植木の間から顔をのぞかせたネコと居酒屋の話

東京芸大の敷地から外を眺めるネコ。こちらが近づいても意に介さない。
東京芸大の敷地から外を眺めるネコ。こちらが近づいても意に介さない。

植木から顔をのぞかせて、世界を見る。それは、居酒屋の暖簾(のれん)をくぐるのに似ている。居酒屋には、世界がある。

その店に広がる“世界”を知るには、一人で入るのがよい。「そうか。お前は初めての店に、たった一人で入ってきたのか。その勇気を称えてやろう」というわけで、常連が優しく迎えてくれる。

だから僕は、初めての店に入ると同時に人差し指を立て、「一人です!」と宣言することにしている。

いつのまにかそれがクセになってしまい、ついには理容店に入ったときにも「一人です」をやったことがある。

「そりゃそうだろう……」と言いたげな理容店のオヤジの顔は、忘れられない。

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土井大輔 (どい・だいすけ)

ライター。小さな出版社を経て、ゲームメーカーに勤務。海外出張の日に寝坊し、飛行機に乗り遅れる(帰国後、始末書を提出)。丸7年間働いたところで、ようやく自分が会社勤めに向いていないことに気づき、独立した。趣味は、ひとり飲み歩きとノラ猫の写真を撮ること。好きなものは年老いた女将のいる居酒屋。

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