女子高生が北海道に「単身移住」 そこで見つけた新しい自分とは?

北海道の北東部、オホーツク管内にある大空町。この小さな町に、東京から単身で移住した女子生徒がいます。北海道大空高校2年のモモコさんです。この高校のどこに魅力を感じて、進学したのでしょうか?

北海道一、変な公立学校?

大空町は「網走監獄」で有名な網走市の隣町。2006年に女満別町と東藻琴村が合併して誕生しました。人口は約6500人で、オホーツク管内の空の玄関である「女満別空港」があるのが特徴です。

大空高校の校舎とモモコさんら生徒たち

モモコさんが通う大空高校は、2021年に町内の2つの高校が合併してできた町立の新設校です。既存の概念にとらわれず、新たな発想力で時代を切り拓く人材を育成しようと、地元出身の生徒だけでなく、札幌など道内の別の地域や広く道外からも生徒を集めています。

道外の生徒の募集では、文部科学省の「地域みらい留学」という制度を活用しています。全国各地の生徒が、住んでいる町を飛び出して他の地域に移り住み、3年間の生活をおくる国内進学プログラムです。「多様な経験と挑戦の機会から、高校生一人ひとりの個性と自立心を育てる」ことを狙いにしています。

モモコさんも、この制度で大空高校にやってきました。進学した理由の一つは自由な校風です。

 

  • 定期テストがない
  • 時間割がない
  • 細かい校則がない
  • 固定担任がない
  • 歴史がない

普通の学校にあるような様々なルールがなく、生徒が自分で考えること、自主的に行動することを重んじるのが学校の特色となっています。

大空高校の生徒たちが運営するカフェ「そらら」の営業の様子

「これまでの自分から一歩踏み出す気持ち」で北海道へ

大空高校のスローガンは「飛行機人を育てる」。飛行機人とは、外山滋比古のベストセラー『思考の整理学』の中で提唱されている言葉です。社会問題を自分ごととして考え、自ら課題解決を行う人をさしています。

そんな「飛行機人」になりたいと、全校生徒約110人の大空高校への進学を決めたモモコさん。東京都葛飾区の中学校を卒業すると、親元を離れて北海道に一人で移り住みました。

中学校時代は吹奏楽部でパーカッションを担当し、部活動に打ち込みました。しかし、自分以上にやる気のある同級生がいると、その役割を他人に任せてしまう控えめな性格だったといいます。

「中学校でもらったパンフレットで『地域みらい留学』のことを知りました。大空高校ならいろんなことに挑戦できそうな魅力があったので、これまでの自分から一歩踏み出す気持ちで応募しました」

縁もゆかりもなかった大空町。高校進学に合わせて、学校の寮に入りました。周りは知らない人ばかりという状況なので、友達づくりもいちから始めなければなりません。

「初めて会った寮生と友達になるのは大変でしたが、コミュニケーションの取り方がわかってくると、どんどんうち解けていきました」。寮生たちが自主的に運営する夏祭りやハロウィンを通して、親睦を深めていったそうです。

さらに、他の生徒たちとの共同生活では、別の人の暮らしが新鮮だったとも話します。

「生活スタイルが全然違う人もいるので、困ったときにはお互いにコミュニケーションをとって解決するのが寮のルールになっています」

全国から集まった同級生と学ぶ日々

2023年に入学したモモコさんの同級生は、地元のオホーツク地方出身の生徒が18人、オホーツク地方以外の北海道から進学した生徒が1人、北海道外の出身者が15人という構成です。

高校の授業では、そんな様々な地域から集まった生徒たちが「地域課題の解決」をテーマに探求する科目もありました。

夕暮れに染まる大空町の風景

モモコさんが探究のテーマに設定したのは「大空町に小・中学生の学習支援施設を作ろう」でした。東京や札幌と違い、自習室や学習塾が大空町の東藻琴地区にはなく、学びたい子どもが自由に学ぶ場がないことがテーマ設定のきっかけだったといいます。

モモコさんたちは、高校と交渉して、教室を使って小・中学生に勉強を教える「学習会」に取り組みました。

「中学生はテスト前ということもあって一生懸命勉強してくれて、うまく学習の支援ができました。今では大空町内のお店と協力して、自習室の定期開催を予定しています」

モモコさんの活動はこれにとどまりません。町が支援する短期留学制度でドバイに行って、他国の生徒と交流しました。さらに、文部科学省の留学支援事業で、マレーシアとフィリピンに留学することを計画しています。

「今回の留学では『教育格差の問題』について調査する予定です。現地でどんな教育をしているのかをみるのと同時に、多文化の人々が共存する世界で、言語ではなくデザインで共通理解を得る『ピクトグラム』について、外国人(日本人)としてどう感じるか調べる予定です」

「全国どこに行っても一人で勉強できる」

そんな授業や課外活動に忙しいモモコさん。好きなひとり時間の過ごし方は「北海道の空を眺めること」だといいます。買い物の帰りに見る夜空や寮に戻るときに見る夕焼けなど、北海道ならではの空の表情が好きなのだとか。

「東京の空とは全然違うので、ついつい見入ってしまいます。自分をリセットしてくれるリラックスタイムですね」

もうすぐ3年生になるモモコさんにとって、大空高校はどんな場所なのでしょうか。

「こんなにもいろんなことに挑戦できる学校は、東京にもなかったと思います。親元を離れた寮生活やそこでの友達の作り方を勉強することもできました。そういう意味で『自分が変わることができた場所』だと思います。環境が大きく変わったことが、自分の成長につながっていると思います」

モモコさんが経験したドバイ短期留学の様子

海外留学も経験したモモコさんは高校卒業後、観光関係の学部がある関西の大学への進学を検討しているそうです。

「高校生活を、全然知らない北海道でやっていくことができたので、全国どこに行っても、自分一人で勉強できると思います」

そう笑顔を見せたモモコさん。ひとり移住に挑戦した高校生は、自分でしっかり考えて行動する「飛行機人」になって、飛び立つ機会を待っているように見えました。

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佐藤史一 (さとう・ふみかず)

1986年生まれ。30才からライター・記者をはじめ、最初が教育専門紙記者、続いてWEBメディアのライターを経験する。得意ジャンルは教育、地方移住、B級グルメ、立ち飲み屋など。嬉しかったり、悲しかったりすると居酒屋に行く飲兵衛系ライター。

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