真っ黒なネコとオトナの女性の話

すでに取り壊された目黒の飲み屋街の片隅で
すでに取り壊された目黒の飲み屋街の片隅で

「目の前を黒い猫が横切ると縁起が悪い」という。

ならば逆に、自分が黒猫の前を横切る場合は、どうなるんだろう?

そんなことを考えながら、黒猫の前を通りすぎると、丸っこい目が僕を追って動いた。その視線は、大人の女性のように涼しげだ。

そういえば、上京して間もないころは、すれ違う女性と目が合うたびに緊張した。「都会は、大人の雰囲気が漂う、落ち着いた女性であふれている」と胸が高鳴った。

ところがいつのまにか、そんなことがなくなった。女性が皆、幼く見えるのだ。時代が変わってしまったのか、流行りが変わってしまったのか……。

なんてことはない。自分がおっさんになっただけなのだ。

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土井大輔 (どい・だいすけ)

ライター。小さな出版社を経て、ゲームメーカーに勤務。海外出張の日に寝坊し、飛行機に乗り遅れる(帰国後、始末書を提出)。丸7年間働いたところで、ようやく自分が会社勤めに向いていないことに気づき、独立した。趣味は、ひとり飲み歩きとノラ猫の写真を撮ること。好きなものは年老いた女将のいる居酒屋。

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