自転車に乗ったタコが現れる? 象や牛もいる西荻窪(地味町ひとり散歩 23)

この日、吉祥寺のアップリンクという映画館で「酔いどれ東京ダンスミュージック」という映画が公開されていました。友達の大槻ヒロノリさんという酔っ払いシンガーを追ったドキュメンタリーで、僕もちょこっと出演しています。上映後のトークショーのゲストとして呼ばれたので、吉祥寺に向かうことになりました。

実はこの二日前にも、同じ映画のゲストとして登壇しました。内容は「大槻さんと石川さんの対談および一曲演奏」。ところが、約束の時間になっても主役の大槻さんが現れません。「えっ、映画にちょろっとしか映っていない僕がひとりで喋らなければならないの!?」と思った瞬間、ようよう大槻さんが登場しました。しかし様子が変なのです。

この映画は酔っ払いシンガーの悲哀を描いたものなので、酔っ払ってやってくるのは仕方ないとしても、その酔い方が尋常じゃなかったのです。ほとんど自力で歩けないほどヘベレケで、壁を伝ってなんとか移動している状態でした。それでも時間が来たのでとりあえずふたりで登壇しましたが、大槻さんはまともに喋れる様子ではありません。歌をうたい始めたと思ったら、途中で脈絡なく止まってわけのわからないことを喋り出したりして、もう無茶苦茶でした。

もっとも、これは酔っ払いの人生模様を描いた映画のトークショー。お客さんに「映画以上に本物の酔いどれだ!」と納得させるのには十分でした。

翌日、大槻さんのツイッターを見てみると「昨日は会場に行ったのだろうか? 石川さんと会ったことも全く記憶にない」と書かれていました。そんな状態でもステージに上がれる人だから、映画の素材になったのでしょうね。ちなみに大槻さんはテレビ東京の「家、ついて行ってイイですか?」でも取り上げられたことがあります。それを観た方も多いかもしれません。

吉祥寺の近くで「地味町」と言えば・・・

というわけで、この日も大槻さんの映画のトークイベントがあったので、吉祥寺に行かなければなりませんでしたが、入り時間が夕方の5時だったので「あ、その前に近くで散歩取材ができるな」と思いました。

ただ、吉祥寺は大きな街で「地味町」ではないので、隣の駅で休日は快速も通過する、西荻窪に行くことにしました。

さて西荻窪ですけれど、今まで取り上げた町と違って、僕にとって全く未知の町というわけではありません。出演させてもらったライブハウスなども多く、何回も降りたことがありました。もっともたいていは目的の店に直行してしまうので、ゆっくり町を歩くのは久しぶりです。

駅を出て歩き始めてみると、「以前に比べ、オシャレな店が増えたな」という印象です。

駅前のアーケード。名物のピンクの象がいました。「あれ、これ撤去されたとニュースで読んだけどな」と思ったら、どうやら三代目のようです。昔の手作りの風合いから、ちょっとファンシーな感じになっています。若干違和感がありましたが、これも何年かしたら馴染んでいくのでしょうね。

この散歩をしたのは、2021年の秋。コロナの感染拡大で、4回目の緊急事態宣言が出ていたころです。西荻窪の駅前の飲み屋街は、昼間ということもありますけど、軒並み「緊急事態宣言の為、今月末まで休業します」という紙が貼り出されていました。なんとも寂しかったですね。

そんな中、数少ない営業中の店もこんな貼り紙が。誰かと一緒に来ても、あっちこっちに離れて座らなければならず、会話も不可ということは「一緒に飯でも食おうや~」という日常もできないということですね。「飯を食う=話をしよう」という意味合いもあるのに、厳しいですね。

またこのころは、コロナの感染防止のためアルコールの提供が制限されていました。お酒が出せないので、飲み屋街なのにクリームソーダ推しの店も出てきました。飲兵衛が焼き鳥やモツ煮込みを食べながらクリームソーダというのはどうなんでしょうか。

「ねえちゃん、メロンソーダもう一杯!」

「あらあら亀さん、飲み過ぎですよ」

なんて会話もあるのでしょうか。

これはおそらく、漢字で書けば「富士コインロッカー」か、「藤コインロッカー」なのでしょう。でも、ルパン三世がやってきて「フ~ジコちゃあ~ん、どこ行っちゃったの!?」と探していたら、突如ロッカーがバンッと開いて「ふふっ、この中に隠れてたのよっ!」という「フジコ・イン・ロッカー」だったら面白いですね。

この辺には自転車に乗ってくるタコがいるのでしょうか。足が8本あると、漕ぐのにちょっと邪魔にも思えます。ぜひ、その現場を見てみたいです。

この整骨院はなんかちょっと怖いです。ド派手じゃなくていいので、できれば丁寧に治していただきたいです。

これは猫がきたら、どう使うのでしょう。僕の好きなつげ義春の漫画に「猫の足の裏をまぶたに当てると冷たくて」というセリフがあるのですが、夏の暑い日に涼を求めて猫を使うのでしょうか。しかしその後、猫にネットなどかけたら、動物愛護団体から苦情がこないでしょうか。心配です。

缶コーヒーの自販機では、ワンピースのキャラクター缶が販売中でした。まあ、こういう自販機は何が出るのかわからないので、缶コレクターの僕としてはスルーして、スーパーやコンビニでキャラクター缶を買うのですが、実は微妙な気分なのです。

もともと僕は「人が集めていない、ゴミと思われているものを集める」というところに興味を持って、缶ジュースを集め始めました。こういう風にメーカー側から「これをコレクションすると、のちのちお宝になりますよ~。コンプリートしてください~」的な感じで出されると、ひねくれている僕は、なんだかちょっと白けてしまうのです。

でもまあコレクターなので、結局は買うことになるのですが、複雑な気持ちになるんですよね。

さて、東の方へ歩いてしばらくすると、バス停がありました。しかし何か変です。「ニヒル牛」。西荻にはこんな地名もあるのでしょうか?

バス停の裏のお店に入ってみました。

なんだか奇妙なお店です。これはなんでしょう。

不思議なロボットや土偶などもありました。

そして、な、なんと、僕のシールやキーホルダーが売られているではありませんか!

はい、すみません。実はここ、僕がプロデュースして、僕の妻がオーナーをやっている、へなちょこアート雑貨店「ニヒル牛」(にひるぎゅう)でした~。

僕が店員をやっているわけではないので、僕自身はめったに来ませんが、西荻にお越しの際は当店にぜひお越しください! 僕を含めた200人以上の作家による、手作りの一点ものばかり見つかるお店です~

ということで、最後は宣伝で失礼しました!

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石川浩司 (いしかわ・こうじ)

1961年東京生まれ。和光大学文学部中退。84年バンド「たま」を結成。パーカッションとボーカルを担当。90年『さよなら人類』でメジャーデビュー。同曲はヒットチャート初登場1位となり、レコード大賞新人賞を受賞し、紅白にも出場した。「たま」は2003年に解散。現在はソロで「出前ライブ」などを行う傍ら、バンド「パスカルズ」などで音楽活動を続ける。旅行記やエッセイなどの著作も多数あり、2019年には『懐かしの空き缶大図鑑』(かもめの本棚)を出版。旧DANROでは、自身の「初めての体験」を書きつづった。

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