好スタート! 一口馬主が挑んだ「菊花賞」(一口馬主の夢 4)
さて「菊花賞」の当日。10時前、遠路はるばる京都競馬場へ到着する。まずはこの日に販売される我が「ザダル」の名入りグッズを、記念にと10点ほど購入した。さすがGIデー。スタンド内では、ギターやサックスの生演奏を披露されていた。それを横目に、まだレースが始まっていない馬場に出る。何日も前から心配していた天気は晴れも晴れ。それどころか激暑。10月の後半だというのに季節はずれにクソ暑い日だった。馬場に入って3秒で羽織ってきたシャツを脱いだ。
「口取り」ははずれたので今日は「安らぎのカジュアル」な服装だ。「口取り」というのは、一口と言えども「馬主」なので、抽選で当たると愛馬が勝利した際の公式記念撮影ができる。その撮影をいう。ドレスコードがあり、スーツ、ネクタイ着用なのであるが、なんと言おうか、これが目立つのである。特観席でなく競馬場のそこらをうろついていたら、一口馬主野郎感バリバリで完璧に目立つのだ。今回は「残念ながら」落選してしまった。
午前は好調ラーメンとビールで勢いをつける
朝のうちは下級条件馬のレースなので知らない馬が多く、予想といってもよくわからないので、縁起を担ぐ意味でザダルに騎乗するバシシュー(石橋脩騎手)からちょっぽしずつ馬券を買って遊ぶことにした。なんとバシシュー好調~。馬券も的中と幸先はいい。ひとり競馬なので馬券を買うくらいしかすることがないが、午前中は淡々と過ぎてゆく。
そうこうしているうちに昼休憩。午前中にチェックしておいた場内で開催中のラーメンイベントで数あるなかから厳選して「鶏塩ラーメン」を食す。会場を出たところで見つけた地ビールの屋台カウンターで2つの銘柄を1杯ずつ一気に飲み干して菊花賞へ勢いをつけた。グラスはかなり小さかったが、暑い日だったし、とっても美味しかった。もちろんラーメンも常設店のものよりはハイクオリティだった。どうでもよいことなのだが。
そしていよいよ「パドック」に菊花賞の出走馬が出てくる時間。パドックとはレース前に行われる馬たちのお披露目の会場をいう。直前のレース観戦はパスして、パドック前方のポジションを確保。馬が出てくるのを待つ。17頭が続々と入ってきたが、なんとゼッケン1番の我がザダルだけがいつまで待っても入場しないではないか……。えっ、なんで? まさか、トラブル? と不安な気持ちが広がって気が気でない。出走取消などといった案内も特に出ていないし……。えっ、えっ、と動揺していたら、いつのまにか目の前にいた(笑)。
ひいき目でなく、あちこちで「ザダルが」という声が聞こえるような気がする。恐らくは私と同じザダルへの出資者たちなのだろう。興奮や思いを共有したいが、人見知りな性格が災いして、それはできない。全馬を見るに、とにかくやはりザダルが一番強そうだ。明らかにかっこいいし、調子も良さそう。前から見ても横から見てもやってくれそう。写真をパシャパシャと撮る。騎手のバシシューも自信ありげだ。ザダルはレース直前で6番人気。体重は前走に比べかなり減っていたが、レースのためにシェイプアップしてきたのだと理解した。
見守る一口馬主にもすさまじい緊張感
スタートの時が迫る。とにかく失敗しないようにと私は最高に集中する。スタンドからじっと見守る私の心臓はバコバコ。口から内臓が飛び出そうな緊張感。スタートを失敗しないように、スタートを失敗しないようにと繰り返し集中する。私が集中しても全然意味がないとは後で思うのだが、その時はとにかく私も集中するのである。
ゲートが開く直前ザダルがゲート内で立ち上がり気味に暴れた。やばい! 落ち着け! しばらくの沈默の後、ガッシャン! ゲートが開いた。ザダルは好スタートだ。「よし!」思わず今日初めて大声が出る。
好スタートを切ったザダルは、騎手の作戦なのか位置取りを徐々に下げていったが手応えは悪くない。ずっとインの経済コースをキープしたまま最終コーナーを回った! よし、ここから!
……が、私とザダルの菊花賞は、ほぼここで終了していた。直線、内側のほうでズルズル下がっていくザダルの姿を最後まで追いきれないままレースは終了。無情。厳しい状況に動揺し、どの馬が勝ったかさえわからなかった。僅差の2着に入ったのが、前走ザダルが接戦した川田騎手のサトノルークスだったことだけはわかった。
何がどうなってこうなって……整理がつかない。帰ろう……。明日からまた仕事だ。こうしてザダルと私の「菊花賞」は終わった。