植木の間から顔をのぞかせたネコと居酒屋の話
植木から顔をのぞかせて、世界を見る。それは、居酒屋の暖簾(のれん)をくぐるのに似ている。居酒屋には、世界がある。
その店に広がる“世界”を知るには、一人で入るのがよい。「そうか。お前は初めての店に、たった一人で入ってきたのか。その勇気を称えてやろう」というわけで、常連が優しく迎えてくれる。
だから僕は、初めての店に入ると同時に人差し指を立て、「一人です!」と宣言することにしている。
いつのまにかそれがクセになってしまい、ついには理容店に入ったときにも「一人です」をやったことがある。
「そりゃそうだろう……」と言いたげな理容店のオヤジの顔は、忘れられない。