変わりゆく「再開発地区」をひとり歩く、東京・神谷町の「ひとり散歩」
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東京・港区の神谷町は、都心のど真ん中にありながら交通が不便なため意外にマイナーな土地だ。交通手段は地下鉄日比谷線しかなく、JR新橋駅からだと徒歩20分ほどかかる。平日はサラリーマンであふれているが、駅前にあったマクドナルドがなくなるほど土日は閑散としている。
大通りからちょっと裏手を覗くと木造の二階建てが並ぶ。ひとりで散歩するには非常にたのしい町なのだ。しかしこの町も、再開発で街並みが様変わりしてしまった。このコラムでは、開発前と開発後を「ひとり散歩」することの醍醐味をお伝えたいと思う。
人の流れが変わった神谷町
再開発が本格化する前の2017年、私は神谷町を訪れた。日経新聞社系の企業が入ったインテリジェントビルもあるオフィス街だが、この頃の神谷町は木造の建物も残っており、まだ昭和の趣があった。民家や木造アパート、角打ちの立ち飲み屋などを横目に見ながら、この辺りをぶらっとひとりで散歩するのが好きだったのだ。
しかし、再開発が始まり、虎ノ門ヒルズといわゆるマッカーサー道路ができたことで、人の流れが変わり始めていた。昔ながらの八百屋や寿司屋などが幹線沿いに軒を連ねていたが、横並びの店はシャッターが下り、オフィスビルは取り壊すのを待っていた。
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通り沿いの八百屋に立ち寄ってみた。そこの奥さんに聞くと「駅ビルになるところはまだ壊さないけど、それ以外はもうすぐなくなるよ。事情がいろいろあるからね」と語る。八百屋の裏手に入ると、木造のアパートや鉄筋建築の建物が並んでいた。
その奥にはなんと鉄工所が存在した。話を聞こうと中にいた若い男性に話しかけると、「ここは壊されない」とのこと。事業を継続するのか土地を売るのか権利を売るのか、それぞれに違った事情が潜んでいるようだった。
一帯を飲み込む巨大プロジェクトが始動
次に神谷町を訪れたのは2018年の12月。神谷町から麻布台までにかけての一帯を一斉に壊すと聞き、あわててカメラを持って再訪した。「虎ノ門・麻布台プロジェクト」と呼ばれるこの再開発は、港区虎ノ門5丁目から麻布台1丁目および六本木3丁目地区にまたがる巨大プロジェクトだ。延床面積81万平方メートルにもわたり、高さ日本一のオフィルビルを含む再開発である。
今回訪れた目的は、どうしても麻布郵便局を見ておきたかったからだ。麻布台の外苑東通りに建つ麻布郵便局は、1930年に旧逓信省貯金局として建てられた鉄筋コンクリート造5階建ての建物。柱の装飾はアールデコ風で趣があり、外壁はスクラッチ・タイルが用いられるという昭和初期モダンだ。取り壊されると聞いたが、まだ灯りのついたフロアがあった。おそらく、さまざまな残務処理が残っているのだろう。
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麻布郵便局の坂下には、木造住宅がわずかに残され今にも壊されてしまう気配だった。どの家にも灯りがなく、道路には引っ越し業者が荷物を運び出していくのが見える。なんとも寂しいものである。
今回の訪問のもう一つの目的は、三年坂を見物しておくことだ。港区の歴史を綴った書籍を調べてみたが、三年坂に関しての記述があいまいだった。坂がなんとなくできたからだろうか。比較的「坂」に関しての歴史を明確に残している港区にしてはめずらしいことである。
この三年坂も再開発でなくなるので見納めである。50~60代と思われる一団がわざわざ三年坂を見物していた。交差点角にあったはずの一風変わったカフェもなくなってしまっていた。三年坂も落合坂も再開発後には消えている。二度とみられない風景なのだ。こうした情緒を感じることができるのも「ひとり散歩」ならではだ。
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そして現在、あたりの風景はすっかり変わった
そして2020年の現在、神谷町駅に降り立つと景色は一変していた。道路沿いのビルがすべて壊されていたのだ。
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八百屋の奥さんはどこにいったのだろう。思いを馳せながら路地に入っていくとなんと鉄工所があった場所に、おしゃれなテナントビルが建っていた。
何もかも壊して新しい町ができる。それもまたひとつの未来だろう。帰り道、どこかでランチをしようと探したが、ほとんどの建物が壊されてしまった再開発地区には何も残されていなかった。
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そこで、再開発地区近くのピザ屋に入った。オープンテラスがあり、日曜でも満席という人気店だ。何と言っても再開発地区を眺めながら食事ができるのがお気に入りだ。本場のイタリア人が作る本格的なピザとともに、今後もこの一帯と共存していくだろう。
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店に飛び交うイタリア語を聞いていると、次に来るときはきっと町全体が新しくなり、新しい顔の神谷町になっている予感がした。変わりゆく東京の「ひとり散歩」にはそういう気分も必要だろう。そういう意味で再開発の町を歩くのはやめられないのだ。
再開発地区の開発前と開発後をひとりで散策して、町の移り変わりをじっくりと肌で感じてみる。これこそが再開発地区を「ひとり散歩」する醍醐味なのだ。
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