忠犬タローの町「石岡」はレトロ建築の宝庫だった(地味町ひとり散歩 37)

この町を訪れたのは、2022年の5月9日。前日が「母の日」だったので、高齢の母のため、花の形をしたお菓子を持って、茨城の両親の家を訪れました。

半年ぶりに顔を見せに行きました。母は話をすることが何よりも好きなので、僕はほぼ聞き役という感じでした。

若いころは、数年に一度くらいしか帰省しませんでした。でも、両親は90歳前後。書籍の処理など「終活」を始めています。これから何度会えるかと考えると、なるべく会っておかなければと思うのです。

母の日の翌日、両親の家からほど近い「石岡」という町を訪れてみました。

駅を出ると、この銅像が目を引きます。「みんなのタロー」。渋谷のハチ公みたいなものでしょうか?


町に出ると「石岡タロー」という映画のポスターもありました。

説明板も見つけました。どうやらハチ公と同じような「人生」いや「犬生」を送った地元の名犬のようですね。

名犬といえばラッシーというのもいました。でも、名猫や名ミミズというのは聞いたことがありませんね。

驚いたのは、この町はレトロ建築の宝庫だったことです。

僕が子供のころの「昭和」がまだ現役で息づいていました。

100年続いた店も、もしかするとコロナ禍で最期を迎えてしまったのでしょうか。残念ですね。

こんな旅館もありました。まるで工場のようで、ちょっと泊まってみたくなりました。

特攻隊の故郷はここだったのですね。ここで訓練して、散っていったのかと思うと、悲しい光景ですね。

この塾は勉強よりも、カラオケを教えてくれそうです。

「年寄りの冷や水」はよく聞きますが、このお酒はそれと関係があるのでしょうか。

実は僕は高校を出た後、1年間だけ、茨城県に住んでいました。当時は谷田部町という町名でしたが、その後、つくば市に編入されました。

僕の身分は浪人生。でも、近くの筑波大学に高校の同級生がいたため、彼にくっついてこっそり大学の授業を聞いたり、学食でご飯を食べたり、学生寮の広い風呂に入ったりと、擬似学生を満喫させてもらいました。

また、自宅が最寄駅からバスで1時間もかかったため、この1年間は原付バイクに乗っていました。

ただ、そのとき、自分がスピード狂だと分かりました。翌年、上京したとき「僕はバイクや車は運転しないほうがいいな」と自己判断し、免許はあっさりと捨ててしまいました。

このころ、筑波大に足繁く通っていた関係で、女友達がたくさんできました。

女性ばかりの中、男は僕一人という状況も多かった。おそらく、僕があまり男らしさを感じさせず、くだらないお喋り好きの「おばさん体質」だったからだと思います。

そんな女友達たちと喫茶店で長々とおしゃべりしていました。いまから思えば、人生で一番多く、女性に囲まれていた時代だったかもしれません。

全くモテていませんでしたが、これはこれで貴重な青春の1年でした。

さて、石岡の町に戻りましょう。

さきほどのレトロな建築の奥をみると、廃墟が目立ちます。僕は、こういう廃墟が大好きなのです。YouTubeなどでも、ときどき廃集落や廃線跡の動画を夢中で見てしまうほどです。

この、なんとも荒涼とした感じは、侘び寂びの極みだと思っています。僕が最も影響を受けた、つげ義春さんの作品に通じるものがあります。

古い街並みを観光地にしている地域もありますが、たいてい綺麗に整備されすぎていて、生活感がまったく感じられません。なんだか白々しい気分になってしまい、いまひとつ気分が盛り上がらないのです。

でも、ここは違います。こういう生活感を保ちながら自然と朽ちていくものに、僕はものの哀れを感じて、感慨にふけるのです。

お腹も空いてきたので、お昼にしましょう。

駅前に「ヨット食堂」という素敵なネーミングの食堂がありました。海に面した町ではないのですが、ヨットマニアが集まる食堂でしょうか。

メニューをみると、左側に「酢豚定食(鶏肉)」という料理があります。正確には「酢鶏定食」じゃないでしょうか。

もっとも、埼玉県の東松山あたりでは、「焼き鳥」と書いてあっても、豚肉の「焼きとん」が出てくる店があるようです。そのあたり、曖昧な土地柄なのかもしれませんね。

結局、オススメのレバニラ炒め定食をいただきました。オーダーしたら、あっという間に出てきました。レバーがとても大きかったです。

よく見ると、店内のメニューには、提供までの時間が書かれてありました。よほど急いでいるお客さんが多いのでしょうか。醤油ラーメンが付く「煮込みライスセット」は、なんと4分で出てくるようですね。

ちなみに、一番下の醤油ラーメンと半チャーハンのセットは15分かかるようです。ということは、醤油ラーメンが4分ですから、半チャーハンに11分かかるということでしょうか。

創業69年ということは、僕よりもお兄さんですね。結局、ヨットの意味はわかりませんでしたが、石岡に行った際には、ぜひお立ち寄りください。

さて、帰る前に自動販売機をのぞいてみます。ありました、ありました。最近は少し全国区になりましたが、以前は茨城県と千葉県でしか流通していなかったマックスコーヒーです。

何がマックスか、ですって?

練乳入りなので、おそらく「日本一甘い缶コーヒー」。それが、このマックスコーヒーです。甘さマックスのコーヒーをご所望の方は、ぜひ手に取ってください。

なんだかとっても懐かしさを感じた、石岡の町でした。

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石川浩司 (いしかわ・こうじ)

1961年東京生まれ。和光大学文学部中退。84年バンド「たま」を結成。パーカッションとボーカルを担当。90年『さよなら人類』でメジャーデビュー。同曲はヒットチャート初登場1位となり、レコード大賞新人賞を受賞し、紅白にも出場した。「たま」は2003年に解散。現在はソロで「出前ライブ」などを行う傍ら、バンド「パスカルズ」などで音楽活動を続ける。旅行記やエッセイなどの著作も多数あり、2019年には『懐かしの空き缶大図鑑』(かもめの本棚)を出版。旧DANROでは、自身の「初めての体験」を書きつづった。

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