お笑い芸人との共演を思い出す「草薙」散歩(地味町ひとり散歩 36)

今回の散歩の前日、静岡市の街の中心にある広場で、僕のやっているバンド「パスカルズ」の無料野外コンサートが開かれました。野外ライブは気持ちいいものですが、さらに、道路に面した広場の無料コンサートというのも嬉しかったです。

というのは、ホールやライブハウスで演奏する場合、会場に来るのは、そのミュージシャンが好きな人たちです。そいう人がお金を払って観にくるわけですから、反応が良くて当たり前です。しかし誰でも通行できる広場だと、興味がなければ素通りされてしまいます。

そういう人たちの足が止まって、徐々に熱狂していき、拍手が大きくなる。これに勝る快感はありません。この日も大いに盛り上がって、気分が良かったです。

このイベントの主催者は、静岡出身の漫画家・しりあがり寿さんでした。しりあがりさんが毎年正月に開催している小さなフェスに昔から出演しているご縁で、今回のコンサートにも招かれました。

「地味町」を見つけるのは案外むずかしい

せっかく地方に来たのだから「地味町散歩」をしない手はありません。しりあがりさんらと夜遅くまで打ち上げをした翌日。少々二日酔い気味でしたが、僕の楽器のパーカッションを宅配便で家に送り出すと、リュックを背負って歩き始めました。

ちなみに、楽器を宅配で送るときは通常、「楽器類は破損しても弁償できません」といった誓約書にサインを書かされるなど面倒なことが多々あります。でも、僕のパーカッションは鍋とか桶です。品名に「楽器」とは書かず、「日用品」と書いて送るので、スムーズに発送できます。

まあ、こんな楽器を使っている人は、僕以外で見かけたことがありませんが。

さて、散歩です。静岡の近くで地味町はどこかいな、と探します。ところが、これが案外難しいのです。

実は地方といっても、田舎すぎて、写真に撮るようなものが何も見つからないこともあります。散歩はしたもののコラムの執筆に至らなかったトホホの失敗も、何回かあるのです。

なので、事前に地図とにらめっこして「ほどほどの町」を探すのです。もし「ここだ!」とピンと来ない場合は、駅名がコラムの種になりそうなところを見つけます。

僕はお笑いが大好きです。テレビはほぼ、お笑い番組しか観ません。といっても、夜のゴールデンタイムはライブなどで外出していることも多いので、リアルタイムで観るのではなく、録画しておいて、後で妻と一緒に観るのですが。

最近の若手で気に入っているのは、宮下草薙の草薙さん。あの独特の「弱者の被害妄想、狂気」みたいな感じは、なかなか新しいと思って、好んで観ています。その名前と同じ「草薙」という駅が静岡駅の隣にあったので、ここに降り立ってみることにしました。

そういえば、僕はデビュー以来、お笑い芸人さんとテレビで共演する機会が数多くありました。タレントになりたいという気持ちはないので、積極的にこちらからオファーすることはないのですが、バラエティ番組などからときどきオファーがあるのです。

おそらく、山下清的な感じを求められているのでしょう。まあ、僕にそういう部分がゼロだとは言いませんが、案外「そうじゃない姑息で狡猾なところもあるんだよな…」ということもあり、正直なところ、タレント性はほとんどないと自覚しています。

では、なぜオファーを受けることがあるのかというと、多少なりとも音楽活動の宣伝になるからです。それにぶっちゃけ、ライブよりもギャラがいいことが多いのです。

グータラな僕は「2時間ほどそこに行ってちょっとお喋りすれば、ライブ2、3回分のお金がもらえるのか~」と考えて、出演することが多いのです。もっとも、明らかに趣旨が合わない場合はお断りすることもあります。

「人生をしくじった話をしてほしい」と依頼されたけれど

たとえば、あるテレビ局から「人生をしくじった話をしてください」という依頼がありました。

おそらく大ヒット曲が1曲しかなく、それが続かなかったのを「しくじり」と捉えて、そのしくじりで悩んだ話などを期待しているのだと思われます。でも、実態はどうかといえば、もともと商業的ではない、独自のアンダーグラウンドミュージックをやっていると自負していた自分たちが、ひょんなことから1曲だけヒット曲を産んでしまったのです。

そのことは喜びであり、今の活動に繋がっているので、ありがたいことではあるのですが、同じようなヒット曲を継続して出したいという気持ちはありませんでした。ただ、自分たちの音楽をやりたいだけだったのです。

僕らにとって「大ヒット曲が1曲だけあること」は何のしくじりでもなく、むしろ「宝くじに当たってラッキー!」ぐらいな気持ちでした。なので、申し訳ないけれど、テレビ出演のオファーをお断りしたこともありました。

僕の呼び名として知られている「たまのランニング」。これを命名したのは、ダウンタウンの松ちゃんです。そのダウンタウンの「ガキの使いやあらへんで!」という番組には何度か出演しました。

ビートたけしさんの「たけしの誰でもピカソ」という番組も縁がありました。アート審査員として、何回か出演させてもらったことがあります。

そのほか、有吉弘行さん、さまぁ~ずさん、バイきんぐさんといったお笑い芸人さんたちと、いくつかの番組で共演して「さよなら人類」を一緒に歌ったりもしました。

とんねるずさんは同い年。タモリさん司会の「ミュージックステーション」で共演したり、他の番組で体力対決をしたりしたことがあります。

テレビ以外では、猫ひろしさんやデッカチャンさんとライブでセッションしたこともありましたが、どれも面白い体験でした。

では、散歩を始めましょう。

整体などの治療院は、マンションの一室で行われることが多く、場所がわかりにくいことがありますが、ここはとてもわかりやすいですね。

犯罪に巻き込まれたとき、「犯人はここです。」と書かれていたらスゴいですが。

とても紛らわしいですが、ここは「花屋」という屋号の靴屋さんでした。ブーツは売っていても、ブーケは売っていません。

定番の和菓子が並んでいる中、タイガーポテトがちょっと気になりますね。

残念ながらこの日はお店が閉まっていたので、正体はわからなかったのですが、おそらく「虎の肉」は入っていないでしょう。ウルトラマンが「虎を売る男」ではないように。

たぶん、赤ちゃんを売っている人身売買の店というわけではないと思いますが、ここも正体不明でした。

男餃子と女餃子の違いは、なんでしょうね。ジェンダーレスの昨今、問題にならなければいいのですが。

殺人は300万円で、さらに、凶器を準備したり集合したりすると倍額の600万円になるのですね。ただ、凶器を準備したり集合したりしている人を見かけても、差し引きの300万円をもらえるわけではないのでしょうが。

「ティーパーティー」と言いながら、出すのは紅茶ではなく、コーヒーとお酒のようですね。

僕の散歩の楽しみのひとつは、地元のスーパーマーケット巡り。これが今回の散歩で見つけた缶ドリンクです。

「前立腺の友」というすごいネーミングのものも見つけました。ちなみに、これはお酒です。

東海地区限定のコーヒーは、このコラムの「茶所」のときにも買っているのですが、デザインが微妙に変わっていたので、即購入しました。

僕が最初に個人名義で出した「コレクション本」は缶ドリンクではなく、インスタントラーメンの本です。なので、その地方のインスタントラーメンを見つけるのも大好きです。

さすがシラスが名産の土地だけあって、さまざまなシラスが並んでいます。静岡らしくて圧巻でした。

買い物にも満足したところで、温泉があったので、ひとっぷろ浴びて帰ることにしました。ライブと散歩の疲れも取れ、ポカポカとあたたまることができました。

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石川浩司 (いしかわ・こうじ)

1961年東京生まれ。和光大学文学部中退。84年バンド「たま」を結成。パーカッションとボーカルを担当。90年『さよなら人類』でメジャーデビュー。同曲はヒットチャート初登場1位となり、レコード大賞新人賞を受賞し、紅白にも出場した。「たま」は2003年に解散。現在はソロで「出前ライブ」などを行う傍ら、バンド「パスカルズ」などで音楽活動を続ける。旅行記やエッセイなどの著作も多数あり、2019年には『懐かしの空き缶大図鑑』(かもめの本棚)を出版。旧DANROでは、自身の「初めての体験」を書きつづった。

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