ド派手なサッカー雑誌をひとりで作る「ピュアなモヒカン男」福ちゃん(少年以上、おじさん未満 1)
福ちゃんは背が高い。そのうえ足元はごついブーツ、頭にこんもりモヒカン刈りを乗せているから、一段と大きく見える。顔はピカピカしていて、やんちゃな男の子そのもの。雑踏の中をずんずんずんと歩いていく姿は、大型犬がうれしそうに散歩しているみたいだ。なんだか、見ているこっちまで、のびのびした気持ちになってくる。
36歳、定収入なし、風呂なし、冷房なし、彼女あり。そんな福ちゃんの人生の核となっているのは、「ピテカントロプス」という雑誌だ。もうかれこれ8年くらい、企画・執筆・イラストレーション・編集・配達をひとりでやっている。「子ども達のオリジナリティを引き出す!? サッカー情報誌」と銘打った、ド派手なイラスト満載のサッカー雑誌である。
2017年秋に発行した最新号は、オールカラーで40ページ、特大ポスターの付録付き。どのページからも、福ちゃんの情熱がぐわんぐわんと伝わってくる。
こんなに濃い雑誌をひとりでつくるだけでも見上げた根性だが、福ちゃんのすごさはそこではない。なんと、この雑誌、子どもたちに無料で配っているのだ。
「ええっ、なんで売らないの?」
「このクオリティなら、売れるでしょう!」
そんなことを言われるたびに、福ちゃんは照れくさそうに説明する。
「小学生のころ、転校していく友だちに絵を描いて渡した…あの気持ちで、雑誌をつくって配りたいんです」
あぁ、なんとピュアなモヒカン男だろうか。
「やめようと思ったことはない」いちばんやりたいことだから
毎号3000部つくる。印刷費だけで30万円ほど。その費用を捻出するために、福ちゃんは家賃3万5000円の風呂なしアパートに暮らしてきた。「ピテカントロプス」を優先させるため、アルバイトはしていない。ときどきイラストの仕事をして、少しずつ雑誌制作費を貯める。20代後半から、そのサイクルで生きてきたという。
「数年前はほんとに貧乏で…。家に小麦粉しかなくて、腹がへってしかたがなかったです」
えっ、小麦粉だけで、どうするの。
「水に溶いて焼いたらナンができるんですよ。それを食べてました」
たぶんインドカレー屋さんのナンは発酵させたりするんだろうけど、福ちゃんのナンはよりシンプルな製法らしい。もちろんカレーはないので、塩か砂糖を付けて食す。
「タンパク質を摂らないといけないと思って、ちょっと金ができたら高野豆腐を買ってました。あれは安くていいもんですよ」
食べるものがないとき、とりわけ寒い日や暑い日は、何もやる気が起きない。一日中ぼーっとしている日が続く。それで「ピテカントロプス」4号を出してから、5号ができるまでに5年もかかってしまったらしい。
「2年前に彼女ができたんです。『今日はこんなの描いたよ』なんて見せられるようになって、そこから元気が出てきました」
という話にほっこり。
「やめようと思ったことは?」
「ないっす。なんでだろ。自分でもわかんないっす」
そう言って、福ちゃんははにかむ。子どもの頃から、サッカーと雑誌が好きだった。だから、これがいちばんやりたいことだし、死ぬまで続けるのが目標だと。
「この雑誌、ひとりでやるから続けられるんだと思います。こんなにつらくて訳がわからないことに、よその人を巻き込むわけにはいかないです」
そういう覚悟の決め方とか、好きの貫き方が、のびのび歩いていける理由なんだろうなぁ。