数万円で馬主になって「ダービーに出たい!」(一口馬主の夢 1)

(Photo by Getty Images)

「よし来い! よし来い!」

手にしたスマホの画面に向かって、電器量販店の駐車場で場違いな怒号を響き渡らせる。我が馬は、隣の馬を弾き飛ばして自力で進路を作った!「大丈夫だ。いける!」と自分を励ます。

そしてゴール直前。前を駆ける最後のライバルをきっちり捕らえた。先頭でゴールイン。やった! 無傷の3連勝~。よしよしよしよしよしよし。これでダービーに出られる!

これは競馬の話だが、馬券の話ではない。私の「馬主生活」の話だ。

いま現在、投資している現役の競走馬11頭で、総額は3億8140万円。故障したり放牧調整(休養)したりで、すべての馬を常時稼働させることは難しいが、今週末も日本のどこかの競馬場で「我が軍団」(と、以下は呼ぶことにする)の優駿たちが駆ける。

(この記事は、2019年7月27日に旧DANROで公開されました。記事内の情報は当時のものです。新しいDANROへの移行についてはこちらをご覧ください)

さきほど、馬の総額は3億円うんぬんとラッパを吹いたが、新進IT企業のCEOでもない私にそんなに金があるはずもない。実は、競走馬の価格を200~500口に分割して、大人数で1頭の馬を所有する「一口馬主」のひとりなのだ。

3億円というのは全口合わせた場合の総価格で「我が軍団」に属する現役馬への私の出資額は、実のところ100万円前後といったところ。出資は、いくつかある共同馬主のクラブを経由して行っている。

「ロマン」と「刺激」、ときどき「利益」があるかも・・・

ところで、冒頭で勝った馬の名は「ザダル」という。価格は1600万円。

ザダルは3戦目の「プリンシパルS(ステークス)」を完勝したのだ。デビュー戦から3連勝というのは、そうあることではないから、我が軍団の「超期待馬」に昇格させよう。ザダルがこの日稼いだ賞金は、2000万円余り。3戦の累計で3354万円だから、なんとデビューからほんの5ヶ月間で、馬代金の2倍以上を稼いだことになる。

ザダルは総口数400口だったから、1,600万円÷400=4万円が1口の出資額。毎月50~100万円かかる預託料(調教師に預けて管理してもらう費用)や、レースで獲得した賞金も、出資した口数によって、徴収されたり分配されたりする仕組みだ。

ザダルはとても「馬主孝行」な馬といえるが、私が所有する馬全体で見れば、儲けるなんて夢のまた夢。元さえ取るのもなかなか難しい。最初の投資額(馬代金)に加えて、毎月の預託料がかかるし、自分の馬が出走するときは馬券も買ってしまう。レースというのは負けることのほうが圧倒的に多いので、馬券でも損することになる。

競走馬で最近有名なのは、サブちゃんこと、北島三郎さんが馬主の「キタサンブラック」だ。引退後の収入も含めれば、まったくの当て推量で言うが35億円は稼いだだろう。一発当てればでかい。

「佐々木大魔神」の馬も好調で、いつだったかドバイの王がスポンサーのビックレースで勝って、約4億円(?)をゲットしたようだ。次の馬を手に入れるためには、賞金で稼がなくてはならないのも事実だが、ほとんどの馬主たちは利益をあげることではなく、ロマンを追いかけているのだと思う。

ザダルは牡馬(オス)では最安値の馬だったので相対的に安かったが、それでも1口4万円。人によっては高額と思うかもしれない。しかしブランド物のバッグだって、それくらいするだろう。馬なら場合によってはリターンもあるし、折々には心臓が飛び出るくらいの興奮と、気が遠くなるくらいの妄想を体験できるので、その1000倍はお値打ちと確信している。

もちろん、期待している分だけ「失望」や「悲しみ」をしょっちゅう味わうことになる。実際はそちらのほうが多いかもしれないが、それもある意味で楽しさといえよう。

毎日ドキドキ、わくわく そして週末のクライマックスへ

このコラムを書いている週は、「我が軍団」から1頭が出走する予定。舞台は、私の住まいから遠く離れた福島競馬場である。

今回はネットで観戦する予定なので楽だが、「脈あり」と判断したレースでは、スケジュールと懐具合をみながら、北は東京、南は小倉くらいまでなら(馬とともに私が)遠征するので、大ごとになることもしばしば。人からみればアホみたいかもしれないが、真剣に取り組んでいるのだ。

(提供:shin1さん)

「一口馬主」とはいっても、オーナーであることには違いないので、レース後や中間のトレーニングの状況といった情報が所属クラブから得られる。

今日は水曜日。「愛馬の状況は?」と、クラブのWEBサイトにログインIDとパスコードを入れて、ひとりビール片手にサクっと確認する。時おり、「故障しました、残念です」的な報告もあるので、いつもながらドキドキする瞬間。

今週出走する予定の期待のルーキー「ロードオマージュ」の調教は、グッド。調子は良さそうだが、週末には台風が接近するようなので、そちらが心配。我が軍団のもう一頭の超期待馬で、現在は骨折休養中の「ガルヴィハーラ」は乗り運動を開始した。順調だ。

デビュー前の大怪我から復活した「ロードアメイズ」は、北海道の牧場で調整中。こちらも順調。牧場で調整中の「テトラクォーク」はまもなくトレセン(JRAの施設。競走馬はここに滞在してレースを迎える)に帰厩予定とのこと。ホッ……みんな元気そうで何よりだ。

さて日が変わって週末。多趣味の私はテニスのレッスンに赴く。コーチに球出しをしてもらって、ドライブショットやボレーの確認。すると、左手のアップルウォッチが不意に振動する。あっと……。「すみませ~ん! コーチ、ちょっと外しま~す。しばらく私の順番は抜かして下さ~い」。スマホを持ってコートの外へ出る。

そう。これから愛馬のレースが始まるのだ。

この記事をシェアする

山本丈晴 (やまもと・たけはる)

広島在住、3児の父。子供の時から競馬ファンで東大ホースメンクラブBiBi元部長。長年のブランクの後、最愛のEPIPHANEIA(JPN)に出会って競馬観戦再開。夢を乗せて一口馬主道探求中。生業は社会保険労務士・行政書士。趣味は養蜂・不定積分・ゴルフ・テニス・猫・家庭菜園・数学を教えること・巨人。

このオーサーのオススメ記事

どの馬に夢を託す? 一口馬主の運命が決まるとき(一口馬主の夢 2)

数万円で馬主になって「ダービーに出たい!」(一口馬主の夢 1)

山本丈晴の別の記事を読む

「ひとり趣味」の記事

DANROサポーターズクラブ

DANROのオーサーやファン、サポーターが集まる
オンラインのコミュニティです。
ぜひ、のぞいてみてください。

もっと見る