう、若い人たちには楽しませてもらってるというか、希望を持たせてもらってる。だから、孫たちが帰ってくるとすぐ捕まえてね。「未来がどうなるか」っていうことがものすごく気になるから、いろいろ聞くのよ。

「おばあちゃんに新しい話をすると、『私の時代はこうだった』とかじゃなくて、『どうなってんの? どうなってんの?』って、ものすごい好奇心で食いついてくる(笑)」(夏子さん)

——これからの日本に対して期待することは?

高見澤:やっぱり平和ね。

——戦争を体験したからこそ、繰り返さないでほしいわけですね。

高見澤:日本がアジアを引っ張っていく、そういうような位置にいるでしょ。それはぜひ続けてね、そして平和な国を。

——今は東京オリンピックの通訳ボランティアを目指して英語を勉強中ですが、他に何か夢はありますか?

高見澤:それはいっぱいあります。旅行もしたい、絵も描いていたい、おいしいものも食べたい、お金もほしい(笑)

——2025年に大阪万博が開催されることも決まりました。

高見澤:そうだねえ、そのときは96歳。テレビの話じゃ、私たちは100歳まで生きるっていうからね。衰えないように過ごします(笑)

高見澤さん、いつまでもお元気で!
高見澤さん、いつまでもお元気で!

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中村洋太 (なかむら・ようた)

ライター。旅行情報誌の編集とツアーコンダクターの経験を経て、フリーランスに。これまでに自転車で西ヨーロッパ一周、アメリカ西海岸縦断、台湾一周を達成したほか、東海道五十三次600km徒歩の旅も。

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