沖縄にいるときは、沖縄の本を読みまくれ!(沖縄・東京二拠点日記 32)

著者の沖縄宅の本棚。リノベーションした際に取り付けた。
著者の沖縄宅の本棚。リノベーションした際に取り付けた。

6月某日 起きてからずっと真藤順丈さんの小説『墓頭』(BOZU)と『地図男』を読む。

沖縄の戦後史を舞台にし、直木賞を受賞した『宝島』からぼくは真藤ワールドに入ったが、真藤さんの人物ルポを書くことになったから、インタビューと並行して十数冊ある作品群を読んでおく。真藤さんが影響を受けたという平山夢明さんの『独白するユニバーサル横メルカトル』という短編も読む。

夕方、栄町へ出かけ、イタリア料理店「アルコリスタ」で、じゅんちゃんと普久原朝充君と飯を喰うことになった。普久原くんはやはりiPadを片手に持ってやってきた。場内にある「おとん」にも顔を出して帰還。

6月某日 今日は一日中、本を読むことにした。澤地久枝さんの『琉球布紀行』。

沖縄にいるときはなるべく沖縄関係の本を読むことにしている。ジュンク堂書店の沖縄関連本コーナーが充実していることもあるし、古書店なら「BOOKSじのん」や「ちはや書房」もある。どこの店に行ってもつい買ってしまうので、それをすぐに家で開く。東京・神保町の古書店街で古本を買って、近くの喫茶店ですぐに漁った本を開く快感に似ている。

澤地さんはかつて沖縄芸術大学に入り、沖縄に住んで「布」について一から学んでこのノンフィクションを書いた。冷蔵庫に入っている島豆腐やら、大好きな鯖塩煮缶詰を食べながら空腹を紛らせつつ。

沖縄で初めてレズビアンを公にした人

(左から)小渡真由美さんと宮城由香さん。浦添市で唯一の天然の浜、カーミージーで。

6月3日 宜野湾市の「カフェユニゾン」で「琉球新報」の月イチ連載「藤井誠二の沖縄ひと物語」の取材で、宮城由香さんと小渡真由美さんと会う。宮城さんと会うのは2回目だけど、小渡さんとは初めて。ふたりはパートナーなのだが、この日、小渡さんも会っていただけることになり、写真撮影も承諾したうえで来てもらった。

宮城さんは性的マイノリティの存在と権利を社会に広く訴える「ピンクドット沖縄」というイベントを中心になって開催していた頃、メディアに登場していた。パートナーの小渡さんはピンクドットに関わってはいたものの、カムアウトはしていなかったし、ずっと血縁者にも伝えていないという。つまり、ぼくの今回の記事で初めて社会に対して、宮城さんのパートナーとしてカミングアウトをすることになる。

宮城さんは沖縄で初めてレズビアンであることを公言した人だが、沖縄でそれをオープンにして胸を張って生きていくことは、ぼくなんかには想像できないプレッシャーがあったろうと思う。沖縄は反米軍基地運動等が目立ち、どちらかといえばリベラルな県というイメージがあるかもしれない。基地闘争や歴史的な反ヤマト運動だけ見ているとそう感じるかもしれないが、他の分野では他の県と同じように保守的で新しい価値観を拒むところがある。

セクシャリティやジェンダーに対してもそうで、保守的な風潮を嫌がる人は東京などの大都会、つまりはしがらみがない大都会へ移動して、セクシャルマイノリティのコミュニティに入る人も少なくない。ちなみに宮城さんは新聞のインタビューを通じて両親等の肉親にカムアウトした。

お2人と別れたあと、ぼくはレンタカーを運転して国道58号に出た。ゴーパチ沿いにある宜野湾市大山あたりの骨董家具や雑貨屋、古着屋が並んでいる一帯に向かった。ファニチャーストリートと呼ばれているみたいだが、ぼくは時間に余裕があり、かつクルマがあり、なおかつ1人のときは、このあたりをうろうろするのが大好きなのである。

ラギッド グローリーの顔なじみのスタッフ。

東京と沖縄の二拠点生活を始める前から、ストリートの中の一軒、「RAGGED GLOWRY」(ラギッド グローリー)にはとくに顔を出していた。ストリートの多くの店は在沖米軍や軍属家庭の放出品が多かったが、この店は欧米に買いつけにいったり、メキシコでオリジナル商品をオーダーしたりしている。

ここで同店がメキシコの作家に頼んでつくっているぬいぐるみを買う。猫のやつだ。手作りなので二つと同じものはない。オリジナル商品としてはシーサーのぬいぐるみがあるのだが、何種類も購入してきた。置いてある家具はぼくの趣味のど真ん中で欲しくてしょうがないが、置くところがないから見るだけ。

ついでに真嘉比にあるぼくのオアシス「サンキュー」の植物売り場へ足をのばす。広い。安い。南国の多種多様な植物がずらりと並んでいる。ここを1人でずっとうろうろしている時間はぼくにとって至福である。

クルマを返却して、夜は栄町へ。SNSを通じて知り合った知花園子さんと飯を喰うことになっていた。彼女は落語を沖縄で広げようと、落語会などのイベントを仕掛けている。おばあさんが営んでいる食堂などの彼女のSNSの投稿もおもしろくて仕方がない。深谷慎平君も知り合いみたいなので、いっしょに栄町の「ルフュージュ」から「潤旬(うりずん)庵」へ。〆に「博多一幸舎」でとんこつラーメンをすすって帰宅。

ルフュージュにて、深谷慎平さんと。

あの「事件」から18年

6月4日 作家の仲村清司さんが大学に教えにやってきて(週に一回)、拙宅へ泊まってもらっている。大学開講中は月に4回、彼は京都と拙宅を往復しているので、ぼくより拙宅にいることになる。安里の居酒屋「鶴千」で合流して、栄町の「潤旬(うりずん)庵」へ流れた。

普久原君もいっしょに3人で書いた『沖縄 オトナの社会見学R18』と『肉の王国 沖縄で愉しむ肉グルメ』の次は何をやろうかとえんえんと、だらだら話し合ってるが、なかなかこれだという企画が出てこない。前者は3刷がかかるなどで細々と売れ続けているのだが、話し合うときは酔っぱらっているので、そのときはいい企画だと思っても、あとで見直してみるとたいしたことがないということの連続。

「鶴千」の料理。

6月5日 夕方まで本を読む。真藤順丈さんの別の作品。『東京ヴァンパイア・ファイナンス』、『七日じゃ映画は撮れません』のページをめくる。真藤さんは小説を手がける前はグループで映像に携わっていたから、経験がふんだんに盛り込まれている。

仲村さんは大学へ講義をしにいき、夕方に泊の「串豚」で合流。仲村さんとぼくの共通の友人たちが集まった。昨日会った知花園子さんも来た。社会学者の打越正行さんも来た。店に入れる人数の半分くらいは知り合いになってしまい、さすがに主の喜屋武さんにメイワクだろうと思い、そこからやはり栄町へ流れて『ちえ鶏』で焼き鳥を喰う。

仲村清司さんは、必ず街の猫に声をかける。

6月6日 今日は1日、静かに本を読もうと思う。そして「事件」のことを考えようと思う。明日、池田小事件の遺族・本郷由美子さんに大阪で会うことになっている。

本郷さんが読んできた本の一部だけだけど、絵本『いのちの時間ーいのちの大切さをわかちあうために』(ブライアン・メロニー=作、ロバート・イングペン=絵)、鷲田清一さんの『「聴く」ことの力ー臨床哲学試論』、『語りきれないこと 危機と傷みの哲学』をひらいた。そして本郷さんが書いた『虹とひまわりの娘』を再読した。

池田小、事件の追悼の集まり。現役の児童や遺族が年1回、学校で当日に集まりを持って被害者に祈りを捧げる。マスコミは門の外から撮影。

6月7日 朝、那覇空港から神戸空港へ移動。到着時間が大幅に遅延、テレビ局の会議室で本郷さんをお待たせすることになってしまった。神戸からタクシーを飛ばした。タクシーの中から、番組の担当ディレクターと本郷さんに何度もお詫びのメールを入れる。薄曇りの都市の風景が車窓を流れていく。

翌々日は池田小で追悼の集まりがある。事件から18年が経った。

【編集部注】
元の記事で「昨日会った知念園子さんも来た」となっていましたが、「知花園子さん」の誤りでした。おわびして訂正します。(2019/10/18)

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