広島市で「自動運転バス」の実証実験、総括責任者が語る自動運転の未来

広島大学の藤原章正教授(撮影・渡辺鮎美)
広島大学の藤原章正教授(撮影・渡辺鮎美)

高齢者の運転による痛ましい死亡事故などをきっかけに、人が車を運転しないでも走行する「自動運転」が注目されています。AIの進化に伴って開発が進み、各自動車メーカーやグーグルなどが、開発競争を繰り広げています。普及すれば画期的な技術革命ですが、技術的な問題や、事故が起きた際の責任問題など、課題も多いようです。この分野に詳しい識者の方々に話をうかがいました。

2019年11月、広島市の中心市街地で自動運転バスの実証実験が行われました。バスと路面電車が並走している地域で、自動運転バスを路面電車の軌道に入れ、安全に走らせることができれば、悩みの種となっている交通渋滞が緩和され、運転手不足の解消にもつながるという狙いです。自動運転バスの導入で、広島の街はどう変わるのか。今回話を聞いたのは、実験の総括責任者を務めた、広島大学大学院国際協力研究科の藤原章正教授です。

自動運転バスを路面電車に追走させる試み

――11月に行われた自動運転バスの実証実験について教えてください。

自動運転バスを、一般の車道から路面電車の軌道敷地内に進入させ、電車と協調して走行させる実験を行いました。バスには車間距離などを感知するセンサーやカメラを装着しており、電車が電停で止まればバスも停車し、発車に合わせて動き出す。再び一般道に戻って走行するまでの一連の動きを、リハーサルも含め計10回、ほぼ計画通りに実施することができました。

広島では、マツダが13年に自家用車と路面電車の車々間通信実験を行っており、今回はバスと路面電車という公共交通機関同士で通信実験を行うことも目的の一つでした。

――路面電車の軌道に進入させるのはなぜですか。

広島の路面電車は市民のシンボルのような存在です。モータリゼーションが進む中、国内では多くの都市が「道路は自動車のために」と路面電車を廃止し、地下鉄に切り替えてきましたが、広島は路面電車のために道路を利用することし、まちづくりを進めてきました。

路面電車の軌道敷地内にバスを走らせるというのは、ドイツなどヨーロッパではよく見られる光景ですが、現在の日本の道路交通法では、路面電車の軌道敷地内の車両の通行は禁じられています。また、自動運転バスの走行は世界初の試みです。渋滞の発生しやすい区間では、路面電車の軌道敷地内に進入し、渋滞のない区間では、一般の車道を走行してバス停へのアクセスのしやすさも確保する。これもユニークな点です。

藤原教授は、自動運転バスの実証実験についてホワイトボートを使って説明してくれた=広島大学の研究室

――市民モニターにも体験乗車してもらったのですね。

公募で選ばれた72人にモニターとして乗車してもらいました。今回の実験では、技術検証だけでなく、社会的な需要を調査するという目的があったからです。

運転手が操作せず、ハンドルが勝手に動く自動運転バスを、人々はどれだけ受け入れられるのか。軌道敷地内へ進入する時、路面電車の後ろを走行している時、軌道敷地内から車道へ戻る時など、どこで一番危険を感じたか、アンケートをしました。乗車の前後で、自動運転への受け止め方に変化があったかどうかも尋ねました。結果は19年度中に報告書にまとめる予定です。

――具体的な導入時期の見通しは。

技術面では1年以内にも導入できるレベルですが、社会的な問題、法律上の問題は多い。18年、アメリカのウーバー社が試験走行中に起こした死亡事故が典型的ですが、事故があった場合の責任の所在について、明確な法律の規定がありません。このような課題が克服できないと、実現は難しいです。

運転手不足解消のメリット

2019年11月17日未明、電車の前で停車する自動運転バス(広島大学提供)

――そもそも、自動運転導入のメリットはどういう点でしょうか。

公共交通について言えば、運転手など労働者不足の解消が挙げられます。広島県はバスの運転手が不足していて、路線廃止の原因にもなっています。乗用車では、高齢者や認知症の人、体に障害がある人など、運転ができない人のための移動手段としてメリットは大きいです。また、災害の発生が予測されるような地域に向かう場合、自動運転車があれば、人がリスクを負って現地に行く必要もなくなります。

――今後の課題について教えてください。

自動運転の技術への信頼はいずれ得られると思います。重要なのは、リスクをどう捉えるかです。

トロッコ問題という、車の暴走を想定した倫理学の思考実験があります。ハンドルは利くがブレーキは利かないという状況で、車の前にいる3人のお年寄りと1人の子ども、どちらの側にハンドルを切るのか、というような問いです。

このような究極の選択について、ロボットはまだ自ら判断することができません。人間が判断し、プログラミングしなくてはならない。自動運転車の開発メーカーによって「A社は子どもを殺す車」「B社はお年寄りを殺す車」ということも起こりえます。技術が日々進化する中、今まさに考えるべき問題です。

――責任の所在に加えて、倫理の問題ですね。

こうした話を、私は来春の講義から学生たちに伝えていく予定です。自分たちは将来、どういった立場でどういった行動をとるのか。技術開発を担う工学部の学生だけでなく、消費者として技術を利用する側になる文系の学生にも考えてもらえればと思います。

海外の国にも同様の学生向けのカリキュラムを提案したい。自動運転が一気にグローバルスタンダードになった時、リスクを考えずに導入する国もあると思います。そうならないよう、これから教育が重要になってきます。

――日本固有の課題や特徴はありますか。

狭いエリアに高密度で人が生活する日本では、公共交通がないとすぐに交通混雑が起きる。個人自動車、バス、鉄道、新幹線。これらがコネクトしている社会ですから、自動運転についても、必要なところに必要な技術を取り入れていかなくてはなりません。

「思いやりのある街をつくれる」

広島大学の藤原章正教授(撮影・渡辺鮎美)

――今回の実験も、現在の広島の交通事情に対して自動運転技術をどう取り入れるか、が課題だったわけですね。

私は、自動運転で思いやりのある街をつくることができると考えています。市内に自動運転バスが導入されれば、バスの運行がもとで発生している渋滞の緩和が期待されます。また、利用者はいつ来るか分からないバスと路面電車を、それぞれ異なる場所で待たなくてはなりません。停留所を共有できれば、先に来た方に乗ればいい。いずれも利用者、市民に対する思いやりなんです。

――ほかに、自動運転によって社会はどう変化しますか。

自動運転車が導入されると、カーシェアリングが中心になるでしょう。自宅まで迎えに来て、目的地まで連れて行ってくれます。あまり指摘されていない視点だとは思いますが、迎えの車は無人なので、人が乗っていない車と、有人の車が、街を行き交うことになる。

一方、自動車の全体数は格段に減ります。二酸化炭素排出量だけでなく、駐車スペースも減り、緑化や、他の目的のために活用できるようになります。街の姿は大きく変わると思います。

――反対意見についてはどう捉えていますか。

私たちは負の側面に関しても研究しています。自動運転車が導入されると、地図が読めなくなる、人間の足は退化してなくなる――、そんな議論もあります。以前行ったアンケートで、日本人は自動運転車に対して「えたいの知れないリスク」を感じる割合が原子力より高いという結果が出ました。こういった声に対し、自動運転のメリット、デメリットを正しく説明をしていかなくてはと、考えています。

プロフィール
藤原章正(ふじわら・あきまさ)
1960年岡山県生まれ。広島大学大学院国際協力研究科教授。広島大学卒業後、85年に同大大学院博士課程前期修了。呉工業専門学校助手、東京大学工学部研究員、広島大学工学部助手などを経て2002年から現職。専門の交通工学を起点に、都市計画や都市開発なども領域とする。

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