二刀流のシナジーが生み出した「スープストック」遠山正道さん(前編)

(撮影・斎藤大輔)
(撮影・斎藤大輔)

幅広い世代に人気のスープ専門店チェーン「スープストックトーキョー」のみならず、アパレルショップ、レストランと多岐にわたる事業を展開する株式会社スマイルズ代表取締役社長の遠山正道さん。会社員時代に開いた個展がきっかけで社内ベンチャーとしてスープ事業を立ち上げ、経営者への道を歩み始めました。異色の会社員時代や、起業スタート時に心掛けていたことなどを聞きました。

優秀でいい人たちに「あまり憧れず」

――大学を卒業後、三菱商事に就職されました。いつかは自分で事業をやってみたいというお気持ちがあったのでしょうか。

遠山:そういう想いは全くなかったですね。社会人になったのは34年も前の話で、今とは全く違う時代でした。当時の新卒の学生に起業という選択肢はまだなくて、「大学を出て企業に就職する」という既定路線に乗っただけです。

――新卒の時には事業欲はなかったのですか?

遠山:そうですね。ただ、入社して10年経った時に「自分はこれでは満足しないな」と思いました。その頃たまたまクリエイティブディレクターの秋山道男さんに勧められて、自分の作品の個展を開きました。

個展は大成功でしたが、絵で食べていけるとは思えませんでした。ただ、その時に感じたエネルギーを仕事で活かさない手はない、その方が自分も会社もハッピーだと感じたんです。そして「個人性と企業性」という言葉が浮かんで、それらを実現できる食の小売業の日本ケンタッキー・フライド・チキンに出向し、スープストックトーキョーの事業を始めたんですね。

「自分で自分を試さないまま定年を迎えたら後悔してしまう、自分で何かをジャッジしたい」という気持ちがあり、出向した時点で社長になりたいと思っていました。

その後、社内ベンチャー企業第1号の「株式会社スマイルズ」が設立され、2008年には全て株を買い取って独立したのです。

――いわゆるきちんとしたサラリーマン社会にいたと思うのですが、「外に出たい」と思ったのはなぜでしょうか?

(撮影・斎藤大輔)

遠山:周囲にあまり自分のようなタイプはいなかったからでしょうか。とても優秀でいい人たちが多かったのですが、当時の自分にとって「尊敬」するけど「あまり憧れない」というのが正直な気持ちだったんです。

――なるほど。

遠山:スープストックトーキョーの事業を始める前から『味の手帖』という雑誌にも20年以上にわたってコラムを描いています。そういうこともあって、普通の会社員の枠には収まらなかったのかもしれませんね。

ビジネスとアートのシナジー

――起業時を振り返ったご自身の著書の中で「人生で配られるカードのうち、三菱商事の社員であることとアートワーク、この二枚で勝負だ」という一節があります。

遠山:今でもそうなのですが、アートの世界ではビジネスパーソンを背負っていき、ビジネスの世界ではアート好きを背負っていくことにしています。そうすると、どちらの領域でもコミュニケーションがスムーズになりますね。

例えば、アートの世界にアート好きで行くとヒエラルキーの下になってしまいますが、アートの世界の方々が苦手なところをビジネスパーソンとしてアピールすると、対等に接することができます。一方で、ビジネスパーソンの時には「アートとビジネスの関係性」というような切り口で話すと、みなさんが振り向いてくれやすいことはありますね。

こうすることで、どちらの世界でも嘘をつくことなく、そして自分を大きく見せることもなく堂々としていられます。

――どちらの世界でも自然体でいるから、スムーズに事が運ぶのでしょうか。

遠山:会社の中にいる時は「アート好き」ということで少し変わった面白い社員と見られ、社外でアートの世界の人と話すときは、「商社マン」と名乗ると、やはり異色の存在と見られました。会社員時代から「三菱商事の社員とアートワーク」という、両方の足で歩いていくコツのようなものは感じていましたね。

――確かに目立ちます。

遠山:それから学生時代の先輩でアメフトのスタープレーヤーがいたのですが、試合中に全く汗をかかないというのを聞いて、めちゃくちゃかっこいいと思っていました。自分も苦労を前面に押し出すことなく、さらっとビジネスをやろうと思っていました。そうあるためには、ビジネスパーソンでありながら別の肩書きを持ちたいと考えていましたね。

後になって、その2本だけで全ての物事がうまく運ぶほど現実は甘くはないというのがわかるのですが(笑)、今でも異なるジャンルのかけ算の法則みたいなものは大切にしています。

――シナジー効果が生まれるのですね。

遠山:自分は職人気質ではなく、どちらかと言えばプロデューサー気質の人間だと思っています。映画を作ることにも憧れがありますね。演技も脚本も照明も資金調達もその専門の職人的な人がいますが、自分はセンスの部分で勝負してみたいんです。

――そうすると、現在の遠山さんのカードは「プロデューサー気質」でしょうか。

遠山:カードの見つけ方は人それぞれに違うと思います。学生時代からずっと役者を続けて来た方なら、会社員をしながらそれを貫けばいい。自分の志向や立ち位置を意識しながら、自分のカードを見つけるといいのではないかと思いますね。

――初めての複業は、商社マン時代に開いた屋台のおでん屋さんだったと伺いました。今では経営者として様々な事業を展開されていますが、会社員の頃と今ではどんな違いがありますか?

遠山:小学生の時から手品師をやっていて、大学時代には『ポパイ』にイラストを描き、社会人になってからも松任谷由実さんのコンサートステージの絵を描いていました。〇〇だけど〇〇、というのが好きです。ずっとそれは変わらないですね。

会社の人格に合うビジネスを

――ご自身の著書に「売り上げ自体を目的とせず、やりたいことをやるというビジネスモデルを貫く」とありましたが、心掛けていることはありますか?

遠山:会社をひとりの人格として捉えて、その人格に合うビジネスをやるようにしています。

――具体的にはどのようなことでしょうか?

遠山:自分の人生に「3カ年計画」「5カ年計画」という計画はありません。目標を定めて突き進むのではなく、その時その時の興味をどんどん体現していきたい。目標は定めたくないのです。すると大切なのは「素直であること」になります。スマイルズさんが素直に受け入れられることはやる。でも違和感を覚えることはやらない。

――会社にも人格があるのですね

(撮影・斎藤大輔)

「自分はスープを売るために生まれて来たのではない」ということです。スープを丁寧に作って売ることは大切なことですが、それにコミットすることだけが自分の人生ではないと考えていて。それは会社も同じだと感じています。一つの業界の中だけで何かがしたいとは思っていません。

――なるほど。

遠山:例えば人だったら、南の島の青空も気持ちいいし、映画も好きだし恋愛だってする、ということになりますよね。その素直な感覚をビジネスに落とし込んでいます。

少しカッコつけた言い方をすると、初めて絵の個展をやってから20年以上経ちますが、その間個展はやっていません。ビジネスの方が面白くなっちゃったんですよ。絵だったら、その場にいる人にしか「いいね!」がもらえない。それ自体はすごくありがたいことなのですが、スープはたくさんの人に飲んでもらえます。

スマイルズのキャッチフレーズは「世の中の体温をあげる」なのですが、体温のあがり具合というか広がり具合が、絵を描いて人に見せるのとは違うと感じています。

――過去を振り返って、アートが好きだったということ以外に、今のご自身につながるようなことはありますか?

遠山:やはり手品師だったということでしょうか。暑苦しくなく涼しい顔をして人を驚かせたいですね。毎年、代官山でお化け屋敷をやっていますが、自分もメイクをして、スッと人を驚かせていますよ(笑)。

【インタビュー後編】社員の「複業」支援で社会と会社を豊かに スマイルズ社長・遠山正道さん

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