「自動運転は生活に必須」 技術開発を手掛けるティアフォー加藤氏に聞く

五輪選手村を走る自動運転バスの前に立つ加藤真平さん(ティアフォー提供)
五輪選手村を走る自動運転バスの前に立つ加藤真平さん(ティアフォー提供)

高齢者の運転による痛ましい死亡事故などをきっかけに、人が車を運転しないでも走行する「自動運転」が注目されています。AIの進化に伴って開発が進み、各自動車メーカーやグーグルなどが、開発競争を繰り広げています。普及すれば画期的な技術革命ですが、技術的な問題や、事故が起きた際の責任問題など、課題も多いようです。この分野に詳しい識者の方々に話をうかがいました。

オープンソースの自動運転ソフトウェア「Autoware(オートウェア)」を開発するスタートアップ企業「ティアフォー」。トヨタ自動車が発表した2020年東京五輪・パラリンピック仕様の自動運転バス「e-Palette(イーパレット)」に自動運転技術を提供しています。イーパレットは、複数台が東京都中央区の晴海地区の選手村に導入されます。ティアフォー創業者で、最高技術責任者(CTO)の加藤真平さんは、この自動運転バスが選手村の生活になじめば、一気に実用化の方向に流れると期待しています。

限定されたエリア、ルートなら可能

自動運転バス実用化への期待を語る加藤真平さん(撮影・土田ゆかり)

――今、自動運転車の研究や実証実験はどのような段階にありますか。

加藤:「自動運転タクシー」という言葉を聞くと、今のタクシーのようにどこにでも行けると想像されると思います。でも、現時点で実現できそうな段階まで来ているのは、バスとタクシーの中間ぐらいの乗り物です。どこにでも行けるわけではないけれど、限定されたエリアやルートを運行できるというイメージです。

自動運転の実用化に向けて注目されているのがODD(Operational Design Domain)です。「運行設計領域」のことで、正常に運行するための道路条件などを指します。この条件が整えば、自動運転の安全性を確保できます。ODDが設定できない地域では、自動運転を導入すべきではありません。

バスやタクシーは、その使われ方や走行範囲が限定的なので、現実的なODDを設定できます。だから、ODDを無限に設定することになる自家用車の自動運転は難しくても、タクシーやバスなら実用化できると考えられます。

――ティアフォーではどのような試みがなされていますか。

加藤:自動運転に対するODDを四つの類型に分けてそれぞれ実用化を進めようとしています。

1番目は「歩行者も他車両も存在しないところ」。例えば「廃線跡を使って走らせる大型の自動運転バス」などが含まれます。技術的ハードルは低いですが、ビジネスとして採算性があるかどうかが課題です。

2番目は「歩行者はいないが他車両は存在するところ」。例えば「高速道路」のような環境です。こちらも技術的ハードルはそこまで高くないですが、高速走行による事故のリスクをいかに低くするかが課題です。

3番目は「歩行者も他車両も存在するが、運行環境をある程度管理できるところ」。例えば「公園や施設、工場、過疎地域、中山間地域」のような限定エリアでの移動、物流を想定しています。高度な自動運転技術を要求されますが、採算性は高く、ODDも限定できるので、近い将来の実用化も可能と考えます。

4番目は「歩行者も他車両も存在して運行環境の管理もできないところ」。例えば「市街地の一般道」が挙げられます。巨大なマーケットと言われていますが、要求される技術もリスク管理もハードルが高いので、産官学が一体となって、さらに研究開発、制度化を進める必要があります。

今は、3番目と4番目に取り組んでいます。3番目については、低速型の自動運転EV「Milee(マイリー)」がすでに愛知県の愛・地球博記念公園など、全国各地でサービス実証の段階に入っています。トヨタが開発中の2020年東京五輪・パラリンピック向けの自動運転バス「イーパレット」も、来夏には複数台が選手村で運行予定となっています。

ドライバー不在、ハンドルもブレーキもない商用車が複数台、本格的に24時間の定期運行をするというのは、世界に先駆けた取り組みといえます。

自動運転バス「イーパレット」(ティアフォー提供)

――乗り心地はいいのですか。

加藤:とてもいいと思います。トヨタの製造技術は間違いなく世界最高水準です。通常、私たちが実験で使っている自動運転車は、乗り心地を重視した設計にはなっていませんが、乗っていて気持ちが悪くなることはありません。

ほかにもたくさん自動運転車に乗ってきましたが、このイーパレットの乗り心地は別次元です。ものづくりに命をかけている人たちが作るものは、やはりすごいなと感じました。

五輪選手村の自動運転バスが試金石

――自動運転バスの運行に期待が高まります。

加藤:選手村でのイーパレット運行は、自動運転バスが本当にモビリティーサービスとして価値を提供できるのかどうか、実証する場にもなると考えています。

初めは、利用する皆さんは珍しがるでしょう。でも、その珍しさが、東京五輪・パラリンピック期間が終わる2カ月後にどう変化しているかに注目しています。

まだ珍しさがあるようなら、まだ社会的受容性に課題があるということになりますし、すっかり選手村の日常になじんでいれば、一気に実用化の流れになるかもしれません。

4番目になると、解決すべき課題が増えます。まず、住民から合意を得られるかどうか。また、危険運転をしている人がいるかもしれないし、子どもが飛び出してくるかもしれない、といったリスク管理などもあります。20年夏に「JPN TAXI」の実証実験を予定していますが、ODDにより、安全可能な道路に限られます。例えば、時速40キロ以下の走行に限定し、そのルートには危険運転をする人がおらず、子どもの飛び出しもないというような条件を整えたいと思っています。

――20年をきっかけに、自動運転車が私たちに身近になるかもしれないんですね。私たちにとっての自動運転のメリットとは何でしょうか。

加藤:自動運転車の本質は、自動で車が走る、人が介在しなくても車が走ることです。言い換えれば「ドライバーがいなくてもサービス可能」ということが役に立つ場所でこそ本当の力を発揮する、ということです。

今、地方で、高齢者の方は病院に行くのも大変で、家から外に出ることすら苦労していると聞いています。情報はどこに住んでいても手に入れられるようになりましたが、移動や物流など社会性を伴うサービスは、まだ簡単にアクセスできない地域はたくさんあります。

自動運転車によって、そういった社会の課題を解決することが私の目指すゴールです。

また、自動運転が普及するということは、AIやロボット、情報通信技術、安全技術もそれに合わせて発展するということです。これは、結果として日本の国際競争力が強くなるということなので、経済効果も大きいと思います。

――完全自動運転の見通しはいかがですか。

加藤:自家用車の完全自動運転は、おそらく相当遠い未来でしょう。ただ、運転支援のための自動運転機能は、ついてもいいと思います。疲れているときには、自動で走ってくれる機能があれば、便利ですよね。

でも、自動運転の本当の価値は、便利さではありません。地域の移動や物流など、社会課題を解決する地方を救えるツールだという点です。

社会インフラの一部になりうる

自動運転の課題を語る加藤真平さん(撮影・土田ゆかり)

――地域社会のための自動運転を実現する課題は何でしょうか。

加藤:地方では特に、お金を回す仕組み作りです。生活のために移動や物流が必要で、そのために自動運転がライフラインになるのであれば、公共のお金で費用負担する政策も検討が始まると思います。

日本の社会保障給付費は17年度、120兆円を超えました。医療について考えてみると、人口が少ない地方の病院も、従来は金銭的な課題を抱えていたはずですよね。でも、国が負担してくれているわけです。道路工事も同じです。なぜなら、それらが社会インフラであり、ライフラインであるからです。

自動運転が社会インフラの一部として地域のライフラインになるためには、世界中の人々に皆さんに「自動運転は生活に必須なのだ」と認識してもらうことも大切だと思っています。

プロフィール
加藤真平(かとう・しんぺい)
1982年神奈川県生まれ。株式会社ティアフォー創業者・取締役会長兼最高技術責任者(CTO)、「The Autoware Foundation」創業者・代表理事。2008年、慶應義塾大学で博士(工学)の学位を取得。カーネギーメロン大学、カリフォルニア大学で研究員を務め、12年、名古屋大学准教授。15年、ティアフォーを創業。16年から東京大学情報理工学系研究科准教授として学術研究や産学連携に従事。18年、The Autoware Foundation設立、オープンソースソフトウェアの普及に努めている。

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