自分の中の女性と「ひとりデート」する恋ヶ窪(地味町ひとり散歩 24)

秋も深まり、あたたかいものが欲しい季節となってきました。一番あったかいものとはなんでしょう。暖房の効いた部屋、厚手のコート、おでんなんかもいいでしょう。しかし本当にあたたかいのは、愛する人と一緒にいることじゃないでしょうか。なので、デートをしたいです。

ところが、なんということでしょう。このコラムの連載タイトルは「地味町ひとり散歩」。つまり、ひとりで歩かなくてはならないのです。そこで考えました。今日は、自分の中にひっそりと隠れている女性を引っ張り出して、自分の別人格と「二重人格デート」をしようと。

ちなみに僕の歌に「ひとり闇鍋」というのがあります。歌詞を紹介します。

ひとり闇鍋(CD『おいしいうそがいっぱい/石川浩司』収録)

ひとり闇鍋 具が全部わかってる

ただ真っ暗なだけ ひとり闇鍋

ひとり長電話 117回して

時々ゲラゲラ笑う 2時間35分

ひとり組み体操 ピラミッド作りたかったなあ

だけどできたのは スフィンクスだった

ひとりかくれんぼ 家と家のすきま

はさまって動けない 俺はここにいる

ひとり結婚 新郎も新婦も俺

ブーケを投げたのに 落ちてやがて枯れた

ひとりエベレスト やっと頂上だ

バンザーイと言った途端 ひとり転落死

ということで、今日は「ひとりデート」をすることにします。自分の中の女性よ、いでよっ!

・・・ハッ、召喚されたわ。女性の石川よ。普段はあまり顔を出さないけど、誰にでもあるでしょ、自分の中の別性別。今日はひとりだけど、脳内でふたり散歩するわ。石川は女性の私がリードしないと駄目な人だから、今日の言葉は「僕」じゃなくて「あたし」でいくわ。

「ふたり散歩」に選んだのは恋ヶ窪

やってきたのは恋の町「恋ヶ窪」。西武鉄道・国分寺線の地味な駅よ。でも、さすがにデートの町だけあって、公園が多いわね。

あらっ、コアラ公園だって。

でもなんか、このコアラ苦しそう。ほかにもいろんな動物が・・・

ウサギ、象、そして黄色いライオンもいたのに、なぜ一番苦しそうなコアラが公園の名前に選ばれたのか不思議ね。それとも、コアラが一心不乱に念じて、ほかの動物たちが悪さしないように統率してるのかもしれないわね。

こちらの公園は名前は書いてなかったけど、さしづめ「キリン公園」ね。でも、あるのはキリンの首だけで、顔がなくて怖いわ。まさか、4匹のキリンの首をハサミで切って柱にしたんじゃないわよね。

このキリンの長い首がからまっちゃったような遊具は、いったいどうやって遊ぶのかしら。きるで巨大な知恵の輪だわ。

これはダックスフントかしら。背中にこんな変な窪みがある犬、怖いわ。

パンダ公園もあったわ。でもパンダって、こんなにカラフルだったかしら?

仲間のレッサーパンダもいたわ。ゴミが捨てられているけど。

ひつじ公園にはひつじ以外、誰もいなかったわ。お友達を待っているのかしら。

公園めぐりもちょっと疲れたわね。そこにカフェがあるから、ちょっと休憩しない?

でも、入り口がないわ。もしかして看板の前の駐車場がオープンカフェってこと?

・・・ところで、さっきからあたしばかり喋ってるけど、あなたも話してよ。

ハハハ(888)

笑ってないで喋ってよ。

シシシ(444)

だから変な笑い声は立てないで!

・・・あっ、もしかしたら、あたしが喋ってるとあなたは数字でしか会話できないの!?

泣く泣く(7979)

泣かないで。そうなのね、同時には喋れないのね。

ヤバいよ(8814)

でも、元に戻れば喋れるから。ちょっとだけ我慢ね。ねえ、あたしのこと、どう思ってる?

いい女(1107)

ありがと。でも「女」って! 自分のことはどう思ってるの?

いいオッサン(1103)

でも、オッサンというか、あなたぼちぼち、おじいさんでしょ。  

これこれ(5050)

ゴメン、ちょっとヒドかったかしら。でも、このままだとホント困るわよね。そのうち数字でしか喋れなくなったら・・・

わかった。そろそろ、私は消えるわ。あなたは「男の石川」として、ひとりに戻って散歩を終わらせなさい。

ちょっと寂しいけど、恋には終わりがつきものなのよ。それにあなたはひとりが好きって、知ってるんだから。

さよなら。

パチパチパチパチ(8888)

ふー、ということで、男性の自分に戻りました。なんとか言葉も喋れるようです。やはり、ひとり脳内デートは大変でした。

ところで、実はこの撮影をしているとき、人に声をかけられました。

「ちょっとぉ、オレの車で何してんすか?」

少しヤンキーぽくも見える若者でした。

僕はビクビクしながら「あっ・・・いや・・・僕はちょっとコラムを書いていまして・・・あの、車のナンバープレートの数字を入れ込んだら面白い文章になるんじゃないかと思いまして・・・あっ、あっ、証拠を見せます」

そう言って、ドギマギしながら、あわてて今まで撮影したナンバープレートを見せました。

ここいいな~(5517)

よい小屋(4158)

いい夫婦(1122)

鼻グロ(8796)

一瞬の間が空きました。

さあ、白黒(4696)どちらに出る!?

「・・・なるほどぉ、面白いですね!」

わかってくれた、助かった!

本当にいい人(111)で良かった! 恋ヶ窪のひとり二役デートでした。 

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石川浩司 (いしかわ・こうじ)

1961年東京生まれ。和光大学文学部中退。84年バンド「たま」を結成。パーカッションとボーカルを担当。90年『さよなら人類』でメジャーデビュー。同曲はヒットチャート初登場1位となり、レコード大賞新人賞を受賞し、紅白にも出場した。「たま」は2003年に解散。現在はソロで「出前ライブ」などを行う傍ら、バンド「パスカルズ」などで音楽活動を続ける。旅行記やエッセイなどの著作も多数あり、2019年には『懐かしの空き缶大図鑑』(かもめの本棚)を出版。旧DANROでは、自身の「初めての体験」を書きつづった。

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